グローススタジオレポート

地方企業の成長事例

「鎌倉資本主義」を掲げ地域コミュニティから上場まで進めた地方発IT企業の経営モデル

鎌倉発・1998年創業のIT企業が「面白法人」「鎌倉資本主義」を掲げ、地域コミュニティ活用で上場まで進めた、地方発IT企業の独自経営モデル

企業概要(公開情報)

企業名
株式会社カヤック
所在地
神奈川県鎌倉市
代表者
柳澤大輔(代表取締役CEO)
設立
1998年
業種
IT/ゲーム/Web受託/地域事業
従業員数
連結572名・単体270名(2023年12月期末時点)
本記事の公開情報
2026-05-18 公開 / 出典 17本 / 本文約5,800字

今回取り上げるのは、神奈川県鎌倉市に本社を置く株式会社カヤックです。1998年8月3日に当時の大学同期3人で合資会社として設立、2005年1月に株式会社化、2014年12月25日に東京証券取引所マザーズ市場へ上場し、現在は東証グロース市場に上場しているIT企業で、自らを「面白法人」と名乗っています。2024年12月期の連結売上高は167.2億円、連結従業員数は2023年12月期末時点で572名と公開IR資料に記録されています。

本稿は、次の公開取材記事と公式発表をもとに、以下4点を整理します。

  • カヤック公式コーポレートサイト
  • 東証適時開示情報
  • 日経クロストレンド
  • 日経ビジネス
  • 宣伝会議「ブレーン」
  • Forbes JAPAN
  • greenz.jp
  • AdverTimes
  • CoinDesk JAPAN
  • nippon.com
  • 慶應義塾大学SFC公式
  • 各種プレスリリース
  1. 創業前夜──柳澤大輔氏ら3人の出会いと「面白法人」の発想
  2. ユニークな経営文化──サイコロ給、ぜんいん人事部、ブレストの作法
  3. 「鎌倉資本主義」と地域事業──カマコン、まちのコイン、スマウト
  4. 上場とゲーム/Web/地域事業の現在地

1. 創業前夜──「KAYAC」という社名の由来と「面白法人」の発想

カヤックの創業者は3人。代表取締役CEOを務める柳澤大輔氏、取締役CTOの貝畑政徳氏、取締役COOの久場智喜氏です。社名「KAYAC」は3人の苗字の頭文字、Kaihata・Yanasawa・Cubaを並べたものだと、Wikipedia「カヤック (インターネット企業)」および公式コーポレートサイト「会社概要」に記載されています。

柳澤氏は1974年香港生まれ。慶應義塾高等学校時代に体育会自動車部に所属し、そこで麻雀仲間として貝畑氏と出会ったと、社長名鑑「地域に密着したITクリエイター集団!鎌倉から全国へ広げる『面白法人』の理念とは」(2020年公開、要旨)で紹介されています。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)環境情報学部に進学し、ニューラルコンピューティングを専攻するなかでスノーボードを介して久場氏と出会いました。SFC公式「柳澤大輔 特別招聘教授」ページによれば、当時ゼミでは武藤佳恭教授のもとで、いまで言うAIにあたる技術を学んでいます。

大学では神経回路網(ニューラルコンピューティング)を学んでいて、競走馬の運勢を当てるプログラムをつくって遊んでいました ── 慶應義塾大学SFC「柳澤大輔 特別招聘教授」紹介ページ(要旨、取得日2026-05-18)

卒業後、柳澤氏は1997年にソニー・ミュージックエンタテインメントへ入社。通信販売部門の「ファミリークラブ」に配属され、大阪の百貨店での販売員勤務を経て、アウトドア用品・アパレル・雑貨の商品企画を担当したと、エン・ジャパン系のインタビュー記事や日経ビジネス連載「自分自身を知る旅を続ける『面白法人』カヤック柳澤氏」(2019年公開)で紹介されています。在職中も、貝畑氏・久場氏と週末ごとにアイデアを出し合うなかで、「自分たちの会社をつくる」という構想が固まっていきました。

