グローススタジオレポート

地方企業の成長事例

三和銀行から戻った17代目が、PR発信で再構築した「200年目の採用と組織」

株式会社古屋旅館 / 静岡県熱海市 / 温泉旅館 (26室・1806年創業) / 1806年創業

公開日: 2026-05-16 / 出典 18本 / 本文約5,200字

「家業ではなく企業を経営する」発想でDX施策をひとつにまとめ、PR TIMES起点の取材獲得で新卒応募者を数倍に伸ばした、26室の老舗の成長事例

今回取り上げるのは、静岡県熱海市の温泉宿、合資会社古屋旅館(2025年2月に株式会社古屋旅館へ組織変更)です。1806年(文化3年)創業、熱海でもっとも古い温泉宿の1つに数えられる客室26室の老舗で、現代表取締役・17代目当主の内田宗一郎氏(1973年生まれ、早稲田大学法学部卒)は、三和銀行(現・三菱UFJ銀行)からの入社という同業界では稀な経歴を持ちます。コロナ禍を挟んで業績を伸ばし、DX施策の発信で新卒応募者が数倍に増加したことがITmediaビジネスオンラインなどで取り上げられています。

本稿は、PR TIMES MAGAZINE、ITmediaビジネスオンライン、観光経済新聞、熱海経済新聞、あなたの静岡新聞、アドグラフィー、株式会社古屋旅館 PR TIMES プレスリリースなどの公開取材記事と公式発表をもとに、以下3点を整理します。

  1. 代替わりの前夜──銀行員から家業に戻った17代目が見た熱海の風景
  2. 何を変えたか──DX・人事制度・PRをひとつにまとめた「老舗の作り直し」
  3. 結果と次の手──応募者数倍、株式会社化、HD体制への移行

1. 代替わりの前夜──銀行員から家業に戻った17代目

古屋旅館の17代目・内田宗一郎氏は、1973年生まれ、1997年3月に早稲田大学法学部を卒業、同年4月に株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行しました。熱海商工会議所青年部の会員紹介ページや観光経済新聞の取材に記載された経歴によれば、内田氏は2002年4月(平成14年4月)に合資会社古屋旅館に入社、2015年7月に代表取締役に就任しています。家業に戻ってから約13年の助走期間を経た代替わりです。

古屋旅館自体は1806年創業、内田家としては17代続く家系で、家系図も残っているとされます(熱海商工会議所青年部「アキナイ人たち」紹介、2014年)。歴代当主の多くが旅館業の現場で育った中で、内田氏は「都市銀行勤務を経て家業に戻った最初の世代」にあたります。

この経歴は、後の経営スタイルに直接結びついています。あなたの静岡新聞「キーパーソン」欄(2023年)では、内田氏の経営姿勢を「家業ではなく企業を経営する」というポリシーで紹介しています。観光経済新聞の「コロナ新時代への提言」インタビュー(2020年)でも、内田氏は資金確保と金融機関との信頼関係を経営の前提として語っており、銀行員時代に身につけた財務と説明責任の作法が、26室の旅館経営に持ち込まれていることが取材記事から読み取れます。


2. 「令和4年をデジタル元年」──業務の解体と再設計

内田氏が家業に戻ってからの動きで、外部から最初にまとまった形で観察されるようになったのは、コロナ禍の前後で表面化したDX施策の集合です。古屋旅館の公式プレスリリースや観光経済新聞の連載「あんな改装 こんな新事業」によれば、内田氏は2022年(令和4年)を「デジタル元年」と位置づけ、業務の解体と再設計に踏み込みました。

ITmediaビジネスオンライン「なぜ、新卒の応募者数が数倍に? 熱海の老舗旅館が本気で取り組んだDXの全貌」(2023年6月20日公開)の見出しが示すように、古屋旅館のDXは1点ものではなく、業務全体を覆う複数の取り組みの束として語られています。報道や公式発表から確認できる代表的な施策には、次のようなものがあります。

  • クラウド型ビジネスチャットツールの全社導入
  • 動画マニュアル化(社長・ベテラン社員の知見を新人が同じ手順で再現できるように整備)
  • ホテル管理システム(PMS)のリニューアル
  • 次世代型インターホンの導入
  • 従業員向けオンライン英会話学習の導入
  • 勤務シフト自動作成サービス「Shiftmation」の導入(2025年)
  • 予約データ入力のオンライン化+アウトソーシング化による月間120時間の作業時間短縮(2024年)

このうち、予約データ入力のオンライン化+アウトソーシング化については、株式会社古屋旅館のPR TIMESプレスリリース「創業200年超、熱海一の老舗温泉宿『古屋旅館』が予約データ入力のオンライン&アウトソーシング化を推進、月間120時間の作業時間短縮を実現」(2024年配信)で、定量的な効果が明示されています。

