地方企業の成長事例
「東北食べる通信」から東証グロース上場まで、震災後10年の地方発ソーシャル事業
震災復興と食材付き情報誌「東北食べる通信」を起点に、生産者と都市消費者を直接つなぐプラットフォーム「ポケットマルシェ」を育て、NPO発の日本初インパクトIPOで東証グロース上場まで進めた、地方発ソーシャル×プラットフォーム事業の代表事例
企業概要(公開情報)
- 企業名
- 株式会社雨風太陽
- 所在地
- 岩手県花巻市(花巻本社・東京本社の二拠点)
- 代表者
- 高橋博之(代表取締役社長)
- 設立
- 2013年
- 業種
- 産直プラットフォーム/メディア/ソーシャル事業
- 従業員数
- 約66名(2023年12月時点)
- 本記事の公開情報
- 2026-05-18 公開 / 出典 18本 / 本文約5,800字
今回取り上げるのは、岩手県花巻市に本社を置く株式会社雨風太陽(あめかぜたいよう)です。2013年にNPO法人東北開墾として始まり、食材付き情報誌「東北食べる通信」の創刊、産直プラットフォーム「ポケットマルシェ」の立ち上げを経て、2023年12月18日に東京証券取引所グロース市場(証券コード:5616)へ上場しました。NPOとして創業した企業によるインパクトIPOは日本で初めての事例とされます。震災復興を起点とする地方発ソーシャル×プラットフォーム事業の代表例として、各種メディアで取り上げられています。
本稿は、次の公開取材記事と公式発表をもとに、以下3点を整理します。
- 日本経済新聞
- 東洋経済オンライン
- Business Insider Japan
- 日経クロストレンド
- トラベルボイス
- リクルートワークス研究所
- 日本ネット経済新聞
- STARTUP DB Media
- nippon.com
- 事業構想オンライン
- POTLUCK YAESU
- PR TIMESプレスリリース
- 雨風太陽公式IRページ
- ニュース
- ポケットマルシェ公式note
- JPX(東証)上場関連開示
- ぎょうせいオンライン
- 創業者の著書『都市と地方をかきまぜる』(光文社新書、2016年)
- 最新著書『関係人口』(光文社新書、2025年)
- 起業の前夜──岩手県議・知事選落選を経て震災後の被災地に立った高橋博之氏の問題意識
- 何を作ったか──「東北食べる通信」と「ポケットマルシェ」、そして社名「雨風太陽」への進化
- 結果と次の手──日本初インパクトIPOによる上場、関係人口20年構想、JAL提携
1. 起業の前夜──「巨大防潮堤に異を唱えた」県議が、震災後に置いた問い
雨風太陽の創業者であり現代表取締役社長の高橋博之氏は、1974年7月、岩手県花巻市生まれです。Wikipedia、ボーダレスアカデミー講師紹介、リクルートワークス研究所連載「Local」などの公開情報によれば、青山学院大学を卒業後、代議士秘書などを経て、2006年(平成18年)に岩手県議会議員補欠選挙に無所属で立候補し、初当選しています。翌2007年の本選挙では、並み居るベテラン議員を抑えてトップ当選を果たし、2期8年弱を岩手県議として務めました。
転機となったのが、2011年3月の東日本大震災と、その半年後の岩手県知事選挙です。Wikipediaおよび複数の取材記事(ぎょうせいオンライン「自治・地域のミライ」、リクルートワークス研究所など)によれば、高橋博之氏は2011年9月、巨大防潮堤建設に異を唱える形で県知事選に出馬し、次点で落選しました。この知事選敗北をもって政界を引退しています。
巨大防潮堤建設は、100年に1日あるかないかの非日常と、残り99年の日常のせめぎ合いだ。地域によって事情が異なる中で、一律に高い壁を立てることが本当に被災地のためになるのか ── 高橋博之氏の知事選当時の主張(複数の取材記事より要約)
知事選後、高橋博之氏は岩手の被災地に通い続け、特に三陸沿岸の漁師や農家と長時間を共にしました。そこで突き付けられたのは、津波被害の規模ではなく「都市の消費者と地方の生産者の間に、想像を絶する分断がある」という構造の問題でした。
高橋博之氏が繰り返し語っているのは、次のような現状認識です。
都会の人たちは食べものを工業製品のように消費している。生産者の顔も、現場の風景も知らない。一方で生産者の側は、自分たちが誰に届けているかを知らないまま、買い叩かれている ── 高橋博之氏(出典:リクルートワークス研究所の連載、東洋経済オンラインの取材)
