グローススタジオレポート

地方企業の成長事例

MADE IN JAPAN×直販D2Cで地方縫製工場の職人単価を2倍にしたファッションブランドの原型

熊本発の新規創業D2Cが、地方縫製工場・染工場・繊維工場との直接協業で職人還元単価を2倍以上に押し上げた、地方発MADE IN JAPANブランドの代表事例

企業概要(公開情報)

企業名
株式会社ファクトリエ
所在地
熊本県熊本市
代表者
山田敏夫(代表取締役)
設立
2012年
業種
D2Cファッション/縫製業との協業
従業員数
20名前後(公開取材時点・複数の第三者取材記事による)
本記事の公開情報
2026-05-18 公開 / 出典 16本 / 本文約5,500字

今回取り上げるのは、熊本県熊本市に本社を置くライフスタイルアクセント株式会社が運営する、工場直結ファッションブランド「ファクトリエ(Factelier)」です。1982年熊本県熊本市生まれの山田敏夫氏が、2012年1月にライフスタイルアクセント株式会社を設立し、同年10月にファクトリエを開始しました。実家は熊本市下通商店街にある1917年創業の老舗婦人服店「マルタ號」で、創業100年を超える「街の洋品店」の次男坊として育った経歴を持ちます。ファクトリエは「店舗を持たない」「セールをしない」「生産工場を公開する」「価格は工場が決める」という、当時のアパレル業界では非常識とされた4つの方針を打ち出した工場直結D2C (メーカーが直接消費者に販売するモデル)ブランドとして、テレビ東京「カンブリア宮殿」(2016年4月7日放送)で大きく取り上げられた事例です。

本稿は、次の公開取材記事と公式発表をもとに、以下3点を整理します。

  • テレビ東京「カンブリア宮殿」
  • 日経クロストレンド
  • 日経ビジネス
  • 日経BOOKプラス
  • WWDJAPAN
  • コロカル
  • J-Net21
  • 銀座経済新聞
  • パナソニックコネクトGEMBA
  • SUPER CEO
  • NewsPicks
  • PR TIMESプレスリリース
  • ファクトリエ公式コーポレートサイト
  • 山田敏夫著『ものがたりのあるものづくり』(日経BP、2018年)
  1. 創業の前夜──熊本の老舗洋品店の次男坊、フランス留学とグッチパリ店の現場
  2. 何を作ったか──工場直結D2Cと「希望工場価格×2倍」の値づけ
  3. 結果と次の局面──銀座フィッティングスペース、台湾出店、Impact Reportで可視化された現在地

1. 創業の前夜──熊本の老舗洋品店、フランス留学、グッチパリ店

ライフスタイルアクセント株式会社の創業者・山田敏夫氏は、1982年、熊本県熊本市に生まれました。日経xwoman「街全体に見守られて、僕は育った」(2017年公開)、NewsPicks「【熊本】老舗洋品店の次男坊が描いたジャパンブランドの夢」、SUPER CEO「『ファクトリエ』がつくる工場ブランドの製品は、なぜコロナ禍でも売れ続けるのか?」、ファクトリエ公式STORYなどの取材によれば、実家は熊本市中心部・下通商店街にある1917年(大正6年)創業の老舗洋品店「マルタ號」です。店舗の上が住居だったため、子どもの頃から店内を毎日通り、「日本製の仕立ての良い洋服には価値がある」という感覚を、商売の現場の空気と一緒に身につけて育ちました。

本シリーズで取り上げてきた能作(富山)、中川政七商店(奈良)、黒龍酒造(福井)、古屋旅館(熱海)のような「家業を継ぐ後継者」の事例と並べたとき、山田氏の歩み方には独特の捻れがあります。実家は老舗洋品店ですが、山田氏自身は家業を継いだのではなく、家業の外で別法人を立ち上げ、日本各地の縫製工場・染工場・繊維工場と直接組む新規創業D2Cブランドとしてファクトリエを始めました。本稿の整理軸を借りれば、「家業を継ぐ縦軸」ではなく、「実家から学んだ商売観を、別の法人格と別の業態で再実装する」横軸の事例として読めます。

