グローススタジオレポート

地方企業の成長事例

冷凍餃子の無人販売所モデルで全国に広がった、低オペレーション×直営型ビジネスの原型

群馬・水上の老舗中華食堂「雪松」のレシピを、後継者不在のなか親族の甥である外部経営者が引き継ぎ、冷凍餃子の24時間無人販売所モデルで全国400店超まで広げた、低オペレーション×直営型のチェーン展開事例

企業概要(公開情報)

企業名
株式会社YES(餃子の雪松)
所在地
ブランド発祥:群馬県利根郡みなかみ町 / 運営本社:東京都国分寺市
代表者
長谷川 保(代表取締役・3代目雪松店主の甥)
設立
2014年
業種
冷凍餃子製造/無人販売所運営/冷凍ラーメン
従業員数
非公開(複数取材で各店舗にパートスタッフ2名前後、月30店ペースで出店時期があったと公表)
本記事の公開情報
2026-05-18 公開 / 出典 16本 / 本文約5,800字

今回取り上げるのは、冷凍餃子の無人販売チェーン「餃子の雪松」を運営する株式会社YES(本社・東京都国分寺市、代表取締役・長谷川保)です。ブランド名「雪松」の由来は、1940年(昭和15年)に群馬県水上町(現・利根郡みなかみ町)で創業し、3代続いた中華食堂「お食事処 雪松」のレシピで、現運営会社のYESは雪松3代目店主の甥にあたる長谷川氏が、後継者不在となった老舗の味を残すために2016年から事業構想に着手し、2018年9月に埼玉県入間市で持ち帰り専門の1号店を立ち上げました。2019年7月の12号店(東京・大泉学園店)からは24時間無人販売へと切り替え、2022年4月に全国372店舗、2023年2月には沖縄県を除く46都道府県で432店舗まで拡大したと複数取材が報じています。

本稿は、次の公開取材記事と公式発表をもとに、以下3点を整理します。

  • 東洋経済オンライン
  • プレジデントオンライン
  • オリコンニュース
  • ITmediaビジネスオンライン
  • 食品産業新聞社ニュースWEB
  • ビジネスジャーナル
  • PR TIMES(株式会社YES公式リリース)
  • 株式会社YES公式コーポレートサイト
  • 餃子の雪松公式コーポレートサイト「会社概要」「採用情報」
  • Wikipedia
  • BDS Report
  • 高崎前橋経済新聞
  • 足利経済新聞
  • 帝国データバンク「餃子無人販売店動向調査」
  • note「餃子の雪松のビジネスモデルを図解」
  • マネーボイス「閉店ラッシュ報道」
  1. ブランドの前夜──群馬・水上の中華食堂「雪松」と、後継ぎ不在のレシピ
  2. 何を変えたか──冷凍餃子1品×24時間無人販売所モデルの設計
  3. 結果と次の一手──全国432店舗、競合乱立、閉店ラッシュ、そして冷凍ラーメンへの多角化

1. ブランドの前夜──群馬・水上の「お食事処 雪松」と、レシピだけが残った後継問題

ブランドのルーツは、群馬県北部のみなかみ町(旧・水上町)にあります。「お食事処 雪松」は1940年(昭和15年)創業の中華食堂で、温泉地・水上の地元客や観光客に長く愛されてきた店です(出典:餃子の雪松公式コーポレートサイト「雪松の想い」、we-love.gunma.jp「群馬県民は冷凍餃子を夜中に買う?」、新潟TJ「群馬・水上にある名店の味を完全再現し、全国へ」)。

東洋経済オンライン「『餃子の雪松』が全国制覇しても絶対変えない流儀」(2023年)、プレジデントオンライン「たった3年で350店以上に大増殖」(2022年)、オリコンニュース「無人販売所で万引き横行の最中、なぜ『餃子の雪松』は性善説を貫けるのか」(2022年)、BDS Report「異業種特集 餃子の雪松」によると、店を切り盛りしていたのは3代目店主の松井茂氏(2020年に77歳で逝去)で、当初4代目を継ぐ予定だった息子氏と奥様を病気で相次いで亡くされ、後継者が不在になっていました。