震災復興の文脈で求められたのは、防潮堤や護岸の物理的再建ではなく、都市と地方の関係そのものを編み直すことだ──これが、その後の雨風太陽の事業全体を貫く問いになりました。
2. 「東北食べる通信」創刊──食べものとセットの情報誌という発明
2013年7月、高橋博之氏はNPO法人東北開墾を立ち上げ、世界初の食材付き情報誌「東北食べる通信」を創刊します。事業構想オンライン(2016年1月号)、nippon.com、colocal「東北開墾 後編」などの取材によれば、東北食べる通信は次のようなモデルでした。
- 月1回、東北の生産者1人を特集したタブロイド版の情報誌が届く
- その特集生産者がつくった旬の食材(米・野菜・魚・果物など)が同じ便で届く
- 読者はFacebookグループなどを通じて、特集された生産者と直接つながれる
情報誌と食材を同じパッケージで届けるという発想は、それまでの産直通販ともグルメ雑誌とも異なります。読者は「食材を買う」のではなく、「食材の背後にいる人と関係を結ぶ」体験を購入することになる。事業構想オンラインの取材で高橋博之氏は、「『食べる通信』は雑誌でもECでもなく、関係の入り口だ」と述べています。
東北食べる通信は2014年にグッドデザイン金賞を受賞し、同年に一般社団法人「日本食べる通信リーグ」が設立されました。日本食べる通信リーグは、東北以外の地域でも同様のモデルで「食べる通信」を発行できるようにするプラットフォームで、2017年12月時点で国内加盟団体は37、台湾でも「雲林食べる通信」「中台湾食べる通信」など複数誌が発行されるなど、海外展開も進みました(NPO法人東北開墾プレスリリース、nippon.com)。
この段階の事業構造を整理すると、次の3点が見えてきます。
第1に、「食材+情報」の束ね方を発明したこと。食材だけでは差別化が難しく、情報誌だけでは続けて読まれない。両者を同梱したことで、購読料・食材代の両方を取れる単価設計が可能になりました。
第2に、生産者を「スター」として描く編集方針を取ったこと。高橋博之氏は著書『だから、ぼくは農家をスターにする 「食べる通信」の挑戦』(光文社新書、2015年)でも繰り返し述べていますが、生産者一人ひとりを特集し名前と顔と物語を見せることが、都市消費者の購買と関係を生む鍵だと位置づけられました。
第3に、NPOとリーグ法人を分けることでスケールの土台を作ったこと。NPO東北開墾は東北の特集編集に専念し、全国展開はリーグ法人がライセンス的に担う構造を取ったことで、各地の編集主体を尊重しながら横展開できる仕組みが生まれました。
3. ポケットマルシェ立ち上げ(2016年)──月1回の雑誌から、いつでも産直のプラットフォームへ
東北食べる通信の延長線上で見えてきた限界は、「月1回・1人の生産者特集」では、読者の食卓の大半は依然として大量流通の食材で埋められたままだ、ということでした。読者と生産者の関係を増やすには、いつでも産直で買える日常チャネルが必要になります。
そこで2015年2月、高橋博之氏は事業化の受け皿として株式会社KAKAXI(後の株式会社ポケットマルシェ、現・株式会社雨風太陽)を岩手県花巻市に設立しました。2016年9月、産直プラットフォーム「ポケットマルシェ」(通称:ポケマル)のサービスを開始しています(雨風太陽公式・ポケットマルシェ公式・農林水産省「みどりの食料システム」サポーター紹介より)。
ポケットマルシェの基本構造は次のとおりです(ポケットマルシェ公式・MISO SOUP・SMARTAGRI取材記事より)。
- 全国の農家・漁師が、生産者本人として出品する
- 出品者は生産者本人であることがポリシーで、加工業者・転売業者は基本的に登録できない
- 消費者は商品ページから直接購入し、生産者から直送で届く
- アプリ内コミュニティで、生産者と消費者がメッセージのやり取りができる
- 初期費用・月額費用はかからず、販売価格に対する販売手数料が事業者の収益源(2024年4月以降、23%へ引き上げ)
この設計の核は、商流(取引)とコミュニケーション(関係)を、同じプラットフォーム上で同時に成立させたことです。生産者の顔と物語が、購入後もメッセージとして消費者の手元に届き続ける構造になっています。