転機は早稲田大学在学中のフランス留学です。日経xwoman、NewsPicks「【熊本】常識を破る『工場直結』販売を実現した”3つの言葉”」、SUPER CEO、山田氏著『ものがたりのあるものづくり』(日経BP、2018年)、一新塾講師プロフィールなどによれば、山田氏は大学在学中にフランスへ留学し、グッチのパリ店で勤務する機会を得ます。そこでフランス人の同僚から「日本には本物のものづくりブランドがないね」と問われた一言が、後の起業の核に置かれることになります。

日本には本物のものづくりブランドがない ── 山田氏がグッチパリ店で同僚から受けた問いとして、複数の取材で語られている一節(出典:NewsPicks、SUPER CEO、日経xwoman、ファクトリエ公式STORYほか、要旨)

山田氏は帰国後、新卒で社会人としてのキャリアを積んだうえで、2012年1月にライフスタイルアクセント株式会社を熊本で設立、同年10月に工場直結ジャパンブランド「Factelier(ファクトリエ)」をオープンしました(出典:ライフスタイルアクセント公式コーポレートサイト、J-Net21「ライフスタイルアクセント株式会社」2019年1月、ファッションプレス「ファクトリエ:Factelier」)。

ここで重要なのは、山田氏が「家業」「フランス留学」「グッチパリ店」「熊本」という4つの固有名詞を、ブランドの語り口の中心に置き続けてきた点です。日経BOOKプラス、SUPER CEO、Wedge ONLINE、日経クロストレンドなどに繰り返し登場するこの組み合わせは、ファクトリエが「単なる工場直販ECサイト」ではなく、「熊本発・創業者個人の物語と接続したブランド」として記憶される土台になっています。地方発の新規創業ブランドにとって、創業者の生まれと育ちと留学先という固有名詞の組み合わせは、コピーよりも先に伝わるブランド資産です。


2. 工場直結D2C──「希望工場価格×2倍」が変えたサプライチェーン

ファクトリエの事業構造を理解するうえで、もっとも重要なのは「希望工場価格」という値づけのフレームと、それを支える工場との直接協業のかたちです。

J-Net21「ライフスタイルアクセント株式会社 国内工場直結でアパレル業界に革命」(2019年1月)、コロカル「工場直結ファッションブランド〈ファクトリエ〉が挑戦する『希望工場価格』って?」(2018年8月、マガジンハウス)、パナソニックコネクトGEMBA「D2Cファッションブランド『ファクトリエ』の挑戦」、Wedge ONLINE「作り手と使い手をつなぐ『価値』 山田敏夫 ファクトリエ代表」、テレビ東京「カンブリア宮殿」(2016年4月7日)の各記録は、ファクトリエのビジネスモデルを以下のように整理しています。

  1. 山田氏自身が日本各地の縫製工場・染工場・繊維工場を訪問し、技術力と志のある工場のみと提携契約を結ぶ
  2. 提携工場が「自社で作りたい服」「自社の値段で売りたい服」を企画し、その「希望工場価格」をファクトリエ側に提示する
  3. ファクトリエは提携工場の希望工場価格を基本的にそのまま受け入れ、その2倍を小売価格として消費者に直販する
  4. 中間流通(問屋・百貨店・セレクトショップ等)を経由しないことで、原価率を約50%まで引き上げ、職人への還元単価を従来の2倍以上に押し上げる

工場に適正な利益を。お客様には従来の「2分の1」の価格で最高の商品を。 ── ファクトリエ公式の事業説明として、ファクトリエ公式aboutus、コロカル、J-Net21、SUPER CEO、ファッションプレスなど複数の媒体で繰り返し引用される一節

この値づけが、なぜ「業界の非常識」と呼ばれてきたか。コロカル(2018年)、Wedge ONLINE、テレビ東京カンブリア宮殿、日経ビジネス「ファクトリエ ものがたりのあるものづくり」(山田氏連載、2016年〜)の取材によれば、日本のアパレル業界では伝統的に「上代(小売価格)から逆算で工場原価を切り詰める」値づけが標準でした。ファクトリエはこれを反転させ、「工場が望む価格をまず置き、その2倍を上代として消費者に提示する」順序に組み替えました。これは値づけの逆転であると同時に、サプライチェーンの権力構造の組み替えでもあります。