ここに登場するのが、現YES代表の長谷川保氏です。長谷川氏は雪松3代目・松井茂氏の甥にあたります。プレジデントオンラインや株式会社YES公式コーポレートサイトの紹介によれば、長谷川氏は飲食業の出身ではなく、創業前は不動産や1000円カットなどの事業を営んでいたとされ、いわゆる「老舗の身内が直接厨房を継ぐ」型ではない経歴を持っています。雪松の3代目店主の遺族と話し合うなかで「叔父がつくる秘伝の名物餃子を多くの人に届けたい」「雪松の味を残したい」という思いが起点となり、2016年に冷凍生餃子の試作を開始したと、複数取材が一致して伝えています。

ここでの構図は、能作・中川政七商店・黒龍酒造のような「血縁の直系後継者が家業の本店を引き継ぐ」型とも、ヘラルボニーのような「新規創業」型とも違います。雪松の事例は、

  • 創業地は群馬・水上(現・みなかみ町)で、店舗は地元の小さな中華食堂のまま、
  • レシピは親族の甥が「別法人」として引き継ぎ、
  • 製造と販売は東京・国分寺の運営会社と埼玉・入間の自社工場で行う、

という三層構造になっており、いわば「老舗のレシピを別法人で社会実装する」型の事業承継として整理できます。株式会社YES自体は2014年5月1日設立、資本金1,000万円、本社・東京都国分寺市と公表されています(出典:餃子の雪松公式コーポレートサイト「会社概要」、株式会社YES公式コーポレートサイト「会社概要」)。

ここに加わったもうひとりの主要人物が、現マーケティング部長の高野内謙伍氏です。じもたんkids「餃子の雪松 マーケティング部長 高野内謙伍さん」、BDS Report、プレジデントオンラインによれば、高野内氏は長谷川氏の同級生で、商家の出身。長谷川氏が雪松のレシピを引き継ぐ計画に共感して合流し、現在まで広報・出店戦略・PRの中心人物として取材対応を担っています。経営者の長谷川氏と、対外発信を支える幼なじみの高野内氏、という2人組の座組が、後の急拡大を支える人的基盤になっています。

80年以上前から3代続いた中華食堂「雪松」のレシピを、3代目から教わって完全再現した。1号店オープンのときに3代目に試食してもらい「これなら全く一緒だよ。もう作るのが大変だから、お前のところから仕入れるよ」と言ってもらえた ── 高野内謙伍氏の取材発言(BDS Report「異業種特集 餃子の雪松」要旨)

地方の名店が代を重ねて静かに閉じていく流れのなかで、レシピだけを別法人が引き受け、雪松の本店が群馬・水上に残ったまま、ブランドとしての雪松が全国に出ていく──ここに本事例の独特な座組があります。


2. 冷凍餃子1品×24時間無人販売──「商品力に集中するための業態設計」

雪松の事例を理解する際に、もっとも特徴的なのが、業態そのものの徹底した割り切り方です。

東洋経済オンライン、プレジデントオンライン、オリコンニュース、ITmediaビジネスオンライン「増え続けるギョーザ無人販売所はどうなる?」(2022年4月)、note「餃子の雪松のビジネスモデルを図解」によれば、餃子の雪松の店舗運営は次の要素で構成されています。

