分析コラム・地域クラスタ
北信越で稼げる職種の年収地図
「地方に住むと年収が下がる」。UIターンや地方移住を考えるとき、多くの人がここで足を止めます。北信越(新潟・長野・富山・石川・福井)は、域内に東京や名古屋のような大都市を持たない、地方らしい地方です。だからこそ、下がる職種は確かにあります。けれど、その多くはフルリモートで都市部の水準を持ち込めます。そして地場や対面が価値の職種は、地元でも都市とほとんど変わりません。
大事なのは、下がるかどうかより、あなたの職種で年収を何が動かすかです。本稿では、全国171エリアの公開求人データ(求人ボックスに掲載された求人の月給×12・中央値)をもとに、北信越の主要職種を、東京と比べながら読み解きます。どの職種が稼げるのか、東京との差はどれくらいか、その差をどう埋めるのか。移住や地元での転職を考えるときの、一枚の地図として使ってください。
全国171エリア/主要25職種/集計: 公開求人 月給×12 中央値
1. 稼げる職種は県ごとに違う。石川は技術、福井は金融営業
まず、北信越で募集される職種の地元中央値(月給×12ベース)を、高い順に並べます。
頭ひとつ抜けるのが法務・コンプライアンス(400万)。続いて営業責任者・セールスマネージャー(365万)、金融営業・ファイナンシャルプランナー(360万)、経営企画(355万)。その下は、SRE・QA・アプリエンジニア・マーケティング責任者などが360万で並び、経理・財務(346万)やWebエンジニア(348万)が続きます。入口に近いのがインサイドセールス(300万)や一般事務・コールセンター(300万)です。
北信越の特徴は、県ごとに強い職種が分かれることです。石川(金沢)は技術系、長野・富山は法務、福井は金融営業と、稼げる職種が県で違います(5章の県別で後述)。ランキング上位は法務や地場の対面職で、大都市がないぶん全体は控えめですが、専門性の高い職種は東京に近い入口を持ちます。
表:主要25職種の地元中央値。専門職(PdM・デザイナー等)は求人数の関係で表から除き、本文の職種クラスタで扱います。
2. 東京から下がる職種と、地元でも下がらない職種
同じ職種を東京と比べると、差の大きさは職種によって変わります。地方でのキャリアは、この差を職種ごとに見るところから始まります。
差がほとんどない職種があります。金融営業・ファイナンシャルプランナーは、福井で地元400万と東京と同水準。一般事務・営業事務にいたっては、北信越が全県300万に対し東京が276万で、地方のほうが高いという逆転すら起きています。対面や地場の需要が価値になる職種、都市に集約されにくい職種は、地元でも都市と変わりません。
一方で、差が大きく開く職種もあります。東京と比べると、マーケティング責任者は550万・北信越360万(差190万)、データ・AIエンジニアは500万・350万(差150万)、代理店営業は462万・350万、Webエンジニアは455万・348万。アプリエンジニア(450万・360万)や経営企画(450万・355万)、Webライター(400万・309万)も、100万前後の差があります。専門職と統括職は、案件が都市の事業会社に集中するため、差が開きます。逆に言えば、差の大きさは職種の性格で決まっていて、地方に住むこと自体が一律に年収を下げるわけではありません。
差が小さい職種は、地元で都市と戦えます。差が大きい職種は、次の一手で埋めます。
- マーケ責任者 360 550 400 ↑ +190 要リモート・通勤
- データ・AI 350 500 420 ↑ +150 要リモート・通勤
- 代理店営業 350 462 420 ↑ +112 要リモート・通勤
- Webエンジニア 348 455 420 ↑ +107 要リモート・通勤
- 法務 400 500 500 ↑ +100 要リモート・通勤
- QAエンジニア 360 460 432 ↑ +100 要リモート・通勤
- 経営企画 355 450 400 ↑ +95 一手で埋まる
- Webライター 309 400 324 ↑ +91 一手で埋まる
- アプリエンジニア 360 450 400 ↑ +90 一手で埋まる
- SRE・インフラ 360 450 420 ↑ +90 一手で埋まる
- ルート/CS 312 400 420 ↑ +88 一手で埋まる