工場との関係づくりについて、山田氏は複数の取材で次のように語っています。

全国の縫製工場のタウンページを取り寄せ、急行や快速の停まる駅で降りて、その町の工場へ順に電話をして直接訪問した ── 山田氏の創業当初の営業について、パナソニックコネクトGEMBA、Wedge ONLIN、SUPER CEO、note「最初の壁を超えるための5つの基本」(山田氏執筆)などで紹介される一節の要旨

ファクトリエ公式aboutusと「FACTELIER Impact Report 2025」(2025年公開、PR TIMESプレスリリース「アパレル国産比率はわずか1.4%と低迷する中、提携工場の約6割が黒字に」2025年1月)、Commerce Pick「ファクトリエ、提携工場の6割が黒字も経営環境は厳しく」、NESTBOWL「約6割が黒字。ファクトリエが、提携する国内アパレル工場の現状を調査」、Fashionsnap「約6割が黒字、人材難は加速」(2026年1月)などによれば、山田氏は創業以来、全国の縫製工場・染工場・繊維工場を直接訪問しながら提携先を選定してきたと、複数の取材で語られています。2025年時点の提携工場数は61社、累計アイテム数は1,500点以上、創業当初の提携工場2社から30倍以上に拡大しました。

ここでの新規創業者の気づきは、3つに整理できます。

第1は、「中間流通を抜く」ことを目的化せずに、「工場が値段を決められる関係をどう作るか」を目的に置いた点です。D2Cという言葉は「Direct to Consumer」の略として広く流通していますが、ファクトリエは「Direct to Factory」のニュアンスを先に据えて、その結果として直販ECに行き着いた事業として読み解けます。

第2は、契約相手を「個人の縫製工場」だけでなく、「染工場」「繊維工場」など、サプライチェーン上の各工程の地方工場に広げたことです。ファクトリエの製品ラインがシャツ、ニット、ジャケット、デニム、革小物などに広がっているのは、各工程の地方工場との直接協業を、商品ジャンルごとに積み上げてきたためです(出典:ファクトリエ公式商品ページ、ファッションプレス、SUPER CEO)。

第3は、「工場に名前を出させる」発信を、ブランド設計の中心に据えた点です。ファクトリエの商品タグには、製造を担った提携工場の名前が明記されており、コロカル、Wedge ONLINE、パナソニックコネクトGEMBAなどでも、「縫製工場の固有名詞をブランドの一部として消費者に渡す」発想が、ファクトリエの差別化の核として整理されています。


3. 創業1年目1,500万円から4年目10億円へ──成長の数字

ファクトリエの成長は、山田氏自身の発信と複数の第三者取材で繰り返し参照されてきた数字に集約されます。

『ものがたりのあるものづくり』(日経BP、2018年)、株式会社いないいないばぁ「創業4年で年商10億円。ストーリーのある商品を売る『ファクトリエ』の仕組みとは」、ICC「【最終回】『夢はオリンピックのユニフォーム』ファクトリエ山田氏が語る世界への飛躍」(2016年公開、BBT-FCT)、ICC「和える・HASUNA・ファクトリエが語る『創業資金の集め方』」、J-Net21などによれば、ファクトリエの売上は次のような推移をたどりました。

  • 創業1年目(2012年度):約1,500万円
  • 2013年:THE BRIDGE「世界的なブランドを手掛ける工場と提携する、日本初のファクトリーブランド専門オンラインコマース」(2013年7月)で取り上げられ、メディア露出が増加
  • 創業4年目(2015年度頃):年商約10億円ペースに到達(対1年目で約66倍)

創業資金については、ICCのインタビューによれば、政策金融公庫からの借入を基軸に、日本のクラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」で約70名から約110万円を調達したエピソードが残っています。創業の最小単位を「クラウドファンディングで集めた110万円+政策金融公庫の融資」で組み、その後は銀行借入を中心に成長してきたことが、複数の取材から確認できます。

メディア露出の側面では、2016年4月7日放送のテレビ東京「カンブリア宮殿」が決定的な転機の一つでした。この回ではファクトリエが「メイド・イン・ジャパンが売り物」「店舗なし」「セールなし」「生産工場を公開」「価格は工場が決める」という、アパレル業界での「タブー」を一気にひっくり返した異色ブランドとして紹介されました(出典:テレビ東京公式バックナンバー「2016年4月7日放送 ファクトリエ 代表 山田 敏夫氏」、テレ東BIZ「メイド・イン・ジャパンの底力!“工場ブランド”で世界へ」、経営管理会計「日本のスゴイ工場を発掘!急成長の『工場直販』ブランド」2016年4月)。

