分析コラム・マーケティングクラスタ
マーケティング職の年収とキャリアの地図
「マーケティング」と一口に言っても、その中身はかなり幅があります。検索やSNS、広告の数字を毎日追いかけるデジタルマーケター、記事や特集を企画して形にするWebライター・編集者、事業全体の集客を設計するマーケター、そして予算と組織を預かるマーケティング責任者。手を動かす対象も、成果の測り方も、年収の伸び方も、働く場所の自由度も、それぞれ大きく違います。同じ「マーケ職」という看板の下に、実際にはかなり性格の異なる仕事が同居しているのです。
本稿では、全国171エリアの公開求人データ(求人ボックスに掲載された求人の月給×12・中央値)を横断し、マーケティング系の主要4職種を「年収の水準」「到達しうる天井」「リモート・地方適性」「キャリアの接続」という4つの軸で俯瞰します。とりわけマーケティングは、営業以上に「地方にいながら都市部水準の仕事ができる」職種群です。その理由も、どの職種から入ってどこへ登っていけるのかも含めて、転職や職種選びのときに広げて眺められる一枚の地図として使ってください。
全国171エリア/4職種/集計: 公開求人 月給×12 中央値
1. 入口の年収は横並び。差がつくのは"専門性と統括"の天井
まず、全国の中央値(月給×12ベース)を高い順に並べてみます。
マーケティング責任者・マネージャーとマーケター(いずれも360万)が並び、そこにデジタルマーケター(350万)が続き、最も低いのがWebライター・編集者(300万)です。4職種は300〜360万という、わずか60万の幅のなかに密集しています。営業クラスタ(300〜384万)と比べてもさらに横並びで、入口の中央値だけを見比べても、職種ごとの差はほとんど浮かび上がってきません。「どのマーケ職を選んでも、最初の給料はだいたい同じ」というのが、データの示す現実です。
ところが、それぞれの職種が「経験と専門性を積んだ先に到達しうる年収」に目を移すと、景色は一変します。
- マーケティング責任者・マネージャーは、マーケ全体を統括するCMOクラスで年収1500万以上
- マーケターは、事業会社のマーケ責任者やPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)の経験を積んで1000万超
- デジタルマーケターは、広告運用やSEO戦略設計の専門性を武器に700〜900万
- Webライター・編集者も、オウンドメディアの立ち上げや編集長の経験で500〜800万
注目したいのは、入口の中央値が最も低いWebライター(300万)でさえ、記事を書く側からメディアを立ち上げ束ねる側に回れば、800万が視野に入ってくることです。入口では60万に収まっていた差が、天井では2倍から4倍以上に開いていく。マーケティングは「最初にいくらもらえるか」ではなく、どの専門性を深め、どこまで統括の側に回るかで生涯年収が決まっていく職種群だと言えます。
だからこそ、入口の中央値の低さを理由にマーケティングを避けたり、いま就いているマーケ職の給料が伸び悩んでいるからと諦めたりするのは、この分野ではとくにもったいない判断になります。見るべきは足元の数字ではなく、その職種が持つ天井の高さと、そこへ至る道筋のほうです。
表:全国中央値(月給×12)と、各職種で到達しうる天井の目安。数値をタップで職種別ページへ。
2. マーケは「地方にいながら都市部の仕事」が最も現実的なクラスタ
マーケティング最大の特徴は、クラスタ全体でリモート親和性が高いことです。仕事の主戦場が検索・広告・SNS・コンテンツといったオンライン上にあるため、成果物も評価もオンラインで完結しやすく、勤務地に縛られにくい。結果として、フルリモート求人が他の職種群よりも豊富に存在します。
実際に、出社中心の求人とフルリモート求人の年収中央値を並べてみると、次のようになります。
- Webライター・編集者:出社中心 300万 → フルリモート 337万
- デジタルマーケター:出社中心 350万 → フルリモート 360万
- マーケター/マーケティング責任者:出社・リモートともに 360万(下がらない)