1998年8月3日、柳澤氏・貝畑氏・久場氏の3人で「合資会社カヤック」を設立。資本金は3万3000円。公式コーポレートサイト「合資会社カヤックが誕生しました! 資本金3万3000円のワケとは?」によれば、3人が1万1000円ずつ出し合った金額で、合資会社という形式を選んだのは、当時、株式会社設立に必要だった最低資本金1000万円を用意せず、3人で対等な責任を負う設計にするためだったと振り返られています。

注目すべきは、創業当時から「面白法人」というフレーズを社名の前に冠していた点です。柳澤氏は複数の取材で、「企業にも人格があると気づいた」「自分たちが面白がる、周囲から面白いと言われる、誰かの人生を面白くする、という3階層を理念にした」と語っており、社長名鑑、AdverTimes、greenz.jpなどがいずれもこの3階層を共通して紹介しています。

面白法人カヤックという言葉には、次の3つの思いが込められています。まずは自分たちが面白がろう、次に周囲からも「面白い人」と言われよう、そして誰かの人生を面白くしよう ── 社長名鑑「地域に密着したITクリエイター集団」(2020年公開、要旨)

地方発IT企業の創業ストーリーは、後継のスタートアップ史のなかで「東京/シリコンバレー型」の語り口で整理されがちですが、カヤックの場合は東京で1998年に立ち上げた事業を、4年後に鎌倉へ本社移転して根を張り直すという経路をとっています。後述する「鎌倉本社」「鎌倉資本主義」の発想は、創業時点ですでに「自分たちが面白がれる場所で事業をやる」という前提条件のなかに芽生えていました。


2. 2002年・鎌倉本社移転──「都心から55分、海と山と文化資本」

カヤックの公式コーポレートサイト「沿革」および「鎌倉本社の理由」によれば、本社移転は2002年9月1日。所在地は神奈川県鎌倉市由比ガ浜。当時の従業員規模は20名前後で、IT企業が東京・渋谷や六本木ヒルズへ集積していた時代に、鎌倉という地方都市に本社を移すのは異例の選択でした。

都心から電車で約55分、海と山があり、文化資本に恵まれている。多種多様な価値観を受け入れる土壌と、新しい文化を生み出す力、世界に向けての発信力が、鎌倉にはあります ── カヤック公式「鎌倉本社の理由」(取得日2026-05-18、要旨)

鎌倉を選んだ理由は、創業メンバーが学生時代から好んで通っていた土地だったこと、湘南エリアがクリエイターに人気だったこと、そして「東京一極集中ではなく、企業ごとに地域の特色を生かしたほうが多様で面白い」という経営判断だったと、三幸エステート「テレワーク事例 株式会社カヤック」(2020年公開)、greenz.jp「面白法人カヤックの柳澤大輔さんに聞く、地域と会社の幸せな関係とは?」(2015年公開)、nippon.com「面白法人カヤック:鎌倉から『地域の豊かさ』を発信」(2020年公開)などで一貫して語られています。

鎌倉移転と同時に始まったのが、「旅する支社」と呼ばれる取り組みです。公式コーポレートサイト「沿革」によれば、2002年5月31日から数ヶ月間、社員全員がオフィスを離れて移動しながら働く実験を行い、これが現在まで続く「旅する支社」のルーツになっています。リモートワーク・ワーケーションが一般化する20年以上前から、「場所を問わずに働く」設計がカヤックの中に組み込まれていたことが、公式記録からも確認できます。

鎌倉本社は2007年に拡張移転(公式「オフィスに畳?鎌倉本社が移転」2007年11月公開)、その後も社員数の増加に合わせて段階的に拡張されていきます。注目すべきは、東京支社を別に持ちながらも、「面白法人」の本社機能と意思決定は一貫して鎌倉に置き続けている点です。地方発上場IT企業として「東京に本社を移すか」という選択を経営の節目ごとに突きつけられる場面で、カヤックは鎌倉本社を維持する判断を続けています。


3. サイコロ給、ぜんいん人事部、ブレスト──経営文化の輪郭

カヤックの経営文化を語るうえで欠かせないのが、独自の人事制度群と「ブレスト」中心の意思決定スタイルです。公式コーポレートサイト「制度・行事」「サイコロ給とスマイル給」、HR NOTE「カヤック『ブレストカード』から学ぶ、新しいコミュニケーション文化のつくりかた」(2018年公開)、スタジオパーソル「失敗する人事制度のパターンとは?面白法人カヤックの数少ない”スベった”制度を聞いた」(2022年公開)などが、繰り返し以下の3制度を紹介してきました。

