地方企業の成長事例
避難指示区域で生まれたコワーキング×連続起業の地方復興モデル
避難指示が続いた福島県南相馬市小高区で生まれたコワーキング×連続事業開発が、震災復興と地方起業を同時に解いた、地方企業の成長事例
企業概要(公開情報)
- 企業名
- 株式会社小高ワーカーズベース(現:OWB株式会社)
- 所在地
- 福島県南相馬市小高区
- 代表者
- 和田智行(代表取締役)
- 設立
- 2014年
- 業種
- コワーキング/事業開発/地方起業支援
- 従業員数
- 非公開(複数の取材記事で「小規模チーム+業務委託」と表記、ガラス工房ランプワーカー6名等を含む)
- 本記事の公開情報
- 2026-05-18 公開 / 出典 18本 / 本文約5,800字
今回取り上げるのは、福島県南相馬市小高区に本社を置く株式会社小高ワーカーズベース(2024年11月1日付でOWB株式会社へ社名変更)です。2014年5月、東京電力福島第一原子力発電所の事故で全住民の避難が続いていた小高区で、和田智行氏(1977年1月生まれ、現代表取締役)が1人で立ち上げたコワーキングスペースを起点に、食堂・仮設スーパー・ガラスアクセサリー工房・ゲストハウス併設型コワーキングと事業を連続して重ね、避難指示が解除された2016年7月以降は「Next Commons Lab南相馬」を通じて全国から起業家を呼び込み、住民帰還の呼び水となる小さな経済圏を実装してきました。「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」というミッションのもと、2023年時点で関連事業は20件超に到達し、2022年にはICC KYOTO 2022「ソーシャルグッド・カタパルト」で優勝、2024年11月には創立10周年の節目に「Our Will Becomes 〇〇」を意味するOWB株式会社へ社名を変更しています。
本稿は、次の公開取材記事と公式発表をもとに、以下3点を整理します。
- 福島民友新聞「マイストーリー」連載
- 福島民友「起業家は『小高』を目指す」(2022年8月)
- 事業構想オンライン(2020年1月)
- GLOBIS知見録
- ICC INDUSTRY CO-CREATION
- greenz.jp
- LOCAL LETTER
- Bridge for Fukushima
- HOOK(福島県)
- ドコモ「笑顔の架け橋Rainbowプロジェクト」
- SUUMOジャーナル
- ジモコロ
- 復興庁「新しい東北」
- 内閣府「いいかも地方暮らし」
- HARIO株式会社プレスリリース
- PR TIMES各種
- 小高ワーカーズベース/OWB公式note
- 小高パイオニアヴィレッジ公式
- 南相馬市公式ウェブサイト
- 創業の前夜──ITベンチャー役員が小高でリモートワーク、震災で5カ所の避難生活へ
- 何を作ったか──コワーキングを起点にした「100の課題から100のビジネス」の連続事業設計
- 結果と次の手──Next Commons Lab南相馬・ICC優勝・OWBへの改称と100年の地域づくり
1. 創業の前夜──「ITベンチャー役員×小高Uターン×5カ所の避難」
和田智行氏は1977年1月、福島県南相馬市小高区の生まれです。福島県立原町高等学校を卒業後、大学進学を機に上京。中央大学経済学部を卒業し、首都圏でITベンチャーに勤務した後、2005年に東京でIT企業の起業に参画して役員を務めながら、同時に自身は小高にUターンし、東京の本社業務を地元からリモートワークでこなしていました(Wikipedia「和田智行」、ICC INDUSTRY CO-CREATION 2024年、HOOK「予測不能の未来を楽しむ」、LOCAL LETTER、福島民友「マイストーリー」)。
2011年3月時点で、和田氏はすでに「地方在住・首都圏IT企業役員のリモートワーカー」という、当時としては相当に先進的な働き方を10年弱続けていた人物でした。震災時、自宅は福島第一原発から20km圏内の警戒区域に指定され、家族とともに避難を開始します。福島民友「マイストーリー」連載、Bridge for Fukushimaインタビュー、「わたしの決断物語」(LIFE MY DECISION)、福島県HOOKなどによれば、和田氏は知人宅を含めて5カ所の避難先を転々とし、最終的に会津若松市での避難生活に落ち着きました。
