地方企業の成長事例
親会社外部からの社長就任が拓いたファンベース型マーケティングと「よなよなエール」全国ブランド化
親会社星野リゾート系列内での外部任用社長の指揮下、ファンベース型マーケティングで「よなよなエール」を国内クラフトビールNo.1ブランドに育てた、軽井沢発の地方企業の成長事例
企業概要(公開情報)
- 企業名
- 株式会社ヤッホーブルーイング
- 所在地
- 長野県北佐久郡軽井沢町
- 代表者
- 井手直行(2008年〜・社長てんちょ)
- 設立
- 1997年
- 業種
- クラフトビール製造業
- 従業員数
- 約130名(公開取材時点)
- 本記事の公開情報
- 2026-05-18 公開 / 出典 18本 / 本文約5,800字
今回取り上げるのは、長野県北佐久郡軽井沢町のクラフトビールメーカー、株式会社ヤッホーブルーイングです。1996年5月設立・1997年創業、星野リゾートの星野佳路氏が「日本に新しいビール文化をつくる」という構想のもとに立ち上げた会社で、現在は2008年に代表取締役社長へ就任した井手直行氏(ニックネーム「てんちょ」)が率いています。看板商品「よなよなエール」を中心に、国内クラフトビール市場でシェア首位の位置を長く維持していると複数の取材で報じられています。
本稿は、次の公開取材記事と公式発表をもとに、以下3点を整理します。
- 日経クロストレンド
- テレビ東京「カンブリア宮殿」
- ポーター賞
- 日経ビジネス
- ダイヤモンド・オンライン
- MarkeZine
- ITmediaビジネスオンライン
- エン
- ジャパン「井手直行の履歴書」
- 賢者の選択サクセッション
- 楽天グループ「楽天25周年」コーナー
- ヤッホーブルーイング公式コーポレートサイト
- 立ち上げ前夜──軽井沢の広告代理店から営業として呼ばれた井手氏と、地ビールブーム崩壊
- 何を変えたか──ネット通販からファンベース型マーケティングへの転換
- 結果と次の一手──シェア首位、ポーター賞、キリンビールとの資本提携、そして大阪ブルワリー構想
1. 立ち上げ前夜──「日本に新しいビール文化を」と「軽井沢の営業マン」
ヤッホーブルーイングは、星野リゾート(当時の社名は星野温泉)の星野佳路氏が、米国留学時代にエールビールに出会ったことをきっかけに立ち上げた会社だと、エン・ジャパン「井手直行の履歴書」(2019年10月公開)や日経クロストレンドの井手氏連載で繰り返し紹介されています。1996年5月に株式会社ヤッホーブルーイング(当初は別社名)を設立し、1994年の酒税法改正で可能になった小規模ビール醸造、いわゆる「地ビール」の枠組みのなかで、1997年に醸造を開始しました。創業当時、星野氏は親会社の年間売上の約半分にあたる金額を初期投資として投じたと報じられています(出典:エン・ジャパン「井手直行の履歴書」2019年)。
注目すべきは、創業者・星野氏が代表を務める親会社(星野温泉/現・星野リゾート)があくまでリゾート運営会社であり、ビール事業は同氏が「親会社の主業ではない領域に踏み込んだ別法人」として立ち上げた点です。社長は当初、星野佳路氏自身が兼務する形で始まりました。
ここに営業担当として加わったのが、井手直行氏です。井手氏は1967年福岡県生まれ。Wikipediaおよびエン・ジャパン「井手直行の履歴書」によれば、国立久留米工業高等専門学校電気工学科を卒業後、大手電気機器メーカーにエンジニアとして就職し、その後、環境アセスメント事業会社などを経て軽井沢に移住、現地の広告代理店で営業職に就いていました。担当顧客のひとつが星野リゾートで、そこで星野佳路氏と知り合い、ビール事業の立ち上げに誘われて1997年に営業担当としてヤッホーブルーイングへ入社しました。
軽井沢で広告代理店の営業をしていたときに、顧客として出会ったのが星野リゾート代表の星野佳路氏で、「一緒にビール事業をはじめないか」と誘われて入社しました ── エン・ジャパン「井手直行の履歴書」(2019年10月公開、要旨)
ここで重要なのは、井手氏が「親会社(星野リゾート)出身でも、創業家でもなく、軽井沢の地縁経由で外部から呼ばれた営業マン」だったという点です。能作・中川政七商店・古屋旅館・黒龍酒造のような「家業を継ぐ後継者」とも、甲子化学工業のような「3代目候補」とも違う、いわば「親会社系列内での外部任用」というキャリアパスが、後の社長就任の前提になっています。