サイコロ給

毎月給料日前に、全社員がサイコロを振り、「月給×(サイコロの出目)%」が賞与にプラスαされる制度です。出目が1なら月給の1%、6なら6%。1〜6%のあいだで毎月変動するこの仕組みは、公式コーポレートサイト「サイコロ給とスマイル給」で次のように説明されています。

人が人を評価する以上、完璧に公平な評価制度をつくるのは難しい。人ではなく天が采配する要素があってもいいのではないか ── 公式コーポレートサイト「サイコロ給とスマイル給」(取得日2026-05-18、要旨)

サイコロ給は1998年の創業期から続く制度で、@人事ONLINE「カヤックはクリエイターをどう評価する?〜サイコロ給がある理由」(2020年公開)では、評価制度が常にもつ「最後の1%の納得感」を、評価ではなく偶然で扱うことで、社員と会社の関係を平和に保つ仕組みとして紹介されています。

ぜんいん人事部

「ぜんいん人事部化計画」と呼ばれる制度で、全社員の名刺に「人事部」と記載することで、社員一人ひとりが採用活動の主体になる仕組みです。スタジオパーソルの取材によれば、この制度の導入後、採用コストが約4割下がったと記録されています。地方拠点ゆえに採用候補者との直接接点が東京企業より少ないという制約を、「ぜんいん人事部」というフレームで反転させた事例として読めます。

スマイル給

毎月、全社員がランダムで選ばれた別の社員1人を評価するが、支給額はゼロ円という制度です。金額が動かない代わりに、「あなたのこういうところが面白い」という言葉が社内を循環する設計です。公式「サイコロ給とスマイル給」では、「給料に上乗せされないが、お互いを認め合うコミュニケーションの仕組みとして残っている」と紹介されています。

ぜんいん社長合宿

年2回、社員全員が業務から離れて1泊2日の合宿に出かけ、「自分がカヤックの社長になったつもりで」与えられたお題についてブレストする取り組みです。フォーカスシステムズWebマガジン「全社員を巻き込むブレストで、笑って働ける会社が育つ 面白法人カヤック」(2020年公開)によれば、新制度・新サービスの多くがこの合宿で生まれており、4年ぶりにリアル開催した2023年の様子は公式「4年ぶり!『ぜんいん社長合宿』をリアルで開催しました」(2023年11月公開)に記録されています。

ブレスト中心の意思決定

ブレスト(ブレインストーミング)はカヤックの中核に位置づけられています。公式コーポレートサイト「3. ブレストに始まりブレストに終わる」、PHP THE21「面白法人カヤックが実践する『すごいブレスト』とは?」(2020年公開)、HR NOTE「ブレストカードから学ぶ、新しいコミュニケーション文化のつくりかた」(2018年公開)などが繰り返し紹介しているのは、カヤックのブレストには明確な作法があるという点です。

ブレストこそが、カヤックの原動力です。カヤックが発信する数々の新サービスや新制度は、すべてこのブレストから生み出されています ── 公式コーポレートサイト「3. ブレストに始まりブレストに終わる」(取得日2026-05-18、要旨)

「人の発言を否定しない」「乗っかる」「質より量」「アイデアは既存のアイデアの組み合わせ」「他人のアイデアで自分が儲けようと思わない」といった原則が、ブレストカードという社内ツールにも落とし込まれており、社外でも体験できる形で提供されています(thinkit「3ステップでどんどんアイデアが沸いてくる!『ブレストカード』でカヤック式発想法を体験」2018年公開)。

ここでの「面白法人」としての特徴は、(1)制度設計を「面白さ」というKPI (重要業績評価指標)で内製していること、(2)サイコロ給・スマイル給のように「金銭的インパクトは小さいが文化的インパクトが大きい」設計を多用していること、(3)ブレストを「意思決定の作法」として組織の標準動作に組み込んでいること、の3点に整理できます。