会津若松では、市が新設したインキュベーション施設に勤務しながら、地元企業の経営支援や複数の事業立ち上げに関わるという経験を積みます(GLOBIS経営大学院「学生紹介」、グロービス知見録、事業構想2020年1月)。2012年、本業として続けていた東京のITベンチャー企業の役員を退任。「自分の地面が小高にしかない」ことを受け入れ直すための数年間が、創業前夜にあたります。
ここで他の地方の事業承継事例と並べたとき、小高ワーカーズベースは「家業を継ぐ」型ではありません。和田氏に承継すべき家業はなく、生まれ育った町そのものが「全住民避難」という前提崩壊を経験した、という極めて特殊なスタート地点に立っています。能作(富山)・中川政七商店(奈良)・甲子化学工業(大阪)が「既にある事業の上書き」を経営課題として扱うのに対し、和田氏が向き合ったのは「事業の前提となる住民・電気・水道・通信・小売・食といったライフラインそのものが消えた地面で、どうやって最初の1事業を立ち上げるか」という問いでした。
自分のことだけを考えるなら、避難先で新しい生活を組み立てれば良かった。でも、ふるさとが消えるのを傍観することは、自分の人生の主導権を誰かに預けることだと気づいた ── 経営実践研究会「誰かの意思決定に人生を預けない」(OWB株式会社 和田智行氏取材記事、要旨)
2014年5月、和田氏は避難指示が解除されていない小高区に1人で戻り、JR常磐線小高駅近くの空き物件に無線LANを引いてコワーキングスペース「小高ワーカーズベース」を開設します。同年11月に法人化し、株式会社小高ワーカーズベースが正式に発足しました(OWB公式note「OWB株式会社への社名変更について」、福島民友「マイストーリー」)。当時の小高は、避難指示が継続し住民は法的にゼロ、商店もインフラも限定的にしか復旧していない状態です。コワーキングスペースという「働く場所」を最初に置いた、というその選択そのものが、地域の経営者にとって参照できる作法です。
2. 100の課題から100のビジネス──連続する事業創出の系譜
小高ワーカーズベースを象徴するミッションが、「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」というフレーズです(OWB公式、note「OWB株式会社 | 地域の100の課題から100のビジネスを創出する」、ICC INDUSTRY CO-CREATION、事業構想2020年1月号「起業の舞台は3.11で住民ゼロになった町 100の新事業を創る」)。
このフレーズが煽り文句に聞こえないのは、和田氏が実際に連続して事業を立ち上げ、住民帰還のたびに「次に足りないもの」を埋め続けたからです。GLOBIS知見録「住民ゼロ地帯だからこそ挑戦できた新しい街づくり」、復興庁「新しい東北」復興・創生顕彰、福島民友、Bridge for Fukushima、HARIOプレスリリース、note公式各種を時系列で並べると、概ね次のとおりです。
- 2014年5月:コワーキングスペース「小高ワーカーズベース」をJR小高駅近くに開設(法人化は同年11月)
- 2014年12月:食堂「おだかのひるごはん」を開店。避難先から日中だけ通う地元主婦を店員として雇用し、片付け作業に来る住民や復興関係者向けに昼食を提供
- 2015年9月:仮設商業施設「東町エンガワ商店」を開店(南相馬市からの委託、2018年12月閉店し公設民営の新商業施設へ移行)。日用品・食品の販売と並行して、住民同士の再会の場として機能
- 2016年7月12日:小高区のほぼ全域で避難指示解除(原発から20km圏内、帰還困難区域1世帯を除く)
- 2016年以降:ハンドメイドガラスアクセサリー工房「iriser(イリゼ)」を立ち上げ、若い女性の雇用先を確保
- 2017年:一般社団法人Next Commons Labとの協働で「Next Commons Lab南相馬」(NCL南相馬)を始動。地域おこし協力隊制度を活用し、全国から起業家を募集する起業プラットフォームを整備
- 2018年9月:HARIO株式会社とのライセンス契約で、ガラス工房を「HARIOランプワークファクトリー小高」として再編。HARIOブランドのガラスアクセサリー部品を製造販売
- 2019年3月:建築家・藤村龍至氏設計のゲストハウス併設型コワーキング「小高パイオニアヴィレッジ」を開業(同年度グッドデザイン賞受賞)