  • 商品は1種類のみ:1パック36個入り・1,000円(税込)の冷凍生餃子だけを販売。サイドメニューも飲料もない(複数の取材で繰り返し言及)。
  • 24時間営業の無人販売:2019年7月に12号店として開業した東京・大泉学園店から、行列対策と人件費圧縮を兼ねて24時間無人化に切り替え、その後新規出店はすべて無人モデルで展開。工場併設の2店を除き、全店舗が無人(出典:東洋経済オンライン、Wikipedia)。
  • 販売方法は「冷凍庫から取って料金箱に1,000円を入れる」:電子決済もタッチパネルもなく、料金箱は神社の賽銭箱に近いデザイン(プレジデントオンライン)。
  • 店舗運営は1日1〜3回の補充・清掃のみ:各店舗にパートスタッフが数名いて、商品の補充・清掃・備品発注・棚卸しを担当(東洋経済オンライン)。

この設計の核は、「人件費・在庫管理・接客オペレーション」を意図的に削ぎ落とし、「商品自体の引きと立地」だけで売上が立つ業態に絞り込んだ点にあります。プレジデントオンラインや東洋経済オンラインの取材で高野内氏が説明している通り、店内設備は冷蔵庫(冷凍ストッカー)・防犯カメラ・料金箱・看板・小さなテイクアウト窓のみで、初期投資が極めて軽く、撤退コストも低い構造になっています。

いまの店舗には防犯カメラを置いているだけ。冷蔵庫(冷凍ストッカー)・看板・料金箱があれば店として成立する。設備投資が軽いから、不採算店もない ── 株式会社YES マーケティング部 高野内謙伍氏(オリコンニュース 2022年要旨)

特筆すべきは、防犯対策として「料金箱を賽銭箱型にする」「ガラス張りで店内が見える」「防犯カメラを設置する」という3点セットを採用し、それ以上の電子的なシステムを入れていないことです。性善説に基づく現金決済を維持し、東洋経済オンラインの取材で高野内氏は、現金商売の感覚を「商店街の息子たち」の感覚として説明しています(出典:東洋経済オンライン「全国制覇しても絶対変えない流儀」2023年)。

商品設計の面でも、徹底した割り切りがあります。we-love.gunma.jp、新潟TJ、東洋経済オンラインによれば、雪松の餃子は国産キャベツを主体とした野菜中心の餡(餡)で、ニンニクをしっかり効かせたパンチのある味付け、もちもちの皮、というプロファイルです。「秘伝の味の完全再現」を最重要KPI (重要業績評価指標)に置き、3代目店主から試食で「お前のところから仕入れる」と言わせるまで試作を繰り返したという開発エピソードは、複数取材で繰り返し引用されています。

製造側についても、餃子の雪松公式「会社概要」とPR TIMESプレスリリースによれば、商品はすべて自社工場で生産、2021年5月には埼玉県入間市に敷地面積1,700平方メートル超の新工場を稼働させ、移転前比で生産能力を約5倍に引き上げたと公表されています(出典:餃子の雪松公式コーポレートサイト)。製造拠点を埼玉・入間に集約し、そこから全国の無人販売所へ配送する、いわばセントラルキッチン型のサプライチェーンが運営の前提になっています。


3. 直営にこだわる出店モデル──「FCはやらない」「お客様の手元までを自分たちで届ける」

無人販売×低コストという業態は、構造的にフランチャイズ(FC)展開と相性が良いはずです。実際、東洋経済オンラインの取材で高野内氏は、「スーパーや料理店などからFC加盟の申し出が毎日のように来る」と明かしています。

しかし、餃子の雪松はFCを採用していません。複数取材(東洋経済オンライン、BDS Report、プレジデントオンライン、Wikipedia)が一致して伝える通り、すべての店舗が直営で、加盟金や本部ロイヤリティを徴収する仕組みは取られていません。出店方式は、株式会社YESが土地建物を借り、自社で内装・冷凍ストッカー・看板を入れ、自社の補充スタッフ(パート)を配置する形です。

スーパーや料理店から、FC加盟の申し出が毎日のようにあるが、すべてお断りしている。「伝説の餃子」として、お客様の手元に渡るところまでを自分たちで対応したいから ── 株式会社YES マーケティング部 高野内謙伍氏(東洋経済オンライン 2023年要旨)