4. 「鎌倉資本主義」とカマコン──地域コミュニティ活用の事業設計

カヤックを地方発IT企業の代表例として取り上げるべき最大の理由は、「鎌倉資本主義」というオリジナルの経営思想と、その実装としての地域事業の存在です。

カマコン(2013年設立)

公式コーポレートサイト、Forbes JAPAN「鎌倉活性化プロジェクト『カマコン』が、Forbes JAPANに取り上げられました!」(2017年4月公開)、nippon.comによれば、2013年、柳澤氏が中心となって、鎌倉に拠点を置くIT系ベンチャー経営者仲間とともに「カマコンバレー」(現・カマコン)を設立しました。「この街を愛する人を、全力支援!」をコンセプトに、企業の経営者、行政、NPO、地域の個人が月1回の定例会で集まり、地域の課題に対してブレストでアイデアを出し合う場として運営されています。

鎌倉のIT企業を中心に、街を愛する人たちが集まり、地域の人が持ち込む課題に対してアイデアを出し合う。出てきたアイデアは、参加者がジブンゴトとして引き取って動かす ── nippon.com「面白法人カヤック:鎌倉から『地域の豊かさ』を発信」(2020年公開、要旨)

nippon.comの取材時点で、会員企業は43社、個人会員は142人と紹介されています。注目すべきは、カマコンが「カヤックが主催する会社の活動」ではなく「鎌倉の地域コミュニティ」として独立した運営体になっている点です。カヤックが地域で事業を回すための「自社最適」ではなく、鎌倉という地域全体で動かす場をまずつくり、そこに自社も一参加者として加わるという順序で設計されています。

「鎌倉資本主義」(2017年〜)

柳澤氏は2017年ごろから、「鎌倉資本主義」というフレーズで自身の経営思想を語るようになります。著書『鎌倉資本主義──ジブンゴトとしてまちをつくるということ』(プレジデント社、2018年11月発売)、AdverTimes「カヤックが提唱する『鎌倉資本主義』とは? 柳澤大輔さんインタビュー」(2018年7月公開)、宣伝会議「ブレーン」2018年8月号「カヤックが提唱する『鎌倉資本主義』とは?」、コロカル「鎌倉資本主義って何!? 〈面白法人カヤック〉代表・柳澤大輔さんが考える、企業がまちにできること」(2018年6月公開)が、この思想を体系的に紹介しています。

中核にある考え方は、地域には3種類の資本がある、というモデルです。

  1. 地域経済資本(財源、生産性、雇用)
  2. 地域社会資本(人と人のつながり、コミュニティ)
  3. 地域環境資本(自然、歴史、文化)

いまの資本主義は地域経済資本だけを見ている。地域社会資本と地域環境資本を含めた3つの資本を同時に増やすことで、地域全体の幸福度を高めることができる ── AdverTimes「カヤックが提唱する『鎌倉資本主義』とは?」(2018年7月公開、要旨)

「鎌倉資本主義」というフレーズは、単なるキャッチコピーにとどまらず、後述するコミュニティ通貨「まちのコイン」、移住スカウトサービス「スマウト」、まちの保育園・まちの社員食堂などの事業として、カヤック社内に「ちいき資本主義事業」という独立セグメントの形で実装されました。

コミュニティ通貨「まちのコイン」

「まちのコイン」は、地域内での人と人のつながりを可視化する地域通貨サービスです。CoinDesk JAPAN「【柳澤大輔】地域通貨で人のつながりを可視化する。面白法人カヤックが考えるカラフルな地域社会とは?」(2018年公開)、in.LIVE「カヤックだからできたコミュニティ通貨『まちのコイン』、浸透する地域通貨のつくり方とは?」(2024年公開)、デジタル庁「デジタル地方創生サービスカタログ 2024年冬」が、サービス全体像と全国展開を紹介しています。

仕組みの特徴は、コインを「お金を稼ぐ」のではなく「人とつながる体験」を媒介するゲームとして設計している点です。地域の店舗で挨拶をするとコインがもらえ、もらったコインは別の店舗で「店主とおしゃべりする」「店の手伝いをする」などの体験と交換できる。「貯めるほど偉い」設計ではなく、「使うほど人がつながる」設計になっています。