- 2022年〜2024年:NCL南相馬を通じた連続起業の成果として、関連事業数は20件超(2023年時点で22→24事業、25件目を構想中、ICC関連記事)
ここから読み取れる「住民ゼロからの地域経営」の作法を、本稿で確認できた範囲で3つに整理します。
第1は、「最初の1事業がコワーキングである」ことの設計上の意味です。小売店や食堂ではなく、最初に「働く場所」を置いたことで、外部から復興関連で訪れる人、片付け作業のために日中だけ戻ってくる元住民、東京と小高を行き来する事業者にとっての滞在拠点が先に整います。SUUMOジャーナルやジモコロが取材した時期の和田氏の発信からは、コワーキングは「滞在を産業化する装置」でもあった、という意図が読み取れます。地方企業が「カフェから始めるか、スペースから始めるか」を迷う場面で、参照できる手筋です。
第2は、「足りないものを内側から1つずつ生む」という運営姿勢です。住民が戻り始めれば食堂が要る。日中の片付け作業者が戻り始めれば仮設スーパーが要る。若い女性の雇用先が必要になればガラス工房が要る。外部の起業家を呼び込めば滞在拠点としてのゲストハウスが要る──このような順序で、和田氏は「外から取ってくる」より「内側で作る」を一貫させています。事業構想2020年1月号、GLOBIS知見録、福島民友「マイストーリー」が共通して描くのは、この「住民帰還の進捗に合わせた事業のレイヤー追加」という運営の姿勢です。
第3は、「協業による事業立ち上げ」を最初から組み込んでいる点です。ガラス工房はHARIO株式会社(本社・東京、創業1921年の耐熱ガラスメーカー)とのライセンス契約で「HARIOランプワークファクトリー小高」となり、起業家誘致は一般社団法人Next Commons Labとの協働で「NCL南相馬」へと制度化されました。ヤフー・ソフトバンクとの「Next Action→ Social Academia Project」では、震災経験のある若い世代を次世代リーダーとして育成する取り組みも進められています(OWB公式)。「社員数の多さで勝負しない」「外部協業で機能を取り込む」という選択は、町工場・地方の小規模事業者にも応用が利く設計です。
3. Next Commons Lab南相馬──「起業家を呼び込む」を制度化する
小高ワーカーズベースの第2フェーズを象徴するのが、2017年に始動した「Next Commons Lab南相馬」(NCL南相馬)です。
一般社団法人Next Commons Lab(代表理事・林篤志氏)が全国各地で展開している起業型地域おこしの仕組みを、南相馬市・小高ワーカーズベース・地域おこし協力隊制度の3者で組み合わせる形で運用しています(NCL公式、project.nextcommonslab.jp「南相馬」プロジェクト一覧、note「Next Commons Lab南相馬」、HOOK「南相馬に集まる起業家を、ユーモアと愛情あふれる言葉で勇気づける」、内閣府「いいかも地方暮らし」)。
仕組みの骨子は次のとおりです。
- 全国から起業家(地域おこし協力隊員)を募集し、3年間の任期で南相馬市小高区に移住
- 任期中は地域おこし協力隊として国・自治体の制度を活用しつつ、各自が定めた「地域課題×事業テーマ」で起業準備
- 小高ワーカーズベース/OWB側は、メンタリング・資金繰り相談・地域との接続・コワーキング/宿泊拠点(小高パイオニアヴィレッジ)を提供
- テーマは「アグリプレナー」「自由提案枠」など複数。起業後はそのまま小高区で事業を継続
この設計が地方の地域経営に対して提示しているのは、「地域おこし協力隊を、観光や移住支援の事務局スタッフとしてではなく、起業家として活用する」という発想です。NCL南相馬の参加者は、廃校活用、農産物加工、教育、地域メディア、宿泊業など、地域課題と直接接続したテーマで事業を立ち上げ、任期終了後も小高に残るパターンが複数生まれています(note「【事業】NCL南相馬」、greenz.jp「福島12市町村ローカル起業の現在地」2023年1月)。
GLOBIS知見録、ICC INDUSTRY CO-CREATION、福島民友「起業家は『小高』を目指す」(2022年8月、避難指示解除から6年経過)が共通して指摘するのは、「小高には事業の前例が少なく、競合も少ないから、起業家にとって挑戦できる地面が広い」という構造です。一般に地方移住では「既存事業者との競合」「コミュニティへの参入障壁」が立ちはだかりますが、小高では一度住民がゼロになったため、その2つが相対的に軽く、和田氏が積み上げたコワーキング/ゲストハウス/ガラス工房という「滞在と仕事の最低条件」が外部起業家のスタートを支えています。