転機は2020年のコロナ禍でした。雨風太陽 (当時の社名:株式会社ポケットマルシェ) のプレスリリース「2020年利用動向」(2020年10月発行) によれば、2020年2月末に約5万2,000人だったポケマルの登録ユーザーは、同年10月28日時点で約23万5,000人と約4.5倍に増加しました。生産者も約2,000人から約3,500人へと約1.5倍に拡大しています。同社の2024年12月期決算公開資料では、ポケマル登録ユーザーは約82万人・生産者約8,500人規模へとさらに拡大しています。
飲食店休業や休校で食材が大量に行き場を失う一方で、消費者の自炊機会は増えた。「#新型コロナで困っています」タグを設置し、応援消費を経路化した結果、需要と供給のマッチング規模が一気に上がった ── 雨風太陽プレスリリース(2020年10月)
コロナ前は緩やかな伸びだったポケマルは、この期間に「産直EC」「応援消費」という社会文脈に乗り、伸びの角度が大きく変わりました。重要なのは、伸びたのが取引額だけでなく、生産者と消費者のメッセージのやり取り数だった点です。プラットフォームの厚みが、利用者数のスケールとセットで増えた局面です。
4. 社名「雨風太陽」への変更(2022年4月)と関係人口20年構想
2022年4月25日、株式会社ポケットマルシェは社名を株式会社雨風太陽に変更しました(雨風太陽プレスリリース、AGRI連載、インスパイア社告知)。
社名の由来について、高橋博之氏は次のように説明しています。
雨や風、太陽のように地域社会に循環をもたらし、活性を促していく。生産者の所得向上に寄与しつつ、その先で都市と地方の接触面積を広げる ── 雨風太陽プレスリリース「社名変更のお知らせ」(2022年4月)
ここでサービス名「ポケットマルシェ」と社名「雨風太陽」が分離します。ポケットマルシェはあくまで主力サービスの名称として残し、社名は事業ポートフォリオ全体を束ねるレイヤーへ引き上げる構造です。具体的には、次の事業ラインが順次加わっていきました。
- 食べる通信(食材付き情報誌、運営法人は2020年に日本食べる通信リーグから株式会社ポケットマルシェ=現・雨風太陽に移管)
- ポケットマルシェ(産直プラットフォーム本体)
- ポケマルおやこ地方留学(親子で地方の生産者のもとに滞在する留学事業)
- 法人事業(自治体・企業向けの関係人口創出ソリューション)
この事業構造の核に置かれているのが、「関係人口」という概念です。リクルートワークス研究所連載、ぎょうせいオンライン、雨風太陽プレスリリース(2025年3月『関係人口』発売告知)によれば、高橋博之氏は2016年の著書『都市と地方をかきまぜる』(光文社新書)の中で、「関係人口」という言葉を国内の刊行物として初めて使い、概念化したとされています。
関係人口とは、地域に移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人口層を指します。雨風太陽は、ポケットマルシェの取引、食べる通信の購読、おやこ地方留学の滞在、法人事業の体験プログラムを、いずれも「関係人口を生み出す装置」として位置づけ直しました。雨風太陽公式の「関係人口とインパクト」ページでは、2050年に2,000万人の関係人口を生み出すという長期目標が掲げられています。
ここで重要なのは、社名変更が単なるブランド刷新ではなく、事業の最終アウトプットを「関係人口」という単一指標に揃え直したリブランディングだったという点です。複数のサービスを横並びに置くのではなく、すべてを関係人口というKPI (重要業績評価指標)に翻訳する。これは後述の上場時のインパクト指標設計にも直結します。
5. 上場(2023年12月)──日本初のインパクトIPOと、農家・漁師株主の誕生
2023年12月18日、株式会社雨風太陽は東京証券取引所グロース市場(証券コード:5616)に上場しました(雨風太陽IRリリース、JPX上場関連開示、トラベルボイス、マイナビニュース、日本経済新聞)。
主要数値(みんかぶ、IPOジャパン、STARTUP DB Mediaなど)を整理すると次のとおりです。
- 公開価格:1,044円
- 初値:1,320円(公開価格を約26.4%上回る)
- 主幹事:SMBC日興証券
- 上場時時価総額(公開価格ベース):約24.6億円
- 2023年12月期売上高:9億5,600万円(前期比50.4%増)/営業損失2億2,900万円