2020年2月の小田原市プレサービス開始(プレスリリース「コミュニティ通貨『まちのコイン』を使ったSDGsつながりポイント事業」2020年2月公開)以降、全国に導入地域が拡大。公式「『まちのコイン』鎌倉チームメンバーに聞く、前例のない地域活性化への挑戦!」(2024年1月公開)時点で、神奈川県小田原市・鎌倉市・厚木市・相模原市、東京都下北沢・秋葉原・池袋・渋谷区、新潟県燕三条、長野県小諸、滋賀県、大阪府八尾市、鳥取県智頭町、岡山県新庄村、香川県多度津町、高知市、福岡県八女市、沖縄県石垣市、福岡市など全国20以上の地域で運用されています(2024年5月「カヤックと福岡市がデジタル地域ポイント『ふくおかポイント』の実証を5月10日から開始」)。

移住スカウトサービス「スマウト」

「スマウト」は、地域に関わりたい人と、人を呼びたい地域・自治体・企業をつなぐマッチングサービスです。2018年に株式会社カヤックLivingが立ち上げ、2025年4月の大幅刷新で「移住スカウトサービス」から「地域とつながるプラットフォーム」へとタグラインを変更しました(公式「仕事も住まいも体験も、地域のことなら『スマウト』にすべてお任せ!」2025年4月公開)。2023年9月時点で登録者数5.1万人以上、900以上の地域で活用されていると紹介されています。

ここでの作法の特徴は、3点に整理できます。第1に、カヤックは「鎌倉資本主義」という思想を本やインタビューで言葉にする一方で、その実装をプロダクト(まちのコイン、スマウト、まちの社員食堂、まちの保育園、カマコン)として横並びに走らせている。第2に、地域事業の収益化は「ちいき資本主義事業」という連結セグメントとしてIR資料に組み込み、上場会社の透明性のなかで運営している。第3に、これらの事業はカヤックが単独で成立させるのではなく、自治体・地域企業・地域住民との共同事業として設計されています。

「面白法人」というブランドが、ローカルコミュニティの実装プロダクトと一体で動いているという、地方発IT企業として独特の経営モデルが、この4本立てから読み取れます。


5. 上場、ゲーム/Web/SaaS、そして連結グループへ

カヤックの事業ポートフォリオは、創業から27年で大きく拡張しました。2024年12月期決算資料および日経BP系・GameBusiness.jp「カヤックの2023年12月期通期決算、ハイカジが好調でDL数増も、eスポーツは苦戦」(2024年2月公開)、Gamebiz「カヤック、24年12月期決算は売上高4%減、営業益65%減に」(2025年公開)などをまとめると、現時点のセグメントは大きく4本です。

  1. ゲームエンタメ関連(2024年12月期 売上構成比 55.3%)
  2. eスポーツ関連(同 17.2%)
  3. 面白プロデュース(同 13.6%)
  4. ちいき資本主義(同 5.9%)
  5. その他(同 8.0%)

ゲーム事業──「ぼくらの甲子園!」とハイパーカジュアル

ゲーム事業の代表作が「ぼくらの甲子園!」シリーズ(2009年〜)。プレイヤーが高校球児として全国の他プレイヤーとチームを組み、甲子園を目指すスマートフォン野球ゲームです。公式「ぼくらの甲子園!ポケット」サービスページによれば、シリーズ累計900万ダウンロードを突破しています。

2020年代以降の収益柱となっているのが、ハイパーカジュアルゲームです。公式「ハイパーカジュアルゲーム全11タイトル累計で、5億ダウンロードを突破」(2022年8月公開)によれば、第1作リリースから約2年9ヶ月で全11タイトル累計5億DLを達成。2021年にはSensor Towerのグローバルアプリダウンロードランキングで国内パブリッシャー1位を獲得しています。2024年3月の「Top Publisher Awards 2024」では、ゲームカテゴリで国内パブリッシャー1位を維持し、「Number Master」「Draw Action」「Rogdool Break」の3タイトルがTOP10入りしたと公式「カヤック、ハイカジゲームランキング『トップパブリッシャー賞』で日本一位!」(2024年3月公開)に記録されています。

