グローススタジオレポート

分析コラム・働き方

フルリモート求人が現地相場より高い理由

「フルリモートは自由だけど、年収は下がる」。転職や働き方を考えるとき、多くの人がそう思っています。実際、リモートワークには「都心のオフィスに縛られない代わりに、給与も少し落ちる」というイメージがつきまといます。

でも、公開求人のデータを見ると、そのイメージは多くの職種で逆でした。フルリモート求人の中央値は、現地の出社中心の求人を上回っていることが多いのです。法務、エンジニア、経理、カスタマーサクセスといった職種では、フルリモートで募集される求人のほうが、現地で出社前提に募集される求人より高い水準を提示しています。

本稿では、この「フルリモートのほうが高い」がなぜ起きるのか、その差はどの職種で大きく、どの職種で小さいのか、そして自分がどの地域にいるかで話がどう変わるのかを、全国171エリアの公開求人データ(月給×12・中央値)から読み解きます。結論を先に言えば、フルリモートが年収を上げるのではありません。フルリモートで採られるだけの人材に、高い給与がついているのです。そしてその差は、あなたの職種と住む場所の組み合わせで変わります。

全国171エリア/30職種/集計: 公開求人 月給×12 中央値

1. なぜフルリモート求人は、現地の相場より高いのか

まず、因果を正しく押さえます。「リモートにすれば給与が上がる」のではありません。順番は逆です。

フルリモートは、企業にとって管理コストの高い働き方です。オフィスで隣に座っていれば、進捗はその場で見えるし、困っていればすぐ声をかけられます。ところがフルリモートでは、それができません。目の前にいない人に仕事を任せるには、その人が自分で段取りを決め、成果を出し、必要な報告を自分から上げてくることが前提になります。つまり、自走できる力が要ります。

だから企業は、フルリモートを許すかわりに、自走できるスキルと、任せてもよいと思える実績を持った人を求めます。そして、そういう人材なら全国どこに住んでいても採りたいと考えます。結果として、フルリモート求人は「勤務地は問わないが、レベルは問う」求人になります。高い給与がついているのは、リモートだからではなく、そのレベルの人を全国から集めているからです。

この構造を頭に入れると、データの見え方が変わります。フルリモート求人の中央値は、その職種で「自走できる人材に、全国の企業がいくら払っているか」を映した数字です。そして、いま現地の相場で働いている人にとっては、それが「スキルを上げて全国の求人に手が届いたときの伸びしろ」になります。本稿で「現地相場」と呼ぶのは、そのエリアの出社中心の求人の中央値です。地域ごとに違います。

2. フルリモートが高いのは、成果が場所に依存しない職種

では、どの職種でフルリモート求人が高いのか。現地相場を全国でならした中央値と、フルリモート求人の中央値を並べ、差の大きい順に見ます。

  • 法務・コンプライアンス:現地400万/フルリモート500万(差100万)
  • QAエンジニア:360万/432万(差72万)
  • 既存顧客対応(ルート営業・カスタマーサクセス):350万/420万(差70万)
  • Webエンジニア:350万/420万(差70万)
  • 代理店営業・パートナーセールス:360万/420万(差60万)
  • SRE・インフラ・セキュリティエンジニア:360万/420万(差60万)
  • データ・AIエンジニア:360万/420万(差60万)
  • 経理・財務:350万/400万(差50万)
  • 社内SE・情シス:336万/384万(差48万)
  • コールセンター・カスタマーサポート:300万/348万(差48万)
  • プロダクト・Webデザイナー:336万/384万(差48万)

上位に並ぶ職種には、はっきりした共通点があります。成果が、場所に依存しない形で残ることです。法務は契約書やレビューという文書で成果が残り、対面がなくても評価が成り立ちます。エンジニアは設計から実装、コードレビューまでオンラインで完結します。経理や社内SEは、成果が帳票やデータという形で残ります。カスタマーサクセスやコールセンターは、そもそも顧客とのやり取りがオンラインで完結する職種です。

こうした職種は、フルリモートを前提に「全国から専門人材を採りたい」という求人が、都市部の事業会社から出ます。地元の出社求人がその地域の相場に引っ張られるのに対し、フルリモート求人は都市部の企業が全国に向けて出すため、中央値が高くなります。ただし、この差はあくまで現地相場を全国でならした値です。実際にどれだけの伸びしろになるかは、あなたがどこに住んでいるかで大きく変わります。ここからが本題です。