ここで重要なのは、NCL南相馬は「広告」ではなく「制度設計」によって起業家を呼び込んでいる点です。地域おこし協力隊制度・小高パイオニアヴィレッジ・OWBの伴走機能の3つを組み合わせた「触媒の積み上げ」によって、社員数の少ない地域企業が全国から起業家を継続的に集める動線が成り立っています。地方企業が「人を呼び込むのは広告予算ではなく、滞在と仕事の受け皿の整備」と整理し直すための、再現可能な事例です。
4. 受賞と発信──「住民ゼロ地帯」の語り口を地方経営の文体に変える
小高ワーカーズベースの社外評価は、復興政策・経営大学院・スタートアップシーンの3つの軸から重なる形で積み上がっています。
- 2014年:AERA「日本を突破する100人」に和田智行氏が選出
- 2015年:「ふくしまベンチャーアワード2015」特別賞
- 2017年:復興庁「新しい東北」復興・創生顕彰 団体部門
- 2018年:地域再生大賞「北海道・東北ブロック賞」(chiikisaisei.jp掲載)
- 2019年:小高パイオニアヴィレッジがグッドデザイン賞受賞
- 2021年:第17回グロービス アルムナイ・アワード「ソーシャル部門」を和田智行氏が受賞(グロービス経営大学院、PR TIMES、OWB公式)
- 2022年9月:ICC KYOTO 2022「ソーシャルグッド・カタパルト」優勝(INDUSTRY CO-CREATION、OWB公式note)
- 2023年:ICC FUKUOKA 2023ソーシャルグッドカタパルトで優勝者スピーチ
- 2024年11月:創立10周年を節目に、社名を株式会社小高ワーカーズベースからOWB株式会社へ変更
受賞は単体で意味を持つというより、「住民ゼロから始まった事業」という事実を外部の評価軸に翻訳する装置として機能しています。復興庁の顕彰は政策評価軸、地域再生大賞は地域経営評価軸、グロービス アルムナイ・アワードは経営大学院の評価軸、ICCカタパルトはスタートアップ評価軸──同じ事業が、立場の異なる評価軸の中で「成り立つ事業」として認知されることで、和田氏の発信は震災復興の事例集を超えて、地方経営の文体の中に組み込まれていきました。
GLOBIS知見録「住民ゼロ地帯だからこそ挑戦できた新しい街づくり」、greenz.jp「福島12市町村ローカル起業の現在地」、ICC INDUSTRY CO-CREATION「避難指示区域でゼロになった街に25の事業を創出」などの取材記事に共通するのは、和田氏が「悲劇の物語」ではなく「事業設計の物語」として小高を語っている点です。震災・原発事故という前提を、起業家を呼び込むためのフロンティアの条件として読み替える文体は、地方経営者が「自社の制約をどう物語化するか」を考えるうえで参考になります。
5. OWBへの改称──「Our Will Becomes 〇〇」と次の10年
2024年11月1日、株式会社小高ワーカーズベースは、創立10周年を節目に「OWB株式会社」へと社名を変更しました(OWB公式note「【ご報告】株式会社小高ワーカーズベースは、創立10周年を節目にOWB株式会社へと社名変更いたしました。」、PR TIMES「【社名変更と記念イベント開催】」2024年、小高パイオニアヴィレッジ公式「運営会社 社名変更のお知らせ」、サードニュース2024年)。
新社名「OWB」は「Our Will Becomes 〇〇」の頭文字で、「私たちの意志が〇〇になる」という意味です。〇〇の中身は固定せず、個人や企業がそれぞれの理想を当てはめられる余白として残されています。
公式発表が明示しているのは、「ミッション・ビジョン・パーパスは変わらない」という点です。
- ミッション:地域の100の課題から100のビジネスを創出する
- ビジョン:自立した地域社会を実現する
- パーパス:わたしたちは、自らの手で暮らしを確かなものにする