- ポケマル登録ユーザー数:約73万人(2023年12月時点)
- 生産者登録数:約7,900人(2023年9月時点)
- 従業員数:約66名(2023年12月時点、平均年齢35歳)
この上場の最大の特徴は、雨風太陽自身が「日本初のインパクトIPO」と打ち出した点です。雨風太陽公式リリース、東洋経済オンライン「雨風太陽がNPO出身企業で〝日本初〟インパクトIPO」、Business Insider Japan、POTLUCK YAESU記事などに整理されています。
上場にあたって、利益の創出と社会課題の解決を両輪で目指す「インパクトIPO」を選択した。ポケットマルシェ経由で消費者から生産者に支払われる金額、消費者が生産者のもとで滞在する日数などをインパクト指標として開示する ── 雨風太陽プレスリリース「上場承認のお知らせ」(2023年11月)
雨風太陽が掲げるインパクト指標の核は、関係人口の延べ人数と、生産者の所得向上に直結する送金額です。短期の利益最大化ではなく、長期の社会的インパクトを開示し、それに共鳴する投資家から資金を集めるという建付けで、Business Insider Japanは「決算は赤字、経済性と社会性は両立できるか」と論点を提起しています。
もう1点重要だったのが、株主構成への配慮です。STARTUP DB Mediaの「上場スタートアップ徹底分析」、雨風太陽の上場報告会noteによれば、上場前に農家・漁師に対して株主優先割当の枠組みが組まれ、生産者自身が株主として登場しました。
農家や漁師はポケマルのお客さんであると同時に、日本の一次産業の課題に向き合う当事者だ。そういう人たちが課題解決のために株を買う。これは上場を通じて実現したかったことの1つ ── 高橋博之氏/STARTUP DB Media「上場スタートアップ徹底分析」
ファン株主・生産者株主を厚くした構造は、上場時のロックアップやVCの売り抜けという通常のIPO力学に対して、長期保有を前提にした株主基盤を意図的に作る試みだと読めます。
6. 上場後の業績と次の打ち手──関係人口事業、JAL提携、花巻新本社
上場後の進捗を時系列で整理すると次のようになります(日本ネット経済新聞、雨風太陽IR資料・経営成績ページ、PR TIMESなど)。
- 2024年12月期:売上高10億1,600万円(前期比6.2%増、5期連続増収)/営業損失1億6,100万円/ポケマル登録ユーザー約82万人/生産者約8,500人
- 2025年1〜6月期:売上高4億500万円(前年同期比7.0%増)/営業損失6,800万円/ポケマル登録ユーザー約86万人/生産者約8,700人
- ポケマル販売手数料は2024年4月より15%から23%(税抜)に引き上げ、収益性改善とサブスク商品の企画を進行
赤字は継続しつつも、5期連続増収と、ユーザー・生産者数の積み上げが続いています。手数料引き上げによって個人向け食品関連サービスの売上は2024年12月期で前期比11.4%増となりました。
事業の主軸は、ポケマルだけではなく関係人口事業へと比重がシフトしています。代表例が、日本航空(JAL)との包括業務提携(2023年9月)です。JALプレスリリース、Impress Watch、日本経済新聞によれば、雨風太陽が運営する「ポケマルおやこ地方留学」をJALがツアー化して販売し、和歌山県・青森県・岩手県などへの地方留学旅行プランを展開しました。「JALふるさとプロジェクト」のスキームに乗ることで、航空券・宿泊・体験プログラムを束ねた商品設計が可能になっています。
JALと雨風太陽は関係人口創出を目的とした提携を結ぶ。「ポケマルおやこ地方留学」のツアー化のほか、大学生と生産者の共創プログラム「青空留学」を共同運営する ── JAL企業サイト プレスリリース(2023年9月)
さらに2026年2月、雨風太陽は岩手県花巻市の中心市街地に関係人口創出拠点「HANAMAKI BASE(はなまきベース)」を開業し、JR花巻駅構内にあった本社をこの拠点に移転しました(日本経済新聞、2026年2月)。コワーキング・宿泊室・自炊可能なキッチンを備えた複合施設で、関係人口プログラムの参加者が「滞在し、地元と関わる」物理的な舞台装置として設計されています。