直営にこだわる理由として、東洋経済オンラインや高野内氏の他取材で説明されているのは、(1)商品が冷凍生餃子1品しかないため、品質と店頭体験を本部側で完全管理したい、(2)料金箱への信頼や「賽銭箱」スタイルの店舗オペレーションは標準化が難しく、加盟店任せにすると性善説が崩れる、(3)出店判断のスピード感を本部側で握り続けたい、の3点です。

出店スピードについては、コロナ禍と重なる2021年〜2022年に最大化されました。プレジデントオンライン、東洋経済オンライン、Wikipedia、note「ビジネスモデル図解」によれば、

  • 2018年9月:1号店(埼玉県入間市)
  • 2019年7月:12号店(東京・大泉学園店)から24時間無人化
  • 2020年7月末:42店
  • 2021年6月時点:170店超
  • 2021年9月:餃子の街・宇都宮市に進出
  • 2022年4月:372店
  • 2023年2月:432店(沖縄を除く46都道府県、すべて直営)

と、約3年で店舗数を10倍以上に拡大しています。立地選定について高野内氏は東洋経済オンラインの取材で、「うどんチェーンの丸亀製麺さんのように『気がつけば身近にあった』という店舗展開をしたい」と語り、月30店ほどのペースで担当者が全国を回って候補地を確定させていた時期があったと説明しています。郊外住宅地や駅前商店街、ロードサイドの小型区画など、必ずしも「人通りの多い一等地」ではない区画にも踏み込み、「店舗を中心に同心円を描いたときに大きな湖がある」ような地理条件の店でも、同じ客が1日2回来店するなど想定外の売上が出る事例があったとも紹介されています。

ここで読み取れる学びは3つに整理できます。

第1は、商品が1品しかないため、立地ごとの売上ばらつきを「店舗オペレーションの工夫」で吸収する余地がほとんどない、ということ。商品力と価格(36個1,000円)が固定で、無人販売所だから接客差もない以上、出店判断と本部運営の良し悪しがそのまま結果に出ます。

第2は、FCを断ることが、長期的にみてブランドの劣化を防ぐ仕掛けとして機能していること。料金箱型の性善説オペレーションは、加盟店の経営者交代や運営姿勢のブレに耐性が低く、本部直営で品質を保ったほうが結果的にトラブルが少ない、という判断です。

第3は、出店スピードが、本部側の人的リソース(出店開発担当・補充スタッフ採用)で律速されること。本部直営型では、フランチャイズで分散させる加盟金や開発負担を本部が抱え込むことになり、後述する「2024年以降の閉店ラッシュ」局面で、撤退判断の責任もすべて本部に集中する構造になります。


4. 売上規模・受賞・競合動向──「無人餃子市場の3割」という相対値と、急拡大の限界

雪松の規模感を、業界全体のなかで位置づけてみます。

帝国データバンクの「餃子無人販売店動向調査」(2022年公開、PR TIMESの帝国データバンク公式リリースで公開)によれば、無人餃子販売店の総店舗数は2020年度末の約130店から、2022年度末には全国約1,300〜1,400店へと、約3年で10倍に膨張したと推計されています。なかでも「餃子の雪松」ブランドは、市場全体の約3割のシェアを占める最大手で、追随する「業餃業」「餃子の福包」「餃子の素材屋」などの新興チェーンが市場の残りを分け合う構図でした(出典:帝国データバンク、無人販売ナビ、TOUCH TO GO「餃子の無人販売所が増えた理由」)。

