グローススタジオレポート

分析コラム・スキルと年収

30職種の年収を分けるスキル

求人データを職種ごとに見ていくと、同じ職種でも年収に幅があります。その幅は、経験年数だけでは説明がつきません。この差の正体を確かめるため、30職種それぞれの「年収帯ごとに求人票が求めるスキル」を一枚に並べ、横断して比較しました。

比較すると、職種の中身は大きく異なるにもかかわらず、スキルの積み上がり方には共通の型がありました。営業・経理・エンジニアのいずれも、年収の帯が上がる境目で求められるものが、よく似ていました。本稿は「年収を上げる方法」を説く記事ではありません。30職種のスキルを横断して並べたときに見える、年収を分ける構造そのものを読み解きます。

先に結論だけ言えば、職種を越えて共通する「壁」は2つありました。そして、その共通構造の中にも、天井の高さという職種差と、同じスキルの値段という地域差があります。全国171エリア・30職種の公開求人データ(月給×12・中央値)と、職種別の年収帯別スキルから、順に見ていきます。

全国171エリア/30職種/集計: 公開求人 月給×12 中央値 + 年収帯別スキル

1. 多くの職種で、中央値は最下位の帯にある

見比べる前に、1つ前提を押さえておきます。ほとんどの職種で、全国の中央値は最も下の帯に位置していました。

Webエンジニアの全国中央値は約350万円で、これは〜500万円帯にあたります。法人営業は336万円、経理・財務は350万円、社内SEは336万円、Webライターは300万円、プロダクトマネージャーでも450万円と、いずれもその職種の最下位の帯に収まります。中位帯や上位帯にいるのは、各職種の一部の人です。中央値、つまり真ん中に立つ多くの働き手は、最初の帯にいます。

このことは、この記事で見る「壁」の意味を決めます。年収の帯を分ける境目は、一部の高年収層だけの話ではなく、多くの人のすぐ目の前にある境目だということです。中央値の位置にいる人にとっては、次の帯との境目、つまり最初の壁が、まず向き合う対象になります。だから本稿は、上位帯の高度なスキルよりも、下位から中位、中位から上位という最初の2つの段差に注目して、30職種を見比べます。

2. この記事の見方(データの土台)

土台にするデータは2つです。1つは全国171エリアの公開求人から集計した職種別の中央値。もう1つは、職種ごとに年収帯を3段階(下位・中位・上位)に分け、それぞれの帯で求人票が求めるスキルを整理した「年収帯別スキル」です。帯ごとに必須スキルと歓迎スキルがあり、下位から中位、中位から上位へ移るときに新しく現れるものが、その帯の「壁」にあたります。

なお、年収帯の境目は職種で違います。多くの職種は〜500万円/500〜800万円/800万円〜ですが、事務やコールセンターは〜350万円から始まり上限が低め、プロダクトマネージャーは〜600万円/600〜1000万円/1000万円〜と全体に高めです。この帯の設定そのものが職種の性格を映していて、あとで見る「天井の差」につながります。数値は公開求人の提示給与の中央値で、在職者の実年収とは集計の仕方が異なります。

3. 職種クラスタ別に見る①:セールス

まず職種のかたまり(クラスタ)ごとに、年収を分けるスキルの違いを確認します。最初はセールスです。

法人営業(BtoB)は、下位帯(〜500万円)が「BtoB営業の実務2〜3年、商談クロージング経験」。中位帯(500〜800万円)で「SaaS・IT営業やエンタープライズ営業の経験、大型案件のクロージング実績」が加わり、上位帯(800万円〜)で「エンタープライズ営業のリード、年間売上1億円超の実績、戦略提案力」に届きます。個人で売れることから、大型案件を動かす専門性へ、そして事業の売上を率いる立場へ、と段階が上がります。

セールスの中でも進み方はそれぞれです。営業責任者・セールスマネージャーは上位帯で「20名規模以上の組織責任者、複数チャネル統括」、その先に「VP of Sales・CRO相当」。インサイドセールスは「SDR/BDRの経験、商談化率改善の実績」から「IS Manager、KPI設計・組織立ち上げ」へ。個人営業(BtoC)は、資格(宅建・FP・保険販売)と高単価商材の販売実績が中位への鍵になります。金融営業は、資格を積みながら富裕層・法人取引を担い、その先で支店長やPB(プライベートバンク)へ進みます。職種は違っても、個人の達成実績が中位への鍵、組織の数字への責任が上位への鍵、という並びはセールス全体で一貫していました。