社名から地名「小高」が消えたこと自体に、和田氏が描く次の10年の輪郭が表れています。GLOBIS知見録・福島民友「マイストーリー」第8回「若者が戻る場所つくる」・第9回「正しいより楽しい選択」が共通して語るのは、「小高で実装した事業創出のモデルを、別の地方でも再現可能な形に翻訳する」という方向性です。社名変更の発信(OWB公式note、PR TIMES)では「小高に軸足を置きながら、取り組みを社会全体に広げていく」と明示されており、福島・南相馬・小高に閉じた事業会社から、地方の事業創出モデルそのものを扱う事業会社への重心移動が読み取れます。
ここで重要なのは、和田氏が「成功した小高モデルを他の地域に売り込む」という形ではなく、「自社の意志を表す名前として、地名を1段抽象化する」という形を取った点です。地名を含む社名は強力なブランドである一方、事業の射程を地名で固定するという副作用も持ちます。10年間を「小高ワーカーズベース」として走った後、社名を抽象化することで、起業家としての自身の射程を再定義したと読めます。
6. 編集視点:住民ゼロからの地方経営の作法
小高ワーカーズベース/OWBの事例から取り出せる学びを、ローカルグローススタジオ的に整理すると次のようになります。
-
「最初の1事業」はコミュニティ機能から置く 食堂・小売・宿泊といったB2Cの店舗ではなく、コワーキングという「滞在と仕事の最低条件」を最初に置いた選択は、住民・観光・産業の3軸が全部欠けた状態で事業を立ち上げる際の参考になります。地方の起業家・経営者にとって、コワーキングは単なる流行語ではなく、「滞在を産業化する装置」という機能語として読み直せます。
-
連続事業は「足りないもの」を時系列で埋める コワーキング(2014)→食堂(2014)→仮設スーパー(2015)→ガラス工房(2016)→NCL南相馬(2017)→ゲストハウス併設コワーキング(2019)という時系列は、「住民帰還の進捗に合わせた事業レイヤーの追加」という地域経営の作法を示しています。新規事業を「同時並行で複数」ではなく「足りないものから順に1つずつ」並べる順序は、リソースが薄い地域企業に応用しやすい配列です。
-
起業家誘致は「広告」ではなく「制度設計」で解く NCL南相馬は、地域おこし協力隊制度(国)+ゲストハウス併設型コワーキング(自社)+メンタリングと地域接続(自社)の3層を組み合わせ、外部起業家が3年単位で参加できる動線を作りました。広告予算ではなく「滞在と仕事の受け皿」を整備することで起業家を呼び込む設計は、地方企業の人材獲得にも応用できる視点です。
-
協業を恥じずに前面に出す HARIO株式会社(ガラス工房のライセンス)、一般社団法人Next Commons Lab(起業家誘致)、ヤフー・ソフトバンク(若手リーダー育成)、南相馬市(仮設商業施設の委託)、地域おこし協力隊制度(国制度の活用)──いずれも自社単独では持ち得ない機能を、協業で取り込んでいます。「自前主義」を諦めて協業に振り切る選択は、社員数が少ない地方企業に共通する勝ち筋です。
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社名は「事業の射程」を物語る 10年間「地名+業態」で走った後、創立10周年を機に「Our Will Becomes」という抽象社名へ移行した判断は、地方発の事業会社が直面する「地名ブランドの強みと制約」の両面を踏まえた打ち手です。地名を消すか残すかは経営判断ですが、いずれの選択もブランド戦略の一部として説明できる状態にしておくことが、地方経営者にとって学びになります。
本事例から見える経営とマーケティングの学び
小高ワーカーズベース/OWBの物語は、震災・原発事故という前提崩壊を「フロンティアの条件」として読み替え、地方の事業創出の作法を10年かけて実装してきた事例として読めます。重要なのは、和田氏がITベンチャーの役員としてリモートワークを10年弱続けた経験を、避難指示区域での起業に翻訳できたことです。地方企業の成長は、外から持ち込んだ手法ではなく、自分が立っている地面の特異性を言語化する作業から始まります。ブランドやリソースが薄い状態から成長を作る経営者にとって、小高ワーカーズベースの歩みは「滞在の場を最初に作る」「足りないものを順に埋める」「広告ではなく制度で人を呼ぶ」という、再現可能な3つの手筋を提示しています。
関連:ローカルグローススタジオ・グロースマガジン
本事例の学びと共通する、グロースマガジン(https://lgstudio.jp/magazine/)の解説記事を2本紹介します。
1. 地方経営者、地方人材向け:スタートアップとは何か?