オンラインの産直プラットフォーム(ポケマル)と、オフラインの滞在拠点(HANAMAKI BASE、おやこ地方留学)、メディア(食べる通信、書籍、SNS発信)を、関係人口というKPIで束ね直す。これが、上場後の雨風太陽の打ち手の方向性です。
7. 編集視点:震災後10年の地方発ソーシャル事業の作法
雨風太陽の事例から取り出せる学びを、ローカルグローススタジオ的に整理すると次のようになります。
-
NPOから営利法人、そして上場へ──資金調達のレイヤーを段階的に切り替える
高橋博之氏は、NPO法人東北開墾でメディアを立ち上げ、株式会社KAKAXIでプラットフォームを作り、株式会社雨風太陽として上場した。NPOには寄付・助成金、株式会社にはエクイティ、上場後には公開市場という具合に、フェーズに応じて資金調達の器を切り替えていった点が、地方発ソーシャル事業として大規模化できた理由の1つです。 -
「食材+情報」「取引+コミュニケーション」というセット化が単価と関係を同時に作る
東北食べる通信の「タブロイド+食材」、ポケットマルシェの「商流+メッセージ」は、いずれもバラ売りしないことで単価を確保しつつ、顧客との関係資産も厚くしている。地方発のD2C (メーカーが直接消費者に販売するモデル)・産直事業を考えるとき、商品単体ではなく、商品と関係を束ねた設計に踏み込むかどうかが分岐点になります。 -
「関係人口」という固有の言葉を、自社事業のKPIに翻訳する
雨風太陽は2016年の著書段階から「関係人口」というワードを概念化し、その後の事業を一貫してこのKPIに揃え直した。複数事業を持つ企業ほど、社外向けの言葉と社内のKPIを揃えることが効きます。雨風太陽は「都市と地方の人口交流」「生産者所得」「滞在日数」など、関係人口を分解した中間指標まで開示している点が、インパクトIPOとしての説明可能性を支えています。 -
「読者」「ユーザー」を株主にする──ファン株主による上場の設計
上場前に農家・漁師など事業当事者に対して株主優先枠を用意した雨風太陽の打ち手は、上場後の長期保有株主基盤を作るための意図的な仕掛けでした。地方発の事業会社が上場を視野に入れる際、VC・機関投資家中心の構造ではなく、自社のステークホルダーをいかに株主にできるかという論点を、雨風太陽は1つの選択肢として示しています。 -
オフラインの拠点を、関係人口の舞台装置として後から建てる
ポケマルというオンラインプラットフォームを先に作り、上場後にHANAMAKI BASEや「おやこ地方留学」というオフライン拠点・体験を増設している順序が重要です。オンライン取引で経済性を作り、その上で長期の関係を物理的拠点で深める──プラットフォーム事業と地方拠点の重ね方として、地方企業の経営者が参考にしやすい順序です。
本事例から見える経営とマーケティングの学び
雨風太陽の物語は、震災復興という強い文脈で生まれたNPOが、メディア、プラットフォーム、上場、関係人口事業へと段階的に器を切り替えていく10年強の軌跡として読めます。高橋博之氏が県議・知事選候補・編集長・経営者・上場企業の社長というキャリアを横断したのは、地方の現場で見えた問いに対して、必要な器をその都度乗り換えていった結果でもあります。
地方発の事業が「ソーシャル」と「営利」「上場」のどれを選ぶかで悩むとき、雨風太陽の歩みは、これらを排他的に選ぶのではなく、フェーズに応じて重ねていけるという1つの選択肢を示しています。震災後の現場で立てた問いを、メディア・プラットフォーム・上場というかたちに翻訳し続けた経営者の作法は、地方発で成長を作る経営者にとって、長期の事業設計を考えるための学びになります。
関連:ローカルグローススタジオ・グロースマガジン
本事例の学びと共通する、グロースマガジン (https://lgstudio.jp/magazine/) の解説記事を2本紹介します。
1. マーケティング施策の全体像 〜BtoBとBtoCの違いを理解する〜
共通点: 本事例の「ポケットマルシェ=BtoC産直プラットフォーム」と「法人事業/自治体・企業向け関係人口ソリューション=BtoB」を分けて設計する打ち手は、本記事のBtoB/BtoC施策設計分離の考え方と対応します。雨風太陽が、生産者向けの出品設計(手数料・メッセージ機能)と、自治体・JALなど法人提携の事業設計を別軸で動かしているのは、本記事が説くファネル・コミュニケーションの違いを実装した形と読めます。
2. 地方経営者、地方人材向け:スタートアップとは何か?