Webライターとデジタルマーケターは、フルリモート求人の中央値が出社中心を上回ります。これは、フルリモート求人が「全国どこからでも採用したい、専門性の高いポジション」に偏るためで、地方に住みながら都市部水準の相場を取りにいけることを意味します。統合マーケターやマーケ責任者にしても、リモートで出社と同水準の360万を保っており、少なくとも「リモートにすると下がる」ということはありません。つまり「地方に移ると年収が下がる」という前提が、マーケティングではほぼ成立しないのです。
とりわけデジタルマーケター(SEO・広告・SNS)とWebライター・編集者は、本サイトのUIターン適性評価で「極めて高い」に分類される職種です。施策がオンライン中心で、成果がアクセス数・コンバージョン・公開記事といった形で明確に残るため、どこに住んでいるかではなく、何を出せるかで評価されやすい。この「成果が居住地から切り離されている」という性質が、地方在住者にとって決定的に有利に働きます。
さらにマーケティングは、副業やフリーランスから正社員への接続がしやすいクラスタでもあります。ライティングや広告運用は業務委託から始めやすく、実績を積んでから正社員のオファーにつなげる、という順路が現実的に描けます。地方在住のまま、都市部のSaaS企業のデジタルマーケターになる。あるいは副業ライターとして始めて、地方企業のオウンドメディア責任者に迎えられる。そうしたキャリアが、他のどの職種群よりも自然に成立するのがマーケティングです。
- マーケ責任者 360万 400万 ↑ 中
- マーケター 360万 360万 高
- デジタルマーケ 350万 360万 ↑ 極高
- Webライター/編集 300万 324万 ↑ 極高
表:出社中心とフルリモートの中央値。「↑」= フルリモートが出社を上回る職種。UIターン列は本サイトの職種別リモート適性評価。
3. 年収を上げる分岐点は「デジタル運用 × BtoB/SaaS × 統括」の3枚
4職種それぞれで「500万〜800万の壁を越える条件」を並べていくと、職種の違いを越えて、同じキーワードが何度も顔を出します。バラバラに見える攻略法は、実は3枚のカードに集約できます。
① デジタル運用の実績。 GA4(Google Analytics 4、アクセス解析ツール)やGTM(Google タグマネージャー、計測タグの管理ツール)を使った計測・分析、リスティングやSNS広告の運用、SEOの戦略設計とSNSアカウントの運用。こうした「数字で語れるデジタル運用スキル」は、どのマーケ職でも年収を+100〜250万押し上げる共通の武器になります。マーケティングの世界では、施策の巧拙が最終的にアクセスや売上という数字に跳ね返ります。だからこそ、手を動かして数字を動かせる人は、そのまま単価に反映されていきます。感覚ではなくデータで打ち手を語れること、それがまず一枚目のカードです。
② BtoB/SaaSマーケティングの経験。 BtoB SaaSでのリード獲得の実績があれば+150〜250万、PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)としての経験があれば+200〜400万の上乗せが見られます。SaaSビジネスは、獲得したリードがそのまま事業成長に直結する構造を持つため、そこで成果を出した経験は市場価値を一段引き上げます。「マーケができる」ではなく「事業を伸ばすマーケができる」という証明が、二枚目のカードです。
③ 統括・立ち上げの経験。 マーケティング組織そのものを統括する、CMOとして予算と戦略を管掌する、あるいはオウンドメディアをゼロから立ち上げて編集長を務める。いずれも「予算と人と数字を持つ」という点で共通しています。一人のプレーヤーとして施策を回す立場から、チームや事業の数字に責任を持つ立場へ移ること。この移行が、実務担当から管理職・経営層への年収ジャンプを生みます。これが三枚目、最も大きく効くカードです。