店舗を持たない、セールをしない、生産工場を公開する、価格は工場に決めてもらう ── テレビ東京「カンブリア宮殿」2016年4月7日放送回でのファクトリエ紹介の要旨(出典:テレ東公式バックナンバー、経営管理会計、LOVELY-LOVELY.NET「日本のスゴイ工場を発掘!急成長の『工場直販』ブランド」)

山田氏の著書『ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす「服」革命』(日経BP、2018年4月発売)は、創業前夜からファクトリエ立ち上げ、工場との関係構築、顧客との関係、試練への対処までを章立てで描き直した書籍で、複数の書評・要約サービス(フライヤー、紀伊國屋書店、日経BP SHOPほか)で取り上げられました。書名にある「ものがたりのあるものづくり」というフレーズは、ファクトリエの事業説明全体を貫く中心軸の一つとして、その後の媒体露出でも繰り返し参照されることになります。

J-Net21(2019年1月)では、ファクトリエが新規創業のD2Cでありながら、創業数年で「地方の縫製工場の経営を立て直す側に回った」事例として紹介され、衰退産業に1年で100人規模の雇用創出が結果として生まれたという、事業構想オンライン「衰退産業に1年で100人の雇用創出。工場直結ブランドが変える未来」(2018年3月)の整理にも接続されています。


4. 銀座フィッティングスペース、熊本本店、台湾出店──「ECなのに店舗を持つ」設計

ファクトリエが「店舗を持たないEC」として始まりながら、後に複数のリアル拠点を持つようになった経緯は、ブランド設計を考えるうえで興味深い意思決定の積み重ねです。

銀座経済新聞「銀座にファクトリーブランド通販サイトの試着専用スペース」(2014年12月)、THE BRIDGE「Factelier(ファクトリエ)が、銀座に試着専門の店舗をオープン、『作り手と使い手がつながる場所』に」(2014年12月)、ファクトリエ公式店舗情報、PR TIMESプレスリリースなどによれば、ファクトリエはオープンから2年強が経った2014年12月13日、東京・銀座に試着専用スペース「銀座フィッティングスペース」を正式オープンしました。プレオープンは同年11月末から始まっています。

この銀座フィッティングスペースは、商品在庫を販売する一般的な路面店とは設計が異なります。銀座経済新聞の取材によれば、店舗では同サイトで取り扱う全商品・全サイズを試着できる体制を売りにしつつ、購入を希望する顧客は店内に設置されたタブレットPCで注文する仕組みでした。販売の主体はあくまでオンライン、店舗は「試着」と「作り手と使い手が会う場所」という体験提供の場として位置づけられています。本シリーズで取り上げたヘラルボニーが2025年3月に盛岡で旗艦店「HERALBONY ISAI PARK」を、能作が富山新社屋で工場見学拠点を持つのと並べたとき、ファクトリエの銀座フィッティングスペースは「ECなのに体験拠点を持つ」設計の早期の参考事例として読めます。

熊本本店については、熊本市中心部に本社機能とともに置かれた本拠地として、ファクトリエ公式店舗情報および熊本県観光サイト「熊本ガイド」掲載の「熊本から全国へ!個性ゆたかな魅力を発信するアパレルブランド」記事で紹介されています。創業者の出身地で、実家の老舗洋品店「マルタ號」もある下通商店街エリアに本拠を置き続けている点は、本社所在地に旗艦的な店舗を残すヘラルボニー、富山に本社を構える能作と並べて読めます。

名古屋星が丘テラス店は、2016年10月22日にオープン(IDENTITY名古屋「物語を身に付ける。ファッションブランド、ファクトリエ星ヶ丘テラス店がオープン!」、星が丘テラス公式ショップ詳細)。約6年弱の運営を経て、2022年8月26日をもって閉店しました(出典:Fashionsnap「ファクトリエの『名古屋星が丘テラス店』が8月26日をもって閉店」2022年8月、note「名古屋店の閉店について」山田敏夫、SEVENTIE TWO)。閉店についてはコロナ禍を含む環境変化を背景に、創業者自身がnoteで丁寧に説明しています。地方発ブランドにとって、出店の意思決定と同じくらい、閉店の意思決定をどう言語化するかも、ブランドの信用に直結する作業として読めます。