創業直後の数年間、「軽井沢発のクラフトビール」というポジションは追い風を受けました。1994年の酒税法改正をきっかけに全国で地ビールメーカーが急増し、観光地のお土産品としても地ビールが脚光を浴びた、いわゆる地ビールブームの時代です。日経クロストレンド「ヤッホー社長が語る廃業危機 星野リゾート社長の一言で涙の発奮」やITmediaビジネスオンライン「地ビールブームから一転、8年連続赤字で”地獄”を見たヤッホーブルーイング」によれば、ヤッホーブルーイングも創業から数年は順調に売上を伸ばしたものの、ブームの終焉とともに毎年20%ペースで売上が減少。20人いた社員は半分ほどまで減り、創業から8年連続で赤字が続く局面に追い込まれました。
「社長。この会社、もうだめじゃないですか」 ── 井手氏が星野佳路氏に泣きついたときの発言として日経クロストレンドが紹介する一節(2018年)
この問いに対する星野氏の返しが、井手氏が複数の取材で繰り返し語る転換点になります。
「本当にやりつくしたのかな。とことんやろうよ。それで駄目だったら、会社をたたんで井手さんの好きな釣りでもしながらのんびり過ごそう」 ── 日経クロストレンド「ヤッホー社長が語る廃業危機」(2018年公開、要旨)
地方企業の成長場面で「親会社からの外部任用社長」という座組が機能するためには、親会社オーナーが、子会社の現場責任者を信頼して任せきる作法が要る──ヤッホーブルーイングの原点には、この座組の成立条件が記録されています。
2. ネット通販で離陸する──「楽天市場の電話」が変えた営業の作法
地ビールブーム崩壊後の8年連続赤字を抜けるきっかけは、井手氏自身も意外な形で訪れたと、日経クロストレンドや楽天グループ「楽天25周年・井手直行さんの楽天履歴」(2022年公開)が伝えています。
ヤッホーブルーイングは1997年の創業と同時期に楽天市場へ「よなよなの里 楽天市場店」を出店していましたが、長く積極運用には至っていませんでした。2004年、楽天市場の担当者から店舗運営の改善提案を受けたことをきっかけに、井手氏自身がネット通販に本腰を入れる決断をします。日経クロストレンド「倒産寸前からネット通販で離陸 ヤッホーブルーイング成功の原点」(2019年)とITmediaビジネスオンライン「8年連続赤字で”地獄”を見たヤッホーブルーイング」(2016年)では、井手氏がネット通販を「対面で会えないお客さま一人ひとりとどう関係を結ぶか」という観点で運営し直したと紹介されています。
このネット通販を起点にした再立ち上げが効き、楽天グループの公開情報および日経クロストレンドの記事によれば、2005年から3年連続で年率30%超の売上成長を達成。楽天市場店「よなよなの里」は楽天ショップ・オブ・ザ・イヤーを2007年から複数年連続で受賞しています(出典:楽天グループ「楽天25周年」コーナー)。
ここで読み取れる就任前夜の気づきは、3つに整理できます。
第1は、「地ビール=観光土産物」という売り方を一度手放した点。地ビールブーム期の主戦場だった土産物店流通から、「自宅で家族・友人と飲むためのクラフトビール」への売り場の置き換えが、ネット通販でまず実装されました。
第2は、「メールマガジンと長文の商品ページ」というデジタル文芸の活用です。日経クロストレンドや賢者の選択サクセッション「クラフトビールのブームが終わったとき、『よなよなエール』はどう復活したのか」(2024年)では、井手氏自身が長文メルマガを書き続け、ビールのつくり手の想いやレシピのこだわりを直接お客さまに語りかける形で関係を結び直したと紹介されています。
第3は、「短期売上のためのキャンペーン」ではなく、「お客さまとの長期関係」をKPI (重要業績評価指標)に据えた設計を、当時すでに採用していた点です。後にヤッホーブルーイングが「ファンベース型マーケティング」と呼ばれる流派を代表する企業として日経クロストレンド、MarkeZine、ICCサミットなどに取り上げられる土台は、この時期に始まったネット通販運営の中に芽生えていたと、複数取材が一貫して指摘しています。