業界外からの評価としては、雪松は2019年7月に日本マーケティングリサーチ機構の「餃子専門店イメージ調査」で、「餃子専門店口コミ人気」「お土産に買いたい餃子人気」「お客様満足度」の3部門で第1位を取得したと、株式会社YESがPR TIMESで公表しています(出典:PR TIMES「餃子の雪松が、この度、餃子専門店におけるリサーチで3部門No.1を獲得」2019年7月8日)。同調査はインターネットアンケート方式の限定的なものではありますが、立ち上げ初期のブランド認知形成の文脈で繰り返し引用されています。

メディア露出も多く、TBS「がっちりマンデー!!」、フジテレビ「Live News イット!」、テレビ朝日「報道ステーション」、TBS「マツコの知らない世界」、日本テレビ系列など、地上波各局の経済情報番組やバラエティで取り上げられたと、価格.comテレビ紹介情報や同社プレスリリースで確認できます。新聞・経済誌では、東洋経済オンライン、プレジデントオンライン、ITmediaビジネスオンライン、ビジネスジャーナル、オリコンニュース、足利経済新聞、高崎前橋経済新聞などが繰り返し特集を組んでいます。

一方、急拡大の反動も顕在化しています。マネーボイス「無人販売店『餃子の雪松』が閉店ラッシュ?」(2024年)、ITmediaビジネスオンライン「無人餃子閉店ラッシュの中、なぜスーパーの冷凍餃子は復権できたのか」(2024年11月)、reiwajpn.net「無人餃子『餃子の雪松』の閉店店舗一覧リスト(2024年)」、肥後ジャーナル「熊本県内全店閉店」(2024年)などの集計記事によれば、

  • 2024年6月時点の店舗数は約374店(ピーク比1割減程度)
  • 2024年11月時点では219店前後まで縮小(複数の集計サイトおよびマネーボイスでの言及)
  • 北海道全店からは撤退、熊本県内も全店閉店

といった動きが報じられています。背景としては、(1)コロナ禍の収束で外食・テイクアウト需要の構造が変化、(2)スーパーや味の素冷凍食品の家庭用冷凍餃子が機能改善で価格・品質ともに巻き返し、(3)雪松の成功を見た同業者(業餃業、餃子の福包など)が乱立し、無人餃子市場全体が過剰供給に陥った、の3点が共通して指摘されています。

数字の読み方には注意が必要です。雪松の「閉店ラッシュ」を伝える記事の多くは個人ブログ・地域メディアの集計に基づくもので、株式会社YES側からは公式の店舗数推移リリースは出されていません(餃子の雪松公式コーポレートサイトの「会社概要」「店舗一覧」が一次情報源)。ピーク時に432店だった店舗ネットワークが現在は縮小局面にある、という大枠は複数取材で一致するものの、具体的な店舗数は公式の店舗一覧ページで都度確認するのが安全です。

最後に、多角化の動きを補足しておきます。株式会社YESは2023年から、雪松の無人販売所内および全国のイオングループ店舗に、冷凍ラーメンブランド「日本ラーメン科学研究所」の自動販売機を設置する事業を立ち上げました(出典:東洋経済オンライン「餃子の雪松が冷凍ラーメンにも大胆挑戦する訳」2023年、ビジネスジャーナル「冷凍餃子&冷凍ラーメンの二刀流攻勢」2023年、食品産業新聞社ニュースWEB、株式会社YES プレスリリース、PR TIMES)。商品は2食入り1,000円の冷凍ラーメンで、「醤油の黄金比」「豚骨の黄金比」「味噌の黄金比」「魚介だし醤油の黄金比」の4種類。2023年9月末時点で約491店舗、6月末時点でイオンディライト経由のイオングループ55店舗への自販機展開も公表されています。冷凍餃子1品で出店スピードを稼いだ前段に対し、第2の商品として冷凍ラーメンを既存店舗網に上乗せする、という戦略への切り替えが進んでいる局面です。