熱海経済新聞によれば、2021年9月に熱海・伊東の経営者向けに開かれたオンラインセミナー「コロナ禍で勝ち抜くビジネスの極意とは」(参加約100人)の中で、内田氏は次のように語っています。

「人=従業員が最も大事」 ── 熱海経済新聞「熱海の古屋旅館17代目社長・内田宗一郎さんがオンラインセミナー『経営の極意』」(2021年9月)

DX施策の束は、コスト削減や効率化単体ではなく、人手不足が構造化している温泉旅館産業において「従業員の働きやすさ」を確保するための投資として、内田氏の発信では一貫して説明されています。


3. PR TIMESを軸にした発信──「やっていること」を取材される導線に変える

古屋旅館の事例で象徴的なのは、社内のDXや働き方改革の取り組みが、PR TIMESを介して継続的に発信され、結果として全国メディアの取材に接続されていったという流れです。

PR TIMES MAGAZINEのインタビュー記事「熱海で200年超。メディアが注目する老舗旅館、17代目がはじめたPR」(株式会社PR TIMES発行)では、内田氏が広報PRを意識した契機と、押さえている観点が紹介されているとされます。 本稿執筆時点でPR TIMES MAGAZINE本文への直接アクセスができなかったため、本段落の「意外性/連続性/物語性」の3観点と関連表現は、複数の検索結果の要約をもとに再構成しています。公開前に原文確認のうえ、引用文言と並びを最終調整する余地があります。

実際に株式会社古屋旅館名義のPR TIMESプレスリリースは、組織変更(合資会社→株式会社)、温泉タンク増設、社員寮新設、勤務シフト自動化導入、和栗モンブラン専門店「Maison de Parfait 十全十美」開業、予約データのオンライン化など、業務・人事・新規事業をまたいだ多面的な打ち手が連続して配信されており、Yahoo!ニュース、Infoseekニュース、STRAIGHT PRESS、静岡新聞アットエスなどの転載媒体に広がっています。

この発信の積み上げの帰結として、ITmediaビジネスオンライン、観光経済新聞、あなたの静岡新聞、熱海経済新聞などの取材が継続的に獲得され、ITmediaの記事タイトルにあるとおり「新卒の応募者数が数倍」という採用文脈での認知につながったことが報じられています。

2025年1月に開催されたPR TIMESのユーザー交流会「人気の旅館・ホテルはどうやって注目を集めているのか。『ヒルナンデス!』プロデューサーと考える広報PRの可能性」(PR TIMES MAGAZINE、2025年1月30日掲載)には、内田氏が登壇者として参加しています。テレビ番組プロデューサーと並んで「200年超の老舗旅館の17代目」がPRノウハウを語る立場に立ったこと自体が、古屋旅館の発信が一定の評価軸を得たことの傍証として読めます。


4. 採用と組織──応募者数倍、社員寮新設、株式会社化

内田氏の代替わり後の打ち手で、もっとも分かりやすい結果が出ているのは採用領域です。

ITmediaビジネスオンライン(2023年6月)の見出しは「なぜ、新卒の応募者数が数倍に?」とDXと採用を直接結びつけており、株式会社古屋旅館のPR TIMESプレスリリースおよびその転載記事でも、応募者数の増加が同社の代表的な成果として繰り返し言及されています。応募の絶対数は媒体間で表現が異なるものの、「老舗温泉旅館でありながら、業界では珍しい施策をやっている会社」という像が、求職者の側にも届きはじめているという評価が複数の取材で確認できます。

採用増を受け止める供給側の整備も並行して進んでいます。株式会社古屋旅館PR TIMES「熱海の老舗温泉宿『古屋旅館』が社員寮を新設、隣地含め徒歩圏内に4軒37部屋を所有」(2025年4月16日配信)によれば、内田氏は社員寮を順次拡張し、徒歩圏内に4軒37部屋を確保する段階に至っています。熱海という移住・通勤の両面でハードルがある立地で、新人の生活基盤を旅館側が用意することは、採用条件の前提を組み替える投資です。

組織面では、2025年2月に合資会社古屋旅館が株式会社古屋旅館へ組織変更し、株式会社化を起点として「古屋旅館ホールディングス」と呼ばれる持株会社体制への移行が予定されていることが、観光経済新聞「あんな改装 こんな新事業」の取材で報じられています。同記事によれば、内田氏は組織変更の狙いを「経営と所有を分けて責任を明確にすることと、機動的に企業活動をできるようにするため」と説明しています。

「旅館を増やすことに今は興味がなく、まずは企業理念に掲げる『日本一の老舗旅館』になれるように26室の旅館でどこまでできるかを追い求めたい」 ── 観光経済新聞「老舗が常に見つめる”最新” 熱海温泉・古屋旅館」

26室というキャパシティを動かさずに、組織・人事・PR・新規事業の側を再設計し続けるという、いわば「店舗数を増やさない代替わり経営」の輪郭が、ここで明示されています。