表:現地相場を全国でならした中央値と、フルリモート求人の中央値、その差(伸びしろ)。数値をタップで職種別ページへ。差は住む場所で変わります(次章)。

3. 伸びしろは、住む場所で変わる。これがこの記事の要点

フルリモートは全国でほぼ一つの水準です。ところが現地相場は、東京・大都市・地方で大きく違います。だから「フルリモートが現地よりどれだけ高いか」は、職種と場所の組み合わせで決まります。Webエンジニアを例に、具体的に見ます。

Webエンジニアのフルリモート求人は、全国で420万です。一方、現地相場は住む場所で大きく違います。東京455万、大阪400万、名古屋374万、仙台340万、地方の中核都市では350万前後。ここから、正反対のことが起きます。

東京でWebエンジニアをしているなら、出社の現地相場455万のほうが、フルリモート420万より高くなります。都市の出社市場が最も厚いこの職種では、フルリモートに移るとむしろ下がります。「リモートにすれば上がる」が成り立たない、何よりの証拠です。ところが、現地相場が350万前後のエリアで働いているなら、フルリモート420万は+70万ほどの伸びしろになります。同じWebエンジニアという職種でも、住む場所によって、フルリモートが上か下かが逆転するのです。

法務も同じ構造です。東京の現地相場は500万で、フルリモートと同じです。東京にいる法務担当者にとって、フルリモートは伸びしろになりません。ところが現地相場が400万前後のエリアなら、フルリモート500万まで+100万近い伸びしろがあります。

反対に、カスタマーサクセス・社内SE・一般事務は、東京の現地相場すらフルリモートが上回ります。カスタマーサクセスは東京の現地400万に対しフルリモート420万、社内SEは東京360万に対し384万、一般事務は東京276万に対し336万。顧客対応や事務のように、オンラインで完結し全国採用が主流の職種は、東京にいても地方にいても、フルリモートに伸びしろがあります。

つまり、自分の伸びしろを知るには、平均で見てはいけません。「自分の職種 × 自分の現地相場」で見る必要があります。次の3つのセクションで、職種のタイプごとに、この見方を具体化します。

4. エンジニア系:地方ほど伸びしろが大きく、都市は現地が厚い

エンジニア(Webエンジニア・データ・AIエンジニア・SRE・QAエンジニア・社内SE)は、伸びしろの大きい代表格です。ただし、都市と地方で読み方が逆になります。

地方で働くエンジニアには、フルリモートは大きな伸びしろです。データ・AIエンジニアは仙台の現地336万に対しフルリモート420万で+84万、Webエンジニアも同様に地方の350万前後からフルリモート420万で+70万。地方の受託開発(システムを請け負って作る会社)や社内SEで経験を積んだ人が、その技術力を武器に全国のフルリモート求人へ手を伸ばせば、住む場所を変えずに相場を都市水準へ乗せ替えられます。

一方、都市のエンジニアには、フルリモートが現地を下回ることがあります。Webエンジニアは東京455万、データ・AIエンジニアは東京500万と、都市の出社求人がフルリモートを上回ります。都市には高単価の案件を持つ事業会社が集まり、出社を前提にした求人こそが最上位だからです。東京でこれらの職種にいるなら、無理にフルリモートを探すより、出社やハイブリッドの求人を軸にしたほうが年収は高くなります。

例外的なのが札幌です。札幌はデータ・AIエンジニア450万、SRE441万と、地方でありながらエンジニアの現地相場が全国のフルリモート水準を上回ります。福岡もSRE410万とフルリモート420万に迫ります。エンジニアの現地市場が厚い都市では、地方であっても現地の出社求人が有力な選択肢になります。地域ごとの詳しい相場は、地方別の分析コラムでも確認できます。

5. 管理部門:法務は差が大きく、経理・総務は堅実に伸びる

管理部門(法務・経理・経営企画・総務)も、フルリモートで相場が上がる職種です。ここは「成果が文書やデータで残る」という性格がはっきりしているため、勤務地に縛られにくい領域です。

なかでも法務は、全職種で最も差が大きい職種です。フルリモート求人は500万で、これは東京の現地相場と並ぶ水準です。地方の法務担当者が全国のフルリモート求人に届けば、現地400万前後から+100万近い伸びしろになります。契約書のレビューや法的リスクの判断は、対面でなくても成果が明確に残るため、企業も安心して全国から採れる職種です。