- 営業責任者 365 450 400 ↑ +85 一手で埋まる
- 人事 312 384 360 ↑ +72 一手で埋まる
- インサイドセールス 300 360 350 ↑ +60 一手で埋まる
- 経理・財務 346 400 400 ↑ +54 一手で埋まる
- デジタルマーケ 348 400 360 ↑ +52 一手で埋まる
- 金融営業 360 400 400 ↑ +40 地元で戦える
- マーケター 360 400 360 +40 地元で戦える
- 個人営業 324 360 360 ↑ +36 地元で戦える
- 総務 324 360 360 ↑ +36 地元で戦える
- 法人営業 325 360 360 ↑ +35 地元で戦える
- BizOps 330 360 372 ↑ +30 地元で戦える
- コールセンター 300 324 348 ↑ +24 地元で戦える
- 社内SE・情シス 336 360 384 ↑ +24 地元で戦える
- 一般事務 300 276 336 ↑ -24 地元が上
数値は万円。「東京との差」= 東京中央値 − 地元中央値。フルリモート↑= フルリモート中央値が地元を上回る職種。
3. 差を埋める手は3つ。北信越では「リモート」が主役
年収を動かす手は、大きく3つに分かれます。そしてどの手が効くかは職種で決まっています。大都市への通勤が使いにくい北信越では、リモートが主役のレバーになります。
① リモートにして、都市水準の求人を取る。 北信越でリモートの効果が最も大きいのはカスタマーサクセスで、地元312万→420万と108万上がり、東京の400万を超えます。法務も北信越400万→リモート500万で東京に並びます。東京の中央値に届く、あるいは超えるフルリモート職は10あり、経理(346万→400万)もそこに入ります。社内SE(336万→384万)とBizOps(330万→372万)も、リモートで東京超えに転じます。エンジニアもリモートで420万前後の帯に入ります。地方の受託開発や社内SEから、都市部SaaS(クラウド型ソフト)企業のフルリモート職へ移るだけで、住む場所を変えずに年収帯が上がる、ということが現実に起きます。とくに法務やエンジニアのように差が大きい職種ほど、リモートで埋まる幅は大きくなります。
② 県内の中核都市へ、または新幹線で都市へ。 大都市はなくても、県内の中核都市に通える範囲を広げると相場は上がります。Webエンジニアは、新潟・長野・石川とも、県内の中核都市(長岡・上田・小松など)への通勤圏で400万に届き、地元より+40〜50万。さらに長野・富山・石川・新潟は新幹線で東京につながり、出社頻度の低いハイブリッド勤務なら、都市部の求人も選択肢に入ります。金沢を持つ石川は、県内でも中核都市の受け皿がしっかりしています。
③ 今の職種のまま、スキルで年収帯を上げる。 通勤もリモートも届きにくい職種にも、残された手があります。職種を変えずに、いまの仕事の延長で、上の帯で問われるスキルを積む道です。Webエンジニアやデータ・AIなら、クラウド(AWS)とモダンな開発言語の経験が、500万台の求人で問われます。石川(金沢)のようにエンジニアが集まる県なら、その経験を積める職場が地元にもあります。マーケターなら、SEOや広告運用のような専門領域を深掘りするほど単価が上がります。どの帯で何が必要になるかは、各職種ページの「年収帯別スキル」にまとめています。通勤やリモートで場所の制約を外したうえでスキルで帯を上げれば、北信越のどこに住んでいても年収は動かせます。
まず、自分の職種にどの手が効くのかを見極めるところから始めます。手を取り違えると上がりません。地場・対面の金融営業がフルリモートを探しても横ばいですし、エンジニアなら通勤圏を広げるよりリモートのほうが効きます。
4. 職種クラスタ別の特徴
クラスタごとに、効く手と都市との距離感が違います。
営業(8職種)。 地場・対面の営業は、地元にいても水準が落ちにくいクラスタです。営業責任者は北信越でも365万と手堅く、金融営業は福井で東京と同じ400万。一方、法人営業・インサイドセールス・カスタマーサクセスといったオンライン職はリモート型で、フルリモートなら360〜420万まで上がります(カスタマーサクセスは地元312万→420万で東京超え)。対面かオンラインかで、効く手が分かれるクラスタです。