共通点: 小高ワーカーズベースは、住民ゼロという前提崩壊の地面で「100の課題から100のビジネス」を連続的に立ち上げる、災害復興地での連続起業の事例です。本記事が示す「スタートアップ=既存市場の延長ではなく、未解決の前提を事業化する行為」という定義は、小高での「住民帰還の進捗に合わせて事業レイヤーを追加する」設計と一致します。地方経営者が「自社の地面の特異性をどう事業化するか」を考える際に、本事例と本記事を並べて読むと、復興×起業の文脈を抽象化する補助線が得られます。
2. 地方企業/スタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略
共通点: 直販の広告投下ではなく、HARIO株式会社・一般社団法人Next Commons Lab・地域おこし協力隊制度・南相馬市・グッドデザイン賞・ICCカタパルトという「触媒」を順番に積み上げてきた小高ワーカーズベースの動線は、本記事が示す「ブランドや広告予算のない地方企業が取れる戦わない戦略」そのものです。コワーキングという「滞在と仕事の最低条件」を最初に置く選択も、本記事のコア発想と一致します。
出典
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OWB株式会社 公式サイト「会社案内」「会社概要」「代表メッセージ」「採用情報」(株式会社小高ワーカーズベース、取得日2026-05-18) https://owb.jp/
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OWB株式会社note「【ご報告】株式会社小高ワーカーズベースは、創立10周年を節目にOWB株式会社へと社名変更いたしました。」(株式会社小高ワーカーズベース、2024年公開、取得日2026-05-18) https://note.com/odakaworkers/n/n653fa473f589
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OWB株式会社プレスリリース「【社名変更と記念イベント開催】株式会社小高ワーカーズベースは創立10周年を節目にOWB株式会社へ。記念イベントを11月17日(日)に開催」(PR TIMES、2024年公開、取得日2026-05-18) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000037386.html
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福島民友新聞社「【マイストーリー】小高ワーカーズベース社長・和田智行」連載(株式会社福島民友新聞社、2024年公開、取得日2026-05-18) https://www.minyu-net.com/article/mystory-wadatomoyuki
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福島民友新聞社「起業家は『小高』を目指す 南相馬、避難指示解除から6年経過」(株式会社福島民友新聞社、2022年8月公開、取得日2026-05-18) https://www.minyu-net.com/news/sinsai/serial/1105/FM20220811-722056.php
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事業構想オンライン「起業の舞台は3.11で住民ゼロになった町 100の新事業を創る」(株式会社宣伝会議、2020年1月号、取得日2026-05-18) https://www.projectdesign.jp/202001/area-fukushima/007270.php
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GLOBIS知見録「小高ワーカーズベース 和田智行氏『住民ゼロ地帯だからこそ挑戦できた新しい街づくり』」(株式会社グロービス、取得日2026-05-18) https://globis.jp/article/56746
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ICC INDUSTRY CO-CREATION「避難指示区域でゼロになった街に25の事業を創出、小高ワーカーズベース和田さん」(ICCパートナーズ株式会社、取得日2026-05-18) https://industry-co-creation.com/industry-trend/102875
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ICC INDUSTRY CO-CREATION「【速報】避難指示が解除された南相馬市で、自己実現のフィールドとしてゼロから街おこし『小高ワーカーズベース』がソーシャルグッド・カタパルト優勝!(ICC KYOTO 2022)」(ICCパートナーズ株式会社、2022年9月公開、取得日2026-05-18) https://industry-co-creation.com/news/82455
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greenz.jp「福島は、日本の閉塞感をブレイクスルーする、唯一で最後のフィールド。小高ワーカーズベース・和田智行さんと移住支援センター・藤沢烈さんが語る、福島12市町村ローカル起業の現在地」(NPO法人グリーンズ、2023年1月公開、取得日2026-05-18) https://greenz.jp/2023/01/27/fukushima12-startup_1/
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LOCAL LETTER「予測不能な未来を楽しむ。地域から100の事業を創る仕掛け人の見る先は」(株式会社WHERE、取得日2026-05-18) https://localletter.jp/articles/odakaworkersbase-wada/
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Bridge for Fukushimaインタビュー「株式会社小高ワーカーズベース(南相馬市小高区)」(一般社団法人Bridge for Fukushima、取得日2026-05-18) http://bridgeforfukushima.org/interview/7080/
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HOOK(福島県)「予測不能の未来を楽しむ。南相馬市小高区で始めたゼロからのチャレンジ」(福島県、取得日2026-05-18) https://fukushima-hook.jp/wada/