5. 編集視点:無人販売所モデルの「強さ」と「賞味期限」の両面

雪松の事例から取り出せる学びを、ローカルグローススタジオ的に整理すると次のようになります。

  1. 「老舗のレシピを別法人で社会実装する」型の事業承継がある 雪松の本店は群馬・水上に残り、レシピは3代目店主の甥である長谷川氏が東京の別法人(YES)で引き継ぎました。能作や中川政七商店のように「老舗本体を血縁直系が継ぐ」型でも、ヘラルボニーのように「ゼロから新規創業する」型でもなく、「本店を残したまま、別法人がブランドを社会に出す」という第三の選択肢です。後継者不在で閉店が選ばれがちな地方老舗にとって、参考になるパターンです。

  2. 業態を1品×無人×直営に削ぎ落とすと、出店スピードが本部の人的リソースに律速される 雪松は商品1種類・無人販売・直営という3つの割り切りで、店舗1店あたりの初期投資と固定費を極小化しました。結果として、不採算店ゼロを謳える時期(オリコンニュース 2022年取材時点)を持てた一方で、出店スピードは本部の出店開発担当の能力に直結し、コロナ需要が落ち着いた段階で撤退判断もすべて本部に集中することになりました。「FCを断る」という意思決定の裏側には、急拡大局面では機動的でも、需要が縮むときに身動きが取りにくい、という構造上の弱点が同居しています。

  3. 「現金箱+防犯カメラ」という最小構成は、ブランドへの信頼貯金で支えられている 雪松の無人販売所が機能してきたのは、ガラス張り店舗+防犯カメラ+賽銭箱型料金箱という最低限の仕組みだけで、客の側が「ちゃんとお金を入れる」前提を維持してくれているからです。万引きや料金未投入の被害がほぼなかったと高野内氏は説明していますが、それは商品とブランドへの好意と、「無人でも成立する規範」が地域社会に残っていたことの両方が前提です。後発参入が乱立した2023〜2024年の無人餃子業界では、この前提が崩れ始め、防犯コストが本部側に跳ね返り始めたことが、業界全体の縮小の一因と指摘されています。

  4. 「丸亀製麺のように気がつけば身近にあった」を狙う出店戦略は、商品力が一定以上のときだけ機能する 高野内氏が東洋経済オンラインで語る出店イメージは、「ロードサイドや住宅街の小さな区画にコンビニのように溶け込む」というものです。雪松は商品が1品しかなく、立地ごとの売上ばらつきを店舗側のオペレーションで吸収できない以上、商品自体の引き(36個1,000円・国産キャベツ・ニンニク強め)に多くがかかっています。商品が弱いまま立地戦略だけ真似ても再現性は低く、ここに無人餃子業界全体の「成功と失速の差」が出たと読めます。

  5. 第2商品(冷凍ラーメン)の追加投入は、無人店舗網の固定費を回収する経路として理解できる 出店一巡後の店舗網は、本部にとって「立地・補充スタッフ・補充オペレーション」が固定費として残ります。冷凍餃子だけの売上では店舗網の維持が難しくなる場面に対し、同じ店舗網のなかに冷凍ラーメンの自販機を上乗せする戦略は、固定費の回収単価を引き上げる打ち手です。新業態を新店舗で立ち上げるのではなく、既存店舗網の上に重ねる、という発想は、店舗ビジネスにおける拡張パターンとして参考になります。


本事例から見える経営とマーケティングの学び

雪松の物語は、「群馬・水上の小さな中華食堂のレシピを、親族の甥が別法人として引き継ぎ、冷凍餃子の無人販売所モデルでコロナ禍の3年間に全国400店超まで広げ、ピーク後に冷凍ラーメンへの多角化と店舗網縮小の局面に入った」事例として読めます。重要なのは、長谷川氏と高野内氏のコンビが、業態設計を「商品1種類・24時間無人・全店直営・自社工場」という4つの割り切りに絞り込み、レシピの完全再現にだけ厳格に投資した点です。地方の老舗のレシピが、いきなり全国チェーンの素材になるとき、本店の経営とは別の枠組み(別法人・別オペレーション)が必要になります。商品の完成度と、業態の割り切りと、ブランドへの信頼貯金──この3つが揃ったときに無人販売所モデルが立ち上がり、それらのどれかが崩れたときに同じ速さで縮む、という構造を、雪松の歩みは正確に示しています。