共通点: 本事例の「NPO法人東北開墾→株式会社KAKAXI→株式会社雨風太陽→東証グロース上場」という稀有な成長軌跡は、本記事が地方経営者に説明している「スタートアップとはエクイティで非連続な成長を作る器である」という考え方を、地方発NPO起点で実装した事例です。資金調達のレイヤーをNPO・株式・公開市場と段階的に切り替え、最終的にインパクトIPOという形で上場まで進めた点が、本記事の「成長段階に応じた器選び」の論旨と接続します。
出典
-
株式会社雨風太陽「東京証券取引所グロース市場への上場に関するお知らせ」(株式会社雨風太陽、2023年12月18日公開、取得日2026-05-18)
https://ame-kaze-taiyo.jp/news/2023121812153154/ -
株式会社雨風太陽「東京証券取引所グロース市場への上場承認に関するお知らせ 〜日本初、NPOとして創業した企業が上場するインパクトIPOへ〜」(株式会社雨風太陽、2023年11月13日公開、取得日2026-05-18)
https://ame-kaze-taiyo.jp/news/2023111315313016/ -
株式会社雨風太陽「経営成績」「決算説明資料」(株式会社雨風太陽 IRページ、取得日2026-05-18)
https://ame-kaze-taiyo.jp/ir/performance/
https://ame-kaze-taiyo.jp/ir/presentations/ -
株式会社雨風太陽プレスリリース「株式会社ポケットマルシェ、『株式会社雨風太陽』に社名変更 生産者のもとで自然に触れる『親子向け地方留学事業』を新たに開始」(株式会社雨風太陽/PR TIMES、2022年4月25日公開、取得日2026-05-18)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000105.000046526.html -
株式会社雨風太陽「雨風太陽代表の高橋博之の最新書籍『関係人口』が、3月18日に光文社より発売」(株式会社雨風太陽、2025年3月3日公開、取得日2026-05-18)
https://ame-kaze-taiyo.jp/news/2025030309003965/ -
東洋経済オンライン「雨風太陽がNPO出身企業で〝日本初〟インパクトIPO」(東洋経済新報社、2023年12月公開、取得日2026-05-18)
https://toyokeizai.net/articles/-/731613 -
Business Insider Japan「ポケットマルシェの雨風太陽がインパクト上場。決算は赤字、経済性と社会性は両立できるか?」(Mediagene/Business Insider Japan、2023年12月公開、取得日2026-05-18)
https://www.businessinsider.jp/article/279978/ -
STARTUP DB Media「東日本大震災で生まれたNPO法人がスタートアップとして上場。雨風太陽『ファン株主を増やしたい』【上場スタートアップ徹底分析】」(フォースタートアップス株式会社、2023年12月公開、取得日2026-05-18)
https://lp.startup-db.com/media/articles/ipo-amekazetaiyo -
日本経済新聞「岩手・雨風太陽、初のインパクト上場『責任重い』」(株式会社日本経済新聞社、2023年12月公開、取得日2026-05-18)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC180AM0Y3A211C2000000/ -
日本経済新聞「雨風太陽、関係人口創出拠点を開業 岩手・花巻の新本社」(株式会社日本経済新聞社、2026年2月公開、取得日2026-05-18)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC2560G0V20C26A2000000/ -
マイナビニュース「産直EC『ポケットマルシェ』の雨風太陽、東証グロースに上場 高橋代表『日本初のインパクトIPOに挑戦』」(株式会社マイナビ、2023年11月公開、取得日2026-05-18)
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20231115-2818824/ -
トラベルボイス「産直EC『雨風太陽』、東証に新規上場、関係人口を生み出す旅行サービスを強化、訪日客向けコンテンツの創出も」(株式会社トラベルボイス、2023年12月18日公開、取得日2026-05-18)