4. 職種クラスタ別②:コーポレート

コーポレート(経理・法務・人事・総務・経営企画)を並べると、専門性の深さと、上場準備(IPO)の経験が、帯を分けていました。

経理・財務は、下位帯(〜400万円)が「月次決算・仕訳の処理、日商簿記2級」。中位帯(400〜700万円)で「連結決算やIPO準備の経験、日商簿記1級、英文会計」、上位帯(700万円〜)で「経理マネージャーや財務責任者、CPA/USCPA、IFRS、CFO候補レベル」。実務処理から、連結・上場・国際会計という専門の深さへ、そして財務責任者へ、という道筋です。

法務も同じ構造で、「契約書レビュー」から「企業法務5年以上と知財・M&A・コンプライアンスの専門性、英文契約」を経て「法務責任者(GC/CLO)、国際法務」へ。人事は「採用責任者・HRBP、評価制度設計」から「人事責任者(CHRO/VP HR)、組織戦略」へ、経営企画は「新規事業立ち上げやM&A、MBA」から「事業責任者・CSO/CFO候補」へと進みます。このクラスタで特徴的なのは、上場準備(IPO)が横断して現れる点です。上場準備は、経理では「連結決算やIPO準備」、法務では「上場準備の法務対応」、人事では「IPO支援」、総務では「上場準備のIR・総務」として現れます。成長企業の上場という非日常の経験が、これらのコーポレート職ではどれも年収帯を一段上げる条件になっていました。

5. 職種クラスタ別③:エンジニア・専門職

エンジニアとプロダクト専門職は、技術の実装から、設計・クラウド、そして技術選定へと、スキルが積み上がっていました。

Webエンジニアは、下位帯(〜500万円)が「Web開発の実務1〜3年」、中位帯(500〜800万円)で「SaaS・自社プロダクト開発、API設計・パフォーマンス改善の実績、AWS/GCP/Azureの構築運用」、上位帯(800万円〜)で「テックリード・EM、アーキテクチャ設計、技術選定」。クラウドの構築運用が中位、チームを率いる技術リードが上位を分けます。アプリエンジニアは「数百万DL規模のプロダクト開発」、QAエンジニアは「テスト自動化の実装・運用、CI/CD組み込み」が中位の境目。データ・AIエンジニアやSRE・インフラは上位帯が900万円〜と天井が高く、データ基盤やKubernetes、大規模システムの可用性設計が上位を分けます。

このクラスタで特徴的なのがプロダクトマネージャー(PdM)で、〜600万円/600〜1000万円/1000万円〜と、全職種で最も帯が高く設定されていました。中位帯で「PdM経験、KPI設計・ロードマップ策定」、上位帯で「複数プロダクト統括、CPO・VP of Product相当」。プロダクトや事業を動かす職種ほど帯が高く、そのぶん壁も高い。この構造は、のちに見る職種差につながります。

6. 職種クラスタ別④:マーケ・クリエイティブ・事務

マーケティング、クリエイティブ、事務は、天井がやや低めでしたが、スキルの積み上がり方は他と変わりませんでした。

デジタルマーケターは、下位帯(〜400万円)が「広告・SEO・SNSの運用1〜2年」、中位帯(400〜700万円)で「運用予算月100万円以上、CPA・ROAS改善の定量実績」、上位帯(700万円〜)で「デジタルマーケティング責任者、年間予算1億円超の管理、戦略立案」。運用から、予算を任され数字を改善する実績へ、そして戦略を統括する立場へ、という並びです。Webライター・編集者は「オウンドメディア編集、月10本以上の制作実績」から「メディア責任者」へ、動画編集やグラフィックデザイナーは制作実務からディレクション、そしてアートディレクター・クリエイティブディレクターへ。クリエイティブ職は定量的な数字よりも、単独で完遂した案件やディレクションの実績が中位を分ける点が、少し違いました。

一般事務・営業事務は〜350万円から始まり、中位帯(350〜550万円)で「専門事務(法務・人事・経理事務)の経験、業務改善実績、簿記2級」、上位帯(550万円〜)で「バックオフィスマネージャー、複数部署の統括」。天井は他職種より低いものの、汎用の事務から専門の事務へ、そして統括へ、という積み上がりは共通していました。