5. 「老舗だからこそ新しいことをやる」──経営スタイルのフレーズ化

内田氏の経営スタイルは、観光経済新聞、ITmediaビジネスオンライン、あなたの静岡新聞などの取材で、いくつかのフレーズに集約されています。

  • 「家業ではなく企業を経営する」(あなたの静岡新聞「キーパーソン」、2023年)
  • 「令和4年をデジタル元年と位置付け」(観光経済新聞「あんな改装 こんな新事業」)
  • 「人=従業員が最も大事」(熱海経済新聞、2021年9月のセミナー登壇発言)
  • 「26室の旅館でどこまでできるかを追い求めたい」(観光経済新聞)

3つを並べて読むと、内田氏の代替わり後の意思決定は、(1)家業として続いてきた仕組みを企業としての経営ルールに置き換え、(2)従業員が困っていた業務の負担を業務システムで減らし、(3)宿の数ではなく1宿あたりの質の高さで勝負する、という3つの判断軸で動いていることが見えてきます。

老舗の旅館経営に「銀行員的な財務・組織観」を持ち込み、それを「老舗だからこそ意外性が生まれる」発信材料に組み替えたところに、古屋旅館の代替わりの独自性があります。経歴がそのまま発信の素材になるという構造は、地方企業の後継者にとって示唆的な部分です。


6. 編集視点:老舗の組織変革とPR採用の作法

古屋旅館の事例から取り出せる学びを、ローカルグローススタジオ的に整理すると次のようになります。

  1. 代替わり社長の前職こそ、最初の差別化資産になる 内田氏が銀行員出身であるという経歴は、「200年続く老舗の旅館経営者」という像と組み合わせたときに、それ自体が取材されやすい対比を生みます。地方企業の後継者にとって、家業の外で得たキャリアを「足りなかったもの」と捉えるのではなく、「家業に持ち込める強み」として言い換えることが、初手のマーケティングになります。

  2. DXは1点ではなく、束で発信する 古屋旅館のDXは、PMSリニューアル・シフト自動化・予約データ入力のアウトソーシング化・動画マニュアルなど、施策の束として発信されています。1つひとつは中小企業にも珍しくない取り組みですが、束として並べたときに「老舗旅館が経営として変革に取り組んでいる」という像になり、ITmediaのような全国媒体の見出しが成立します。

  3. 発信は「結果」より「動いている状態」を出す PR TIMES MAGAZINEで紹介されているとされる広報の3観点(意外性・連続性・物語性)は、検索要約ベースの再構成のため最終確認が必要ですが、結果が出てからまとめて発信するのではなく、動いている過程を出すことで連続的にメディアに取り上げられる、という発想に近いと読めます。中堅企業のPRは、四半期ごとの大きな発表より、月次の小さな積み上げの方が結果として遠くまで届きます。

  4. 採用は、職場の物理的条件を旅館側が引き受ける 社員寮を徒歩圏内で37部屋まで広げるという内田氏の判断は、熱海という観光地で求職者が直面する「住む場所がない」「家賃が重い」というペインに、旅館側が直接介入したものです。地方企業の採用は、求人広告よりも前に、住・食・通勤の物理条件を採用条件として組み立て直すことの方が、効果として大きいケースがあります。

  5. 規模を増やさない代替わりという選択肢 「26室のままどこまでできるか」という内田氏の発言は、多店舗展開や大型化を志向しがちな代替わり経営に対する1つの対案です。事業承継の議論は「次世代でどう伸ばすか」に寄りがちですが、規模ではなく、1宿あたりの組織・採用・サービスの密度を上げるという方向の代替わりも、地方企業の現実的な選択肢として残ります。


本事例から見える経営とマーケの学び

古屋旅館の物語は、地方企業が抱える「採用難」「業務の属人化」「広報の手が回らない」課題を、代替わり社長の前職経験と継続的なPR発信で順に解いていった事例として読めます。重要なのは、内田氏が銀行員時代の財務感覚と「家業ではなく企業を経営する」という言語化を、26室の老舗旅館に持ち込んだうえで、DXと採用を1つの発信としてまとめ直したことです。地方マーケティングは、派手な企画よりも、「自社の前提条件を組み替える小さな打ち手」を、PRを通じて連続して見せ続ける作業に近い──古屋旅館の歩みは、その作法の参考になります。ブランドやリソースが薄い状態から成長を作る経営者にとって、「家業に戻る前のキャリアをどう資産にするか」を考えるための学びになります。


出典


※本稿は2026年5月16日時点の公開取材記事と公式発表を基に構成しています。固有名詞・数値は引用元の表記に従いました。PR TIMES MAGAZINE本人インタビュー等、WebFetch経由で本文取得ができなかった一部記事については、検索エンジンの要約結果と複数取材記事のクロスチェックから内容を再構成しました。記載に誤りがあった場合は、お問い合わせフォームよりご指摘ください。

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