https://www.travelvoice.jp/20231218-154809 -
日本ネット経済新聞「雨風太陽、5期連続増収も営業赤字 投資期終え今期は黒字化へ」「雨風太陽、ポケマル成長で売上50%増 ユーザー数は73万人を突破」「生鮮ECの雨風太陽、中間期売上は過去最高 『ポケマル』は1.1%減収」(株式会社日本ネット経済新聞、2024〜2025年公開、取得日2026-05-18)
https://netkeizai.com/articles/detail/13663
https://netkeizai.com/articles/detail/10903
https://netkeizai.com/articles/detail/15586 -
日経クロストレンド「コロナ禍で躍進した『産直EC』 リピーター続出で流通総額40倍も」(株式会社日経BP、取得日2026-05-18)
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00379/00019/ -
株式会社雨風太陽プレスリリース「【産直SNS『ポケットマルシェ』の2020年利用動向を発表】コロナ下で買い物に変化、農家・漁師から直接購入が利用数4.5倍増」(株式会社雨風太陽/PR TIMES、2020年10月公開、取得日2026-05-18)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000046526.html -
事業構想オンライン「『東北食べる通信』『食』の物語、全国で人をつなぐ」(学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学、2016年1月号、取得日2026-05-18)
https://www.projectdesign.jp/201601/pn-iwate/002648.php -
nippon.com「都市と地方をかき混ぜる─『東北食べる通信』の挑戦」(一般財団法人ニッポンドットコム、取得日2026-05-18)
https://www.nippon.com/ja/currents/d00379/ -
日本航空株式会社プレスリリース「日本航空と雨風太陽が関係人口の創出に関する包括業務提携を締結」(日本航空株式会社、2023年9月公開、取得日2026-05-18)
https://press.jal.co.jp/ja/release/202309/007635.html -
高橋博之『都市と地方をかきまぜる──「食べる通信」の奇跡』(光文社新書833、2016年8月発行、ISBN 9784334039363、取得日2026-05-18)
https://books.kobunsha.com/book/b10124735.html -
高橋博之『関係人口──都市と地方を同時並行で生きる』(光文社新書、2025年3月発行、取得日2026-05-18)
https://books.kobunsha.com/book/b10133398.html -
日本取引所グループ「株式会社雨風太陽 新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)」(株式会社東京証券取引所、2023年公開、取得日2026-05-18)
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/bkk2ed0000001y1x-att/12AmeKazeTaiyo-1s.pdf
※本稿は2026年5月18日時点の公開取材記事と公式発表を基に構成しています。固有名詞・数値は引用元の表記に従いました。記載に誤りがあった場合は、お問い合わせフォームよりご指摘ください。
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Vol.8
第8回 地方企業とスタートアップの共通点・類似点
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福島県南相馬市小高区 ・ NPO・地方創生
株式会社小高ワーカーズベース(現:OWB株式会社)
避難指示が続いた福島県南相馬市小高区で生まれたコワーキング×連続事業開発が、震災復興と地方起業を同時に解いた、地方企業の成長事例
熊本県熊本市 ・ 流通・小売
株式会社ファクトリエ
熊本発の新規創業D2Cが、地方縫製工場・染工場・繊維工場との直接協業で職人還元単価を2倍以上に押し上げた、地方発MADE IN JAPANブランドの代表事例
同じデータから別の切り口
岩手県花巻市(花巻本社・東京本社の二拠点) での採用市況・年収相場・転職市況のレポートも、株式会社雨風太陽と同じデータパイプラインから提供しています。