7. クラスタを越えて共通する構造:2つの壁

4つのクラスタを並べ終えて、共通点がはっきりしました。中身の大きく異なる30職種で、年収の帯を分ける境目は、どれも2つに整理できました。

第1の壁は、「作業ができる」と「数字で語れる」を分ける境目でした。どの職種も、下位帯は実務を1〜3年こなせることが条件です。ところが中位帯に上がると、例外なく「成果の実績」が現れます。営業の達成実績、カスタマーサクセスの解約率改善、マーケターのリード獲得や売上貢献、エンジニアのパフォーマンス改善。作業ができることと、その作業で数字を動かしたことの差が、最初の壁でした。

第2の壁は、「専門家」と「組織を動かす人」を分ける境目でした。上位帯に共通して現れるのは、マネジメントと事業視点です。営業なら20名規模の組織責任者、経理なら経理マネージャーやCFO補佐、法務なら法務責任者、エンジニアならテックリードやEM。個人の専門性で成果を出す段階から、組織を率いて事業の数字に責任を持つ段階へ。この境目が2つめの壁でした。この2つの壁は、中身の大きく異なる30職種のほぼすべてに共通していました。横断して比較したときに、最初に見えた共通点です。

下位帯 「作業ができる」

実務を1〜3年こなせる。多くの職種で全国中央値がこの帯にある

第1の壁 「作業ができる」と「数字で語れる」を分ける。中位帯は例外なく定量成果を求める(大型案件のクロージング・解約率改善・CPA/ROAS改善・パフォーマンス改善・連結決算/IPO)
中位帯 「数字で語れる」

その業務で動かした数字の実績が問われる

第2の壁 「専門家」と「組織を動かす人」を分ける。上位帯はマネジメントと事業視点(組織責任者・テックリード/EM・法務責任者・CFO候補)。その先に英語と上場準備(IPO)
上位帯 「組織を動かす」

組織を率いて事業の数字に責任を持つ。天井の高さは職種で変わる(次章)

図:中身の異なる30職種に共通する、年収帯を分ける2つの壁。第1の壁は定量成果、第2の壁はマネジメントと事業視点。

8. 共通点①:第1の壁は「定量成果」でできている

2つの壁を、もう少し細かく見ます。第1の壁、下位帯から中位帯への境目で、ほぼすべての職種が共通して求めていたものが1つあります。定量成果です。

中位帯の必須スキルを横に並べると、構造の一致がよく分かります。法人営業は「大型案件のクロージング実績」、既存顧客対応は「NPS・解約率の改善実績」、デジタルマーケターは「運用予算月100万円以上でのCPA・ROAS改善の定量実績」、Webエンジニアは「パフォーマンス改善の実績」、経理は「連結決算やIPO準備の経験」、動画編集は「案件を単独で完遂した実績」。職種は違っても、要求は同じ形をしています。「その業務ができる」の次に、「その業務でこの数字を動かした」を置いています。

この一致は、求人市場が中位帯の人材に何を見ているかを映しています。作業の遂行そのものではなく、作業がもたらした結果を、数字という共通言語で確かめようとしている。だから中位帯の壁は、資格や知識の量ではなく、動かした数字の有無で引かれていました。多くの人が最下位の帯にいることを思うと、この第1の壁が、最も多くの人にとっての最初の境目になります。

9. 共通点②:第2の壁は「組織と事業」、その先に英語と上場準備

第2の壁、中位帯から上位帯への境目で共通していたのは、マネジメントと事業視点でした。営業組織の責任者、Head of CS、法務責任者(GC/CLO)、データ組織のリード、事業責任者やCSO/CFO候補。個人として優秀であることから、組織を率いて事業全体の数字に責任を持つことへ、要求が移ります。第2の壁は越える人が少なく、そのぶん帯の上限も高く設定されていました。

さらに上位帯を横断して見ると、職種を越えて現れる2つのスキルがありました。英語と、上場準備(IPO)です。英語は、ほぼすべての職種の上位帯に歓迎スキルとして登場します。営業の海外本社連携、エンジニアの海外サービス開発、法務の国際法務、マーケティングの海外展開、人事のグローバル人事。上位帯に届くと、扱う事業が国内で完結しなくなる、という共通の変化が読み取れます。上場準備は、とくにコーポレート職で帯を押し上げる経験として、経理・法務・人事・総務のいずれにも現れました。この2つは、日々の実務の延長にはない、意識して取りに行くスキルだからこそ、上位帯を分ける要素になっているようです。