面白プロデュース──Web受託と「うんこミュージアム」

面白プロデュース事業は、Web/広告制作の受託と自社企画コンテンツの2軸です。代表的なヒットが、アカツキとの共同企画「うんこミュージアム」(公式「MAXうんこカワイイ、最先端アミューズメント空間『うんこミュージアム』」2019年7月公開)。横浜・東京・お台場・広島など複数都市で開催され、SNS発信を前提にした体験型アミューズメントの代表事例として複数取材で取り上げられています。

上場と市場区分

2014年12月25日、東京証券取引所マザーズ市場へ上場(公式「本日マザーズに上場しました。ありがとうございます。」2014年12月公開、証券コード3904、主幹事大和証券)。公募価格560円に対して初値1,803円という、当時の地方発IT企業としては鮮やかな立ち上がりでした。

その後、2022年4月の東証市場区分見直しを経て、現在はカヤックは東証グロース市場に上場しています(松井証券「カヤック(3904)東証グロース 株価」、Yahoo!ファイナンス「(株)カヤック【3904】株価・株式情報」、各種マーケットメディア、取得日2026-05-18)。マザーズ→グロースは2022年4月の東証全体の市場再編によるもので、新興企業向け市場の連続性が保たれています。

当社は2014年12月25日、東京証券取引所マザーズ市場に上場いたしました ── カヤック公式コーポレートサイト「本日マザーズに上場しました。」(2014年12月25日公開、要旨)

業績面では、2024年12月期通期連結売上高167.2億円(前年比-4.2%、修正業績予想を上回って着地)、2025年12月期は売上高200.9億円(前年比+20.1%)、純利益6.84億円(同+458.8%)と公式IR資料および日経BP系・Yahoo!ファイナンス「(株)カヤック【3904】業績・財務・キャッシュフロー」に記録されています。ハイパーカジュアルゲームの広告単価変動の影響を受けながらも、地域事業(ちいき資本主義)が前期比+26.1%の成長率で売上構成比を上げているのが特徴です。

グループ会社と地域拠点

連結グループには、Web受託・SaaSを担う子会社、ハイパーカジュアル事業を担うグループ会社、ちいき資本主義を担うカヤックLiving、長崎県五島列島を拠点にする「株式会社カヤックゼロ」など、複数の地域拠点・事業会社が含まれています。2023年12月期末時点の連結従業員数は572名、単体は270名(StrainerおよびBuffett Code、各メディア集計)。


6. 編集視点:地方発IT企業の経営モデルとして読む

カヤックの事例から取り出せる学びを、ローカルグローススタジオ的に整理すると次のようになります。

  1. 「地方本社×上場」という座組は1社員からでも始められない、創業時の発想の問題である カヤックが鎌倉本社を維持し続けている前提は、創業時から「東京一極集中ではない」前提でメンバーがそろっていた点にあります。能作(富山)、北海道日本ハムファイターズ(北海道)、ヘラルボニー(岩手)、サグリ(兵庫)、ヤッホーブルーイング(軽井沢)と並べると、地方本社の起点は、創業メンバーの土地に対する好みと、外部任用社長の作法の2系統に分かれます。カヤックは前者の代表例で、「自分たちが面白がれる場所を選ぶ」という個人の選好を、上場後も座組として守り続けています。

  2. 「面白法人」という1語の自家製ブランドは20年で固有名詞化する サイコロ給、ぜんいん人事部、スマイル給、ぜんいん社長合宿、ブレストカード、まちのコイン、スマウト、カマコン、鎌倉資本主義──カヤックが繰り出してきた言葉群は、いずれも外部の経営フレームワークを借りずに、社内で生まれた自前の固有名詞です。1個の制度・1冊の本だけでは「面白い会社」のひとつにとどまりますが、20年積み上げると、業界横断で参照される「面白法人ブランド」になります。地方発企業のブランドづくりが、まず自家製の言葉を生み続けるところから始まる、という参考になる方の代表例です。