経理・財務はフルリモート400万で、地方の現地相場346万前後から+50万ほど、総務は360万で+36万ほどです。派手さはありませんが、堅実に伸びる職種です。経営企画は東京や仙台では現地450万・400万と高く、都市では現地が有力ですが、地方では現地からフルリモートへ+40万ほどの伸びしろがあります。管理部門は、決算・開示・制度設計といった「専門性を積めば全国で通用する」スキルが効く領域で、地方にいながら都市水準を狙いやすいクラスタです。

6. オンライン営業・顧客対応:どの地域からでも伸びしろがある

カスタマーサクセス・コールセンター・インサイドセールスのような、顧客とのやり取りがオンラインで完結する職種は、フルリモートととても相性が良い領域です。

カスタマーサクセスは、この記事のなかでも特徴的です。フルリモート420万は、東京の現地相場400万すら上回ります。つまり、東京にいても地方にいても、フルリモートに伸びしろがあります。地方の現地相場336万前後からなら+84万に達します。顧客の成功を支える仕事は、オンラインの打ち合わせと記録で成り立つため、企業が全国から採りやすく、専門人材の奪い合いで相場が上がっています。

コールセンター・カスタマーサポートも、フルリモート348万で、地方の現地相場300万から+48万。入口に近い職種でも、フルリモートは東京の現地324万を上回ります。「事務やサポートは地方で下がる」という通念とは逆の動きです。ただしインサイドセールスは、フルリモート350万に対し現地も336〜360万と近く、伸びしろは小さめです。同じオンライン営業でも、職種によって差の大きさは変わります。

7. 伸びしろが小さい職種。全国市場が薄いか、地域で動かないか

すべての職種に伸びしろがあるわけではありません。差が小さい、またはゼロの職種もあります。理由は2つに分かれます。

ひとつは、そもそも全国のフルリモート市場が薄い職種です。金融営業・ファイナンシャルプランナーは、地場の顧客との対面が価値になります。信頼関係を対面で築く仕事のため、フルリモートで採る求人自体が少なく、現地384万に対しフルリモート400万と、差はわずか16万ほどです。製造業・ハードウェアエンジニアも、試作や実機という現場が要るため、フルリモートに乗りにくい職種です。現地400万・フルリモート400万で、差はありません。こうした職種は、スキルを上げても、フルリモートで採る求人自体が少ないため伸びしろが出にくいのです。

もうひとつは、地域で相場が動かない職種です。マーケター(BtoB・BtoC・Webマーケティング)は、東京では400万ですが、大阪・名古屋・福岡・地方のいずれでも360万前後で横並びです。フルリモートも360万で、地方の現地と差がありません。市場が地元とリモートで分かれていないため、働き方を変えても相場は動きません。

これらの職種で年収を上げる手は、市場を移すことではなく、スキルそのものです。マーケターならSEOや広告運用の専門を深め、金融営業なら扱う商品や顧客層を上げます。市場ではなく中身を上げるこの一手が、現地でもリモートでも効きます。

8. 東京で働いている人へ:フルリモートが最適とは限らない

ここまでで分かるように、東京で働いている人にとって、フルリモートは必ずしも得ではありません。

Webエンジニア、データ・AIエンジニア、経営企画のように、都市の出社市場が厚い職種では、東京の現地相場がフルリモートを上回ります。これらの職種で東京にいるなら、出社やハイブリッド(週数日出社)の求人こそが最上位の選択肢です。フルリモートに移ることは、働き方の自由と引き換えに、年収の天井を下げることになりかねません。

一方、東京にいてもフルリモートに伸びしろがあるのは、カスタマーサクセス・社内SE・一般事務のような、オンライン完結・全国採用が主流の職種です。自分の職種がどちらのタイプかを知ることが、東京在住者にとっての最初の判断になります。働き方を選ぶときは、自由度だけでなく、その職種の相場が都市の出社市場とフルリモート市場のどちらで高いかを、必ず確かめてください。

9. 地方・UIターンを考えている人へ:現地相場を天井にしない

反対に、地方で現地の相場で働いている人にとって、この地図はもっとも大きな意味を持ちます。伸びしろの大きい職種にいるなら、あなたの職種を、全国のフルリモート市場はもっと高く評価しているかもしれない、ということです。