2008年、井手氏はヤッホーブルーイングの代表取締役社長に就任します(出典:ヤッホーブルーイング公式コーポレートサイト「社長」ページ、井手直行Wikipedia)。創業者の星野佳路氏は親会社・星野リゾート側に軸足を残しつつ、ビール事業の経営は外部出身の井手氏に明け渡す、という座組の正式化です。地方企業の事業承継論で「親族外承継」「外部任用」の事例として参照する余地が、ここに記録されています。
3. 「超宴」と「100人に1人」──ファンベース型マーケティングの実装
ヤッホーブルーイングの代名詞になっているのが、ファンが集まる大規模イベント「よなよなエールの超宴(ちょううたげ)」と、「100人に1人に深く刺さるブランドをつくる」という製品開発方針です。
ヤッホーブルーイング公式コーポレートサイト「【イベント】よなよなエールの超宴2018」やビール女子「あの”超宴”が帰ってくる!5,000人規模でのファンイベント開催決定」(2018年)によれば、最初の「宴」は2010年に40〜50人規模で始まり、2015年に「超宴」と名前を改めて約500人規模、2018年にはお台場特設会場で同社史上最大となる5,000人規模の開催に拡大しました。ビール女子「この秋、史上最大1万人が大集合!」(2019年)では、2019年に都内2日間で延べ1万人規模を集めるところまで成長したと報じられています。
よなよなエールの超宴2018~ビールとオトナの文化祭~は2018年10月27日、お台場特設会場で当社史上最大となる5,000人をお迎えしました ── ヤッホーブルーイング公式コーポレートサイト「【イベント】よなよなエールの超宴2018」(2018年)
「超宴」の特徴は、コンサート型ではなく「文化祭型」である点です。ヤッホーブルーイング社員(ニックネームで自分を名乗る)とファンが直接話し、ファン同士の交流が並行して起こる構成は、ライブイベント業界の作法とは別系統の設計になっています。これは、後述する組織文化と一体で動いています。
製品開発については、ヤッホーブルーイングの2020年度ポーター賞受賞レポートおよびMarkeZine「『100人に1人、刺さる人がいればいい』赤字から大逆転、ヤッホーブルーイングの成長支える思考」(2024年)が、「100人に1人に深く刺さるブランドをつくる」という方針を同社の戦略の核として紹介しています。
100人に1人という非常に具体的な方に深く刺さることで、その方の周辺にいる20人、30人という方に広く届くような製品になっていく ── MarkeZine「『100人に1人、刺さる人がいればいい』」(2024年、要旨)
商品名にもこの方針が反映されています。「よなよなエール」「インドの青鬼」「水曜日のネコ」「裏通りのドンダバダ」「正気のサタン」と続く商品ラインナップは、賢者の選択サクセッション「大ヒットクラフトビール『インドの青鬼』どうやって命名?」(2024年)や日経クロストレンド「水曜日のネコ、正気のサタン 奇抜な商品名に緻密なブランド戦略」(2019年)で取り上げられたとおり、いずれも一見奇抜なネーミングです。ただしその根拠には、IPA(India Pale Ale)が大航海時代にインド輸送用ホップ大量配合のビールから生まれた、という素材ストーリーの正確な引用が置かれている、と賢者の選択サクセッションは紹介しています。
ここでの就任社長の気づきは、3つに整理できます。
第1は、ヤッホーブルーイングの「マーケティング」が、広告投下中心ではなく、「お客さま一人と関係を結ぶ」現場設計の積み重ねで成り立っている点。第2は、「100人に1人」の集中という選択が、ラガー系の大手ビールメーカーと正面から争わない座組として、製品開発と組織文化を一致させていること。第3は、これらの設計がブームに乗ったクラフトビール業界全体の中で、長期に再現可能な仕組みになっていることです。
ファンベース型のマーケティングは、佐藤尚之氏が提唱した「ファンベース」という言葉とともに語られることが多いですが、ヤッホーブルーイング自身の取材記事(MarkeZine「インナーとファンは表裏一体」など)では、社内コミュニケーション部門「よなよなピースラボ」の佐藤潤氏らが、「ファン=製品の機能や品質に加え、会社の価値観・スタッフ・ブランドの歴史にも共感する人」と定義し直していると紹介されています。商品の良し悪しだけではなく、つくり手の人格と組織の生態を含めて関係を結ぶ──地方企業のマーケティングが「広告予算では大手と戦えない」前提に立つとき、ヤッホーブルーイングの作法は参考になる方の代表例として位置づけられます。