  3. 「3つの地域資本」モデルは、地方企業の経営の地図として使える 柳澤氏が『鎌倉資本主義』(プレジデント社、2018年)で示した「地域経済資本/地域社会資本/地域環境資本」という3階層は、地方企業が自社の事業を地域全体の文脈に位置づけ直すための地図として機能します。売上高の議論だけではなく、「自社のおかげで地域のつながりが何件増えたか」「地域の自然や歴史を何件守れたか」を、定性ながら経営の議題に持ち込む作法です。

  4. 「ぜんいん人事部」「ぜんいん社長合宿」は採用と組織開発の両面で効く 名刺に「人事部」と書く運用で採用コストが4割下がったというスタジオパーソルの記録は、地方拠点ゆえの採用候補者接点不足を、「全員が採用担当」という逆方向の設計で反転させた事例です。同じ作法を、地方の中小企業や1人法人にも転用する余地があります。重要なのは制度の名前ではなく、「組織と職能の役割を、必要なときに反転する」という意思決定のクセです。

  5. コミュニティ通貨「まちのコイン」と「カマコン」の関係は、自社事業と地域コミュニティの作法を分離した好例である カマコンは「地域の場」、まちのコインは「カヤックの事業」。この分離設計がカヤックの強さです。地方企業が陥りがちな「地域貢献=自社の宣伝」という混同を避け、地域の場をまず独立して動かしたうえで、自社の事業はそこに学んだ知見をプロダクト化する、という二段構えになっています。地方発企業の地域戦略を考えるときの参考になる方の代表例として位置づけられます。


本事例から見える経営とブランドづくりの学び

カヤックの物語は、「学生時代の同期3人が1998年に立ち上げた合資会社が、4年後に鎌倉へ本社を移し、自家製の制度群と『面白法人』ブランドを20年磨きながら、2014年マザーズ上場を経て現在の東証グロースまで進んだ」という、地方発IT企業の経営モデルとして読めます。重要なのは、東京で勝つための定石を捨てて鎌倉を選び、その意思決定を制度・事業・ブランドの隅々まで一貫させたことです。地方企業の経営は、「自社が立っている地面の解像度を上げる」作業から始まりますが、カヤックの場合は、その地面を自分たちで耕し続け、「鎌倉資本主義」という言葉で言語化し、まちのコインやカマコンというプロダクトに落とし込んできました。リソースとブランドが薄いところから事業を立ち上げる経営者にとって、カヤックの作法は、「面白がれる場所を選ぶ」「自家製の言葉を持つ」「地域と自社事業の境界を引き直す」という3点で参考になる事例です。


関連:ローカルグローススタジオ・グロースマガジン

本事例の学びと共通する、グロースマガジン(https://lgstudio.jp/magazine/)の解説記事を2本紹介します。

1. 地方企業/スタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略

共通点: カヤックが鎌倉本社・サイコロ給・ぜんいん人事部・ブレスト・「面白法人」というフレーズの自家製運用で、東京のIT大手と給与水準や規模で正面から争わずに人材獲得をしてきたのは、本記事が示す「戦わない戦略」を1998年から20年以上実装した姿と読めます。「面白がれる場所と言葉を選ぶ」設計は、大手と土俵を共有しないための具体的な作法そのものです。

2. 地方企業と、スタートアップの類似点と相違点

共通点: カヤックは鎌倉本社の地方発企業でありながら2014年マザーズ上場まで進めた、本記事が論じる「地方企業×スタートアップ」が交わる代表例です。地域コミュニティ(カマコン)と上場会社(IR)、自家製の経営文化(サイコロ給)と外向きの株主対応を、両立させる作法が本記事の論旨と完全に対応しています。


出典


※本稿は2026年5月18日時点の公開取材記事と公式発表を基に構成しています。固有名詞・数値は引用元の表記に従いました。引用文は複数取材の要旨をもとに再構成した箇所があり、公開前に原文表現の最終確認の余地があります。なお、ブリーフでは「2024年東証スタンダードへ移行」と記載されていましたが、公開IR資料および各証券マーケット情報を確認した結果、現在の上場区分は東証グロース市場(2022年4月のマザーズ→グロース市場区分見直しに沿った継承)であるため、本文ではグロース市場の表記を採用しています。記載に誤りがあった場合は、お問い合わせフォームよりご指摘ください。

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