海外展開については、2017年1月24日に台湾のツタヤ ブックストア信義店内に海外初の出店を行いました(出典:WWDJAPAN「『ファクトリエ』が海外進出 台湾のツタヤ内に出店」)。海外進出を「単独路面店」ではなく「日本資本の書店内」という形で始めた点は、地方発ブランドが海外で日本文脈を保ったまま接点を作る、現実的な作法の参考になります。


5. 「希望工場価格」「100年残る服」「ものがたりのあるものづくり」──経営フレーズの輪郭

ファクトリエの公式発信と複数の第三者取材を横断すると、いくつかのフレーズに同社の経営観が集約されていることがわかります。

  • 「工場に適正な利益を。お客様には従来の『2分の1』の価格で最高の商品を。」(ファクトリエ公式aboutus・コーポレートサイトのキーメッセージ、複数取材で繰り返し引用)
  • 「希望工場価格」(工場が決める値段を、その2倍で消費者に売る値づけのフレーム。コロカル2018年、J-Net21 2019年、Wedge ONLINEなど)
  • 「100年残る服」(ファクトリエ公式ブランドメッセージ、SUPER CEO、ファッションプレス、店舗情報ページなどで使用)
  • 「ものがたりのあるものづくり」(山田氏著書タイトル、日経ビジネス連載タイトル、ファクトリエ公式マガジン執筆者プロフィールなどで継続的に使用)

これらのフレーズは、相互に補完関係にあります。「希望工場価格」というメカニズムは、「100年残る服」を作るための工場の経済基盤を確保する装置であり、「ものがたりのあるものづくり」は、その経済基盤の上で生まれた服を、なぜそれだけの価値があるのか消費者に語る方法です。地方発ブランドにとって、経営フレーズは飾り言葉ではなく、サプライチェーン上の各役割を結びつけるロープのような働きをしている、というのが本事例から読み取れる作法です。

また、ファクトリエが2024年に「FACTELIER Impact Report 2024」、2025年に「FACTELIER Impact Report 2025」を相次いで公開したことは、自社の事業を「アパレル国産比率1.4%という時代に、提携工場の約6割を黒字にしている」という、業界全体の数字と接続して説明し直す動きとして読めます(出典:ファクトリエ公式「FACTELIER IMPACT REPORT2025」「FACTELIER IMPACT REPORT2024」、PR TIMESプレスリリース、Commerce Pick、Fashionsnap、NESTBOWL、西日本新聞)。これはBtoCのアパレルブランドが、自社の取引先工場の業績調査を自ら公開するという、本シリーズで取り上げてきた他のブランドにはほとんど見られない情報開示の作法です。


6. 編集視点:中間流通を抜くD2Cと、地方縫製工場との協業のかたち

ファクトリエの事例から取り出せる学びを、ローカルグローススタジオ的に整理すると次のようになります。

  1. 「中間流通を抜く」を目的化せず、「工場が値段を決められる関係」を目的に置いた ファクトリエは、原価を切り詰めるためにD2Cを選んだのではなく、工場が「希望工場価格」を提示できる関係を成立させるために、結果として中間流通を抜いた直販を選びました。地方企業が「直販EC」を検討するとき、最初に決めるべきは「いくらで売るか」ではなく「誰が値段を決めるべきか」かもしれません。BtoB領域とBtoC領域、それぞれで誰が値づけの主導権を持つかという論点は、本事例の中心テーマです。

  2. 創業者個人の出自(熊本、老舗洋品店、フランス留学、グッチパリ店)をブランドの語り口に統合した 山田氏は「熊本の老舗洋品店の次男坊」「フランス留学」「グッチパリ店勤務」という4つの固有名詞を、創業以来一貫して発信の中心に置き続けてきました。地方発の新規創業ブランドにとって、創業者の出自と原体験は、コピーよりも先に伝わるブランド資産です。熊本という本社所在地を変えず、実家のある下通商店街エリアと接続したままブランドを展開している点は、地方発ブランドの「動かない強さ」の参考になります。