関連:ローカルグローススタジオ・グロースマガジン

本事例の学びと共通する、グロースマガジン(https://lgstudio.jp/magazine/)の解説記事を2本紹介します。

1. 地方企業/スタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略

共通点: 雪松が大手中華チェーンや味の素冷凍食品と同じ土俵で店舗運営をせず、「無人販売所・1品1,000円・24時間営業」という別の戦場を選んだのは、本記事の「戦わない戦略」の典型実装です。商品開発の幅を捨て、立地ごとの個別オペレーションを捨て、加盟店も捨てて、本部直営の運用効率1点に賭けた構造は、本記事の「ブランド無し・低リソースから戦線を選び直す」発想を、店舗ビジネスで具体化した形と読めます。

2. ローカル事例 - 店舗ビジネスはMEO(地図検索最適化)が重要

共通点: 雪松の店舗網は、駅前ではない郊外住宅街・ロードサイドの小区画にも踏み込み、「気がつけば身近にあった」を狙いました。商品1品で客を呼び込む店舗ビジネスにとって、地図検索(MEO)上での発見可能性は売上に直結します。本記事が示すMEOの重要性は、雪松の出店戦略が「立地そのものの優劣」ではなく「地図上で見つけてもらえる位置に高密度で配置する」というロジックで成り立っていたことと、考え方の根が一致しています。


出典

  • 餃子の雪松公式コーポレートサイト「会社概要|餃子の雪松」(株式会社YES、取得日2026-05-18) https://www.yukimatsugyoza.com/about/company/

  • 餃子の雪松公式コーポレートサイト「雪松の想い」(株式会社YES、取得日2026-05-18) https://www.yukimatsugyoza.com/story/

  • 餃子の雪松公式コーポレートサイト「店舗一覧」(株式会社YES、取得日2026-05-18) https://www.yukimatsugyoza.com/store/

  • 株式会社YES公式コーポレートサイト「わたしたちの想い」「わたしたちの事業」「会社概要」(株式会社YES、取得日2026-05-18) https://yesinc.co.jp/about/ https://yesinc.co.jp/works/ https://yesinc.co.jp/company/

  • 東洋経済オンライン「『餃子の雪松』が全国制覇しても絶対変えない流儀 現金商売の原点は”商店街の息子たち”にあり」(株式会社東洋経済新報社、2023年公開、取得日2026-05-18) https://toyokeizai.net/articles/-/652946

  • 東洋経済オンライン「餃子の雪松が『冷凍ラーメン』にも大胆挑戦する訳 『お店のラーメンを家庭で再現』は支持されるか」(株式会社東洋経済新報社、2023年公開、取得日2026-05-18) https://toyokeizai.net/articles/-/659762

  • プレジデントオンライン「たった3年で350店以上に大増殖…ギョーザの無人販売が異次元の速度で出店できるワケ『賽銭箱』に1000円札を入れるだけ」(株式会社プレジデント社、2022年公開、取得日2026-05-18) https://president.jp/articles/-/54764

  • オリコンニュース「『無人販売所』で万引き横行の最中、なぜ『餃子の雪松』は『性善説』を貫けるのか? 4年で430店舗&不採算店ゼロの躍進」(オリコン株式会社、2022年公開、取得日2026-05-18) https://www.oricon.co.jp/special/61410/

  • ITmediaビジネスオンライン「増え続ける『ギョーザ無人販売所』はどうなる? ブームの次を見据えた『新たな戦略』」(アイティメディア株式会社、2022年4月22日公開、取得日2026-05-18) https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2204/22/news037.html