10. その中の差①:職種による天井の違い

ここまでは共通点でした。ただ、共通の構造の中にも、はっきりした差があります。1つめは、職種による天井の高さの違いです。

同じ「2つの壁を越える」でも、たどり着く先は職種で大きく違いました。プロダクトマネージャーは上位帯が1000万円〜で、全職種のなかで最も高い。法務・経営企画・データAI・SRE・マーケティング責任者・金融営業・代理店営業・BizOpsは上位帯が900万円〜。多くの職種は800万円〜で、一般事務は550万円〜、コールセンターやWebライターは600万円〜と、天井が低めです。壁の越え方の型は共通でも、越えた先の高さは、職種で2倍近い開きがありました(最も高いPdMは1000万円台〜、最も低い一般事務は550万円台〜)。

この天井の違いは、地域や働き方の分析コラムで見た「都市と地方の差が大きい職種」と、きれいに重なります。天井が高い職種、つまりPdM・マーケティング責任者・データAIは、都市に高い報酬が集中する職種でもありました。事業を大きく動かす職種ほど、スキルの天井も、都市への集中も高い。別々のデータから見た2つの構造が、同じ職種の並びを指していたことになります。

表:越えた先の天井(上位帯の下限)は職種で2倍近く開きます。この並びは、都市に報酬が集中する職種(地域コラム)と重なります。数値をタップで職種別ページへ。

11. その中の差②:地域による「同じスキルの値段」の違い

差の2つめは、地域です。ただしこれは、スキルの構造そのものの差ではありませんでした。

年収帯別スキルは全国共通で、地域によって求められるスキルが変わるわけではありません。地方のWebエンジニアも都市のWebエンジニアも、中位帯に上がるにはSaaS開発とパフォーマンス改善の実績が要る、という構造は同じです。違うのは、その帯がいくらで買われるかでした。地域の分析コラムで見たように、Webエンジニアの中央値は東京455万円に対し地方350万円。同じ中位帯のスキルを持っていても、地方の求人は都市より低い額を提示します。つまりスキルは「どの帯に立てるか」を決め、場所や働き方は「その帯がいくらになるか」を決めていました。

だから、スキルと場所は掛け算の関係にあります。スキルで帯を上げること、そして場所や働き方でその帯の値段を上げること。この2つは別々のレバーで、片方だけでは天井にぶつかります。本稿はスキルの軸、地域とフルリモートの分析コラムは場所の軸を扱いました。3つを重ねると、年収がどこで決まっているかの地図になります。

まとめ:横断して分かったこと

  • 30職種の年収帯別スキルを並べると、年収の帯を分ける境目は職種を問わず2つに整理できました
  • 第1の壁は「作業ができる」と「数字で語れる」を分ける境目。中位帯は、ほぼすべての職種で定量成果を求めていました
  • 第2の壁は「専門家」と「組織を動かす人」を分ける境目。上位帯にはマネジメントと事業視点、その先に英語と上場準備(IPO)という共通のスキルがありました
  • 共通構造の中にも差があります。天井の高さは職種で2倍近く開き、その並びは都市に報酬が集中する職種と重なります
  • 地域はスキルの構造を変えませんが、同じ帯の値段を変えます。スキルは「どの帯に立つか」、場所は「その帯がいくらか」を決めていました

職種の中身がどれだけ違っても、年収を分けるスキルの構造はよく似ていました。その共通の地図の上で、職種ごとの天井と、地域ごとの値段が、最終的な年収を形づくっている。これが、30職種を横断して見えた構造です。

この記事に出てくる各職種の年収帯別スキル

それぞれの職種について、下位・中位・上位の年収帯ごとのスキル(必須・歓迎)と、47都道府県・171エリアの中央値を確認できます。

※ 集計仕様:本稿の数値は公開求人の提示給与中央値(月給×12)です。在職者の実年収(e-Stat 賃金構造基本統計)とは集計仕様が異なります。集計の詳細は運営・集計方針をご覧ください。

採用担当・経営者の方へ: 同じ年収帯別スキルを「採用要件の設計」から見るなら 採用は「いくら出すか」だけで決まらない へ。必須要件の絞り方と提示額の関係を、同じデータで読み解けます。

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