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ドコモグループ 東北復興・新生支援「笑顔の架け橋Rainbowプロジェクト」「ゼロからの町づくりを起業家たちと楽しみたい『小高ワーカーズベース』」(株式会社NTTドコモ、取得日2026-05-18) https://rainbow.nttdocomo.co.jp/tohoku/know/post-331.html
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復興庁「『新しい東北』復興・創生顕彰」(復興庁、取得日2026-05-18) https://www.reconstruction.go.jp/
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グロービス経営大学院「株式会社小高ワーカーズベース代表取締役の和田智行が第17回グロービスアルムナイ・アワード『ソーシャル部門』受賞」(株式会社グロービス、2021年公開、取得日2026-05-18) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000037386.html
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HARIO株式会社プレスリリース「HARIOランプワークファクトリー福島県南相馬市小高区にガラス工房新設」(HARIO株式会社、取得日2026-05-18) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000002275.html
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小高パイオニアヴィレッジ公式サイト「小高パイオニアヴィレッジについて」「【小高パイオニアヴィレッジ】運営会社 社名変更のお知らせ」(株式会社小高ワーカーズベース、取得日2026-05-18) https://village.pionism.or.jp/
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一般社団法人Next Commons Lab「自由提案 南相馬」「予測不能な未来を楽しもう」(一般社団法人Next Commons Lab、取得日2026-05-18) https://project.nextcommonslab.jp/project/minamisouma-original/
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南相馬市公式ウェブサイト「おだかぐらし」「南相馬市の旧避難指示区域別の住民登録人口と居住人口」(南相馬市役所、取得日2026-05-18) https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/21/2110/odaka_gurashi/index.html
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SUUMOジャーナル「震災で無人になった南相馬市小高地区。ゼロからのまちおこしが実を結ぶ」(株式会社リクルート、2021年1月公開、取得日2026-05-18) https://suumo.jp/journal/2021/01/25/177724/
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ジモコロ「【東日本大震災】人口ゼロからの再スタート…ぼくの『地元』のこれから」(株式会社アイデム、取得日2026-05-18) https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/kanchi01
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経営実践研究会「誰かの意思決定に人生を預けない。一度は住民ゼロの町となった福島・小高から始まった『自立する地域』づくり(OWB株式会社 和田 智行 氏)」(一般社団法人経営実践研究会、取得日2026-05-18) https://www.keijitsukai.jp/project/cl_wadasan/
-
地域再生大賞「小高ワーカーズベース」団体ページ(共同通信社、取得日2026-05-18) https://chiikisaisei.jp/organization/num-358
※本稿は2026年5月18日時点の公開取材記事と公式発表を基に構成しています。固有名詞・数値は引用元の表記に従いました。2024年11月の社名変更以降は法人格としては「OWB株式会社」ですが、本稿では「小高ワーカーズベース」時代の事業設計を中心に整理しているため、文中の表記は時期に応じて使い分けています。事業数や従業員規模は取材時期によって表記に揺れがあるため、本文では時期ごとの表記をそのまま引用しました。記載に誤りがあった場合は、お問い合わせフォームよりご指摘ください。
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岩手県花巻市(花巻本社・東京本社の二拠点) ・ IT・スタートアップ
株式会社雨風太陽
震災復興と食材付き情報誌「東北食べる通信」を起点に、生産者と都市消費者を直接つなぐプラットフォーム「ポケットマルシェ」を育て、NPO発の日本初インパクトIPOで東証グロース上場まで進めた、地方発ソーシャル×プラットフォーム事業の代表事例
岩手県盛岡市 ・ 食品・農業
株式会社ベアレン醸造所
盛岡発の地方クラフトビール醸造所が、ドイツ100年級の中古設備と地元密着型コミュニティ運営で「全国流通ではなく地元密着」の対照モデルを示した、地方企業の成長事例
岩手県盛岡市 ・ 工芸
株式会社ヘラルボニー
双子兄弟の新規創業が、岩手という地方発で知的障害アーティスト作品をブランドに変え、LVMHイノベーションアワード・Forbes JAPANカルチャープレナーなど世界の文脈に乗せた地方企業の成長事例
熊本県熊本市 ・ 流通・小売
株式会社ファクトリエ
熊本発の新規創業D2Cが、地方縫製工場・染工場・繊維工場との直接協業で職人還元単価を2倍以上に押し上げた、地方発MADE IN JAPANブランドの代表事例
同じデータから別の切り口
福島県南相馬市小高区 での採用市況・年収相場・転職市況のレポートも、株式会社小高ワーカーズベース(現:OWB株式会社)と同じデータパイプラインから提供しています。