法務なら+100万近く、エンジニアやカスタマーサクセスなら+70〜84万。これは、いまの給与がリモートにすれば自動で上がる額ではありません。全国の企業が、その職種の自走できる人材に払っている水準です。だから大事なのは順番です。フルリモート求人に応募すれば上がるのではなく、フルリモートで採ってもらえるだけのスキルと実績を積むことが先で、その結果として全国の市場が開けます。

UIターンを考えている人にとっても、この見方は使えます。都市を離れて地方に移っても、フルリモートで全国の求人を相手にできる職種なら、地方移住と年収は両立します。「地方に移ると下がる」のは、地元の出社求人だけを見た場合の話です。全国のフルリモート市場を選択肢に入れれば、住む場所と年収を切り離せます。

10. どうやって全国の市場に届くか:スキルの積み方

では、全国のフルリモート市場に届くには何が要るのか。共通するのは「自走できることの証明」です。目の前にいなくても任せられる、と企業に思わせる実績です。

  • エンジニア:クラウド(AWS などの基盤)やモダンな開発言語・フレームワークでの実装経験、設計から運用までを一人称で回した経験
  • 法務:英文契約や特定業界(IT・金融・製造など)の法務知見、事業部門と自走して進めた経験
  • 経理・財務:決算・開示の実務、月次を止めずに回した経験
  • カスタマーサクセス:オンラインで顧客の成果を出した実績、解約を防いだ/拡大させた数字

職種ごとに「いまの年収帯」と「次の年収帯」で求められるスキルの差は、各職種ページの「年収帯別スキル」で具体的に確認できます。地方の受託開発や社内SE、地元企業の管理部門で経験を積んだ人が、そのスキルを武器に都市部のSaaS(クラウド型ソフト)企業のフルリモート職へ移ります。これは「引っ越し」ではなく、「自分を評価する市場を、現地から全国へ広げる」ことです。住む場所を変えずに、相場の天井を上げられます。

11. よくある誤解

「フルリモートにすれば年収が上がる」。これは誤りです。フルリモート求人が高いのは、自走できる人材を全国から採るからで、リモートという働き方そのものが給与を上げるわけではありません。スキルが伴わないままフルリモート求人に応募しても、その水準では採られません。

「フルリモートは年収が下がる」。これも、多くの職種では誤りです。法務・エンジニア・カスタマーサクセス・管理部門では、フルリモートのほうが現地より高くなります。ただし、東京の一部の専門職では現地のほうが高く、職種と地域で結論が変わります。

「求人票にフルリモートと書いてあれば同じ」。これも違います。フルリモート求人には、全国から高スキル人材を採る本格的なものと、単に在宅可というだけのものが混在します。提示年収と求められるスキルをセットで見て、自分の実績で狙える求人かを見極めることが大切です。

まとめ:この地図の使い方

  • フルリモート求人が高いのは、リモートだからではなく、自走できる人を全国から高く採るからです
  • 伸びしろは職種と住む場所で変わります。地方の現地相場が低いエリアほど大きく、東京の専門職ではむしろ現地の出社相場のほうが高いことがあります
  • カスタマーサクセス・社内SE・事務のように、東京の現地すらフルリモートが上回る職種もあります
  • 金融営業・マーケター・製造のように伸びしろが小さい職種は、市場ではなくスキルで年収を動かします

「リモート=下がる」でも「リモートにすれば上がる」でもありません。フルリモートで採られる人材に、高い給与がついています。だから、まず自分の職種と現地相場が全国の市場とどれだけ差があるかを知り、そこに届くスキルを積むことが大切です。現地の相場だけを自分の天井だと思わないことが、この地図の使い方です。

この記事に出てくる各職種の全国データ

それぞれの職種について、47都道府県・171エリアの地域別/働き方別(出社・ハイブリッド・フルリモート)の中央値を確認できます。

主要エリアの現地相場は、都道府県ごとにも確認できます。

※ 集計仕様:本稿の数値は公開求人の提示給与中央値(月給×12)です。在職者の実年収(e-Stat 賃金構造基本統計)とは集計仕様が異なります。集計の詳細は運営・集計方針をご覧ください。

採用担当・経営者の方へ: 同じデータを「採用市況」の視点で見るなら 採用市況レポート(企業向け) へ。フルリモートを含む近隣・全国の相場感から、自社の採用体制の見直しを検討できます。

← 分析コラム一覧へ