  • ITmediaビジネスオンライン「『無人餃子』閉店ラッシュの中、なぜスーパーの冷凍餃子は『復権』できたのか」(アイティメディア株式会社、2024年11月20日公開、取得日2026-05-18) https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2411/20/news051.html

  • ビジネスジャーナル「餃子の雪松、競合が増えても絶好調なワケ…冷凍餃子&冷凍ラーメンの『二刀流』攻勢」(株式会社サイゾー、2023年6月公開、取得日2026-05-18) https://biz-journal.jp/2023/06/post_353619.html

  • 食品産業新聞社ニュースWEB「無人販売店『餃子の雪松』運営YES、冷凍ラーメンを販売、手軽かつ値ごろに本格的な味わい、販売場所の拡大で認知向上へ」(株式会社食品産業新聞社、取得日2026-05-18) https://www.ssnp.co.jp/frozen/519197/

  • PR TIMES「餃子の雪松が、この度、餃子専門店におけるリサーチで3部門No.1を獲得!!(日本マーケティングリサーチ機構調べ)」(株式会社PR TIMES/株式会社YES、2019年7月8日公開、取得日2026-05-18) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000173.000033417.html

  • PR TIMES「鍋ひとつで完成! 科学に基づき開発された家ラーメンの到達点『日本ラーメン科学研究所』が自動販売機でも展開 6月中に全国のイオングループ55店舗にもオープン」(株式会社PR TIMES/株式会社YES、取得日2026-05-18) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000124104.html

  • BDS Report「【異業種特集】餃子の雪松(株式会社YES) マーケティング部 高野内謙伍 部長」(株式会社BDS、取得日2026-05-18) https://bds.co.jp/bdsreport/detail532.html

  • 帝国データバンク「『ギョーザ無人店』急増、3年で10倍 全国1400店舗に増加も、出店ペース鈍化」(株式会社帝国データバンク、取得日2026-05-18) https://www.tdb.co.jp/report/industry/q_bw2u131j/

  • マネーボイス「無人販売店『餃子の雪松』が閉店ラッシュ? コロナ禍に倍々ゲームで店舗数を増やすも失速中…」(株式会社まぐまぐ、2024年公開、取得日2026-05-18) https://www.mag2.com/p/money/1463410

  • 高崎前橋経済新聞「前橋『餃子の雪松』テークアウト専門、堅調な滑り出し 老舗食堂『雪松』の味再現」(みんなの経済新聞ネットワーク、取得日2026-05-18) https://takasaki.keizai.biz/headline/3756/

  • 足利経済新聞「足利に『餃子の雪松』 群馬・水上の人気店のギョーザを24時間無人販売」(みんなの経済新聞ネットワーク、取得日2026-05-18) https://ashikaga.keizai.biz/headline/373/

  • we-love.gunma.jp「餃子の雪松|群馬県民は冷凍餃子を夜中に買う? 24時間営業の無人直売所に行ってみた」(株式会社シンクル、取得日2026-05-18) https://we-love.gunma.jp/gourmet/yukimatsugyoza

  • note「餃子の雪松のビジネスモデルを図解 〜コロナ禍で注目される無人販売所のビジネスモデル〜」(Nomiyama Masanari、取得日2026-05-18) https://note.com/nomiyama/n/n407a59cbc13a

  • Wikipedia「餃子の雪松」(取得日2026-05-18、参考) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A4%83%E5%AD%90%E3%81%AE%E9%9B%AA%E6%9D%BE


※本稿は2026年5月18日時点の公開取材記事と公式発表を基に構成しています。固有名詞・数値は引用元の表記に従いました。引用文は複数取材の要旨をもとに再構成した箇所があり、公開前に原文表現の最終確認の余地があります。店舗数の最新値は同社公式の店舗一覧ページで都度ご確認ください。記載に誤りがあった場合は、お問い合わせフォームよりご指摘ください。

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