  3. タグに工場名を出すという発信設計 ファクトリエの商品タグには、製造を担った地方縫製工場・染工場・繊維工場の名前が明記されます。地方の工場は、それまで取引先のブランドや百貨店の名前の裏側で匿名のまま製造を担ってきました。タグに工場名を出すという小さな設計が、職人の固有名詞をブランドの一部として消費者に渡すという、サプライチェーン全体の関係性の組み替えになっています。地方の協業先を「下請け」ではなく「ブランドの一員」として並べ直すための、極めて具体的な作法です。

  4. 「店舗を持たないEC」が、後に「試着体験の場」としてリアル拠点を持つに至った順序 ファクトリエは創業時にあえて店舗を持たない設計から始め、創業約2年で銀座フィッティングスペースという「販売の場ではなく試着体験の場」を加えました。地方発ブランドにとって、EC先行で需要を確認してから、需要の濃い地点に試着・体験のためのリアル拠点を加えるという順序は、固定費を抑えながら成長を作るうえで再現性のある作法です。

  5. 創業者自身が長期に発信のペンを握り続けたこと 山田氏は日経ビジネス連載「ファクトリエ ものがたりのあるものづくり」(2016年〜)、note「toshio_yamada」、自著『ものがたりのあるものづくり』(日経BP、2018年)、ファクトリエ公式マガジンの執筆など、創業から10年以上にわたり、自社事業の語り口を一次情報として発信し続けてきました。地方発の新規創業ブランドにとって、創業者本人の発信は、外部メディアの取材依頼を引き寄せる起点であると同時に、内部の打ち手を社内外に説明し続けるための言語化の場でもあります。


本事例から見える経営とマーケティングの学び

ファクトリエの物語は、家業の事業承継ではなく、新規創業のD2Cブランドが、地方縫製工場・染工場・繊維工場との直接協業によって、職人への還元単価を従来の2倍以上に押し上げた事例として読めます。重要なのは、山田氏が「熊本の老舗洋品店の家に育ち、フランス留学とグッチパリ店で『日本には本物のものづくりブランドがない』と問われた」という個人的な原体験を、「希望工場価格」「工場直結」「100年残る服」「ものがたりのあるものづくり」という連動した経営フレーズに翻訳し、地方の工場と消費者の関係を組み替え直したことです。

ブランドやリソースが薄い状態から成長を作る経営者にとって、ファクトリエの歩みは、中間流通を抜く直販モデルが「値段を切り詰めるための仕組み」ではなく、「サプライチェーン上の各役割の力関係を組み替えるための仕組み」になり得るという、設計の出発点の参考になります。地方発の新規創業は、地域の不利な条件を、ブランドの語り口と協業先のネットワークによって、別の物語に置き換える作業に近い──ファクトリエの歩みは、その作法の具体例です。


関連:ローカルグローススタジオ・グロースマガジン

本事例の学びと共通する、グロースマガジン(https://lgstudio.jp/magazine/)の解説記事を2本紹介します。

1. 地方企業/スタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略

共通点: ファクトリエは大手アパレルと「広告・店舗網・SKUの量」で正面から争わず、「工場が値段を決める」「タグに工場名を出す」「店舗を持たない」「セールをしない」という、業界の標準と真逆の打ち手で独自のポジションを取りました。本記事が示す「低リソース・ブランド無し」の状態で勝負しない座組と、ファクトリエの工場直結D2Cの設計は、出発点の前提条件として完全に重なります。

2. 地方企業と、スタートアップの類似点と相違点

共通点: ファクトリエは熊本発の新規創業D2Cでありながら、提携先は全国800以上を訪問した地方縫製工場・染工場・繊維工場という、典型的な地方企業群です。「新規創業のスタートアップ」と「地方の老舗工場」を経済的に同じプラットフォーム上に並べ直したことは、本記事が説く「地方企業とスタートアップの共通点」の具体的な実装例として読めます。


出典


※本稿は2026年5月18日時点の公開取材記事と公式発表を基に構成しています。固有名詞・数値・受賞年は引用元の表記に従いました。引用文は複数取材の要旨をもとに再構成した箇所があり、公開前に原文表現の最終確認の余地があります。従業員数・売上高など一部の経営数値は、本稿で参照できた第三者取材記事の範囲では時系列で表記が揺れているため、本文では「複数の取材記事で言及された定性的記述」と「公式プレスリリースで明記された定量データ」を切り分けて記載しました。記載に誤りがあった場合は、お問い合わせフォームよりご指摘ください。

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