裏を返せば、「デジタル運用」「BtoB/SaaS」「統括・立ち上げ」のどれか1枚を意識して取りにいくだけで、いまのマーケ職の年収帯を一段引き上げられる、ということです。目の前の施策を漠然と回し続けるのではなく、この3枚のうち次にどれを取りにいくかを決める。それが、遠回りに見えて最短のルートになります。
4. キャリアの地図:マーケ4職種は「手段 → 統合 → 統括」でつながっている
マーケティングの各職種は、それぞれ独立して存在しているわけではありません。手段 → 統合 → 統括という3つの層で、ゆるやかにひとつながりになっています。
手段の層にいるのが、デジタルマーケター・Webライター・編集者です。SEO・広告・SNS・コンテンツといった具体的な「打ち手」を身につけ、その成果を数字とアウトプットで出していく段階。マーケティングの土台をつくる層であり、未経験や副業からの入口としても入りやすく、リモート適性も最も高いのがこの層です。まずはここで、一つの武器を磨きます。
統合の層にいるのが、マーケター(BtoB・BtoC・Web)です。個別の手段を束ね、事業全体の集客と獲得を設計する段階。「どのチャネルに、いくら投じて、何を得るか」を考える、手段と経営の橋渡し役です。一つの打ち手の担当者から、複数の打ち手を組み合わせて成果を最大化する設計者へと、視点が一段引き上がります。
統括の層にいるのが、マーケティング責任者・マネージャーです。予算・戦略・組織を預かり、事業成長のエンジンとしてマーケティング全体を回す段階。そしてその先に、経営の一角としてのCMOがあります。ここまで来ると、扱うのは施策ではなく事業そのものになります。
現場でよく見られる動き方としては、代理店でデジタル運用を覚えてから事業会社のマーケティングへ移る、副業ライターから正社員の編集者になりオウンドメディアの責任者へ進む、デジタルの実務担当から統合マーケター、さらにマーケ責任者・CMOへと登っていく、そして地方在住のフリーランスから都市部SaaSの正社員マーケター(フルリモート)に転じる、といったルートが代表的です。共通するのは、最初に選んだ「手段」は終着点ではなく、その先の統合・統括へ登っていくための足場になるということ。いま立っている場所は、地図の上では通過点にすぎません。
まとめ:この地図の使い方
ここまで見てきた4つの軸を、目的別の指針に落とし込むと、次のようになります。
- 地方にいながら都市部水準で働きたいなら、まずデジタルマーケター(SEO・広告・SNS)かWebライター・編集者から。リモート適性が最も高く、副業・フリーランスからの接続もしやすい入口です。ここで数字とアウトプットの実績をつくることが、その後のすべての土台になります。
- 年収の天井を上げたいなら、「デジタル運用」の実績を土台に、BtoB/SaaSマーケの経験を足していく。そこからさらに、統合マーケター、マーケ責任者・CMOへと、統括の側へ回っていくこと。天井は、専門性と責任範囲の広さで決まります。
- 今のマーケ職のまま伸ばしたいなら、「デジタル運用・BtoB/SaaS・統括/立ち上げ」の3枚のうち、次の1枚を具体的に決めて取りにいく。漠然と頑張るのではなく、取るカードを決めることが年収を動かします。
マーケティングは、入口の給与だけで判断すると、その本質を見誤ります。天井の高さ、リモートの自由度、キャリアの接続まで含めて眺めれば、地方にいても、未経験や副業からでも、都市部水準の仕事と年収に手が届く道筋が必ず引ける。それが、この分野の最大の魅力です。
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この記事に出てくる各職種の全国データ
それぞれの職種について、47都道府県・171エリアの地域別/働き方別(出社・ハイブリッド・フルリモート)の中央値を確認できます。
※ 集計仕様:本稿の数値は公開求人の提示給与中央値(月給×12)です。在職者の実年収(e-Stat 賃金構造基本統計)とは集計仕様が異なります。集計の詳細は運営・集計方針をご覧ください。
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