コーポレート(管理部門・6職種)。 リモートで最も都市に並ぶクラスタですが、地元水準は職種でばらつきます。法務は北信越でも400万と高く、リモートで東京と同じ500万へ。一方、人事312万・総務324万は地元が低いぶん、リモートの伸びしろが大きく、総務は360万まで、人事も都市の求人が視野に入ります。経理346万も400万まで届きます。書類で成果が残る職種が多く、専門性を積めば地元にいながら都市水準を狙える領域です。
エンジニア(6職種)。 東京との差が大きい一方、リモートで最も埋まるクラスタです。地元は348〜360万ですが、フルリモートに乗せると420万前後まで届きます。とくに石川(金沢)はエンジニアが強く、SREは地元400万、QAは384万と、北信越の中では高い水準です。Webエンジニアは348万→420万、データ・AIエンジニアは350万→420万と、リモートで大きく持ち上がります。開発はオンラインのやりとりで回る現場が増え、地方にいながら都市部の開発チームに入れます。
マーケティング(4職種)。 マーケティング責任者は東京550万に対し北信越360万で、統括のポストは都市に集まります。マーケター・デジタルマーケターの実務職は北信越でも360万前後と、場所を変えても水準はほぼ動きません。効くのはスキルで、SEOや広告運用など得意領域の深さが単価を左右します。統括まで届きたいなら、案件が集まる都市の事業会社(フルリモート含む)が現実的です。
専門職(PdM・デザイン・映像)。 動画・映像クリエイターは地元350万と北信越では高めで、作品で評価される職種のため、フリーランスで都市の案件も受けられます。プロダクト・Webデザイナーは地元324万→フルリモート384万と、リモートで都市水準に近づきます。プロダクトマネージャー(PdM=何を作るかを決める司令塔)は地元でも高く、リモートで500万前後の求人が視野に入ります。
5. 県別の特徴
同じ北信越でも、県ごとに強い職種が違います。自分の職種が強い県を選ぶ、という読み方もできます。
石川(金沢)。 SRE・インフラ400万、QAエンジニア384万とエンジニアが強く、法務も400万。金沢という中核都市を持つ北信越のハブで、技術系の専門職を地元で狙えます。県内の通勤圏や北陸新幹線での東京アクセスも選べます。
長野。 法務442万が北信越で最も高く、営業責任者384万と統括も手堅い県です。新幹線で東京につながり、ハイブリッド勤務も選びやすい位置にあります。
富山。 法務422万・SRE378万・営業責任者365万が上位です。ものづくりの土台があり、北陸新幹線で東京へ出やすく、エンジニアはリモートで都市水準に届きます。
新潟。 法務400万・マーケティング責任者400万・SRE380万が上位で、北信越で最も人口の多いエリアです。上越新幹線で東京とつながり、ハイブリッド勤務も選べます。
福井。 金融営業400万が東京と同水準で、法務396万・営業責任者370万と堅実に稼げる職種がそろう県です。地場・対面の専門職が下がりません。リモートを併せれば、エンジニアなどの専門職も引き上げられます。
全県に共通する事実。 一般事務は全県で東京(276万)を上回ります。法務はどの県でも稼ぎ頭で、地場・対面の専門職は北信越のどこでも下がりにくい。
まとめ:この地図の使い方
北信越でのキャリアは、2つの問いに分解できます。自分の職種は東京とどれだけ差があるか。そして、その差を埋める手は、リモートか、県内の通勤か、スキルか。
- 差が小さい職種(金融営業や事務)は、地元で都市と変わらず稼げます
- 差が大きい職種(エンジニア・統括・高度専門)も、リモートを主役に、通勤やスキルで年収帯は動きます
- 石川のように技術が強い県もあれば、福井のように金融営業が東京並みの県もあり、県ごとに稼げる職種が違います
北信越は大都市を持ちませんが、リモートを使えば都市水準の仕事に手が届き、県ごとに専門の強みがあります。入口の中央値や「地方だから」だけで判断せず、自分の職種の差と、効く手を確かめてください。
※ 集計仕様:本稿の数値は公開求人の提示給与中央値(月給×12)です。在職者の実年収(e-Stat 賃金構造基本統計)とは集計仕様が異なります。集計の詳細は運営・集計方針をご覧ください。
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