4. 「ぷはっと幸せ」「想像を超えた喜び」──経営フレーズの輪郭
井手氏の経営スタイルは、ヤッホーブルーイングのコーポレートサイトおよびWORK MILL「チームと文化で会社は変わる」(2018年)、HR Doctor「ミッションを支える『フラットな組織文化』」、エキサイティブ・フォーサイト・オンライン(日立)「日本のビールに、バラエティを。」連載(2020〜2021年)などで、いくつかのフレーズに集約されています。
- ミッション「ビールに味を!人生に幸せを!」(ヤッホーブルーイング公式ミッション、複数取材で繰り返し引用)
- ガッホー文化(「頑張れヤッホー!」の略。フラット、究極の顧客志向、自ら考えて行動する、切磋琢磨、仕事を楽しむ、知的な変わり者の6要素で構成)
- ニックネーム文化(社長も社員も全員、自己申告したニックネームで呼び合う運用)
ガッホー文化は、社員間の「フラット」な人間関係をベースに、「究極の顧客志向」を目指すという考え方です ── HR Doctor「株式会社ヤッホーブルーイング ミッションを支える『フラットな組織文化』」(要旨)
タイトルにも掲げた「ぷはっと幸せ」「想像を超えた喜び」は、ヤッホーブルーイングの公式発信および取材記事の見出し・本文に繰り返し登場する語彙で、ビールを一口飲んだときの肯定的な瞬間と、ファンとの双方向のやり取りで生まれる成果の総量を指す言葉として使われています。「ファンに製品を売る」ではなく、「ファンと一緒にビールがある生活を楽しむ」というスタンスを、社員教育・採用基準・イベント設計の隅々まで言語化したことが、ヤッホーブルーイングの強みです。
組織については、日経BIZ・カンブリア宮殿(2022年8月11日放送)、テレ大阪「カンブリア宮殿【大復活の”どん底”メーカーに学ぶ 熱烈ファンを作る極意】」、Newspicks「【ヤッホー井手】社員6倍、13年増収。超フラット企業の成功法」(2018年)などで「ティール組織」「超フラット組織」というキーワードで紹介されてきました。同社自身は「ティール組織を目指したわけではなく、皆が働きやすい組織のために進めてきた取り組みがティールと呼ばれるようになった」とWORKERS STYLEやTalknote Magazineの取材で説明しており、外部のラベル付けと内部の自己説明のあいだに、丁寧な距離感を取っているのが特徴です。
ここでの井手氏の外部任用経営者としての特徴は、(1)親会社オーナー(星野佳路氏)に対しては、子会社経営の自由度を獲得し、(2)社員に対しては、上下関係よりも双方向の議論を奨励し、(3)ファンに対しては、企業対個人ではなく「同じビール文化をつくる仲間」として接する、という3本立ての関係設計を、20年以上かけて言語化してきたことにあると整理できます。
5. シェア首位、ポーター賞、キリンとの提携──数字と評価の積み上げ
就任後の打ち手で、もっとも分かりやすい結果が出ているのは、業績と業界内の評価軸です。
業績は、ヤッホーブルーイング公式コーポレートサイト「業績」カテゴリのプレスリリースおよび日経クロストレンド連載によれば、井手氏が社長に就任した2008年以降、長期にわたる増収増益基調にあります。2021年公開の同社プレスリリース「ヤッホーブルーイング2021年業績」では、第26期(2020年12月〜2021年11月)に売上高が前期比30%増、19期連続増収・過去最高益を更新したことが公表されています。2024年3月の事業方針発表(宣伝会議「ヤッホーブルーイングのEC戦略『2024年はファンを増大させる』」、AdverTimes「卒乳お祝いで『よなよなエール』」)では、2024年度も2桁の売上増を目指す方針が示されました。
シェアについては、複数取材(SAKE TALK「『たった一人』に刺さればいいヤッホーブルーイングの勝ち筋」、ヤッホーブルーイング2020年度ポーター賞受賞レポート、MarkeZine、Pando「企業分析101」など)で「国内クラフトビール業界700社の中で首位」と紹介されています。一方、ビール業界全体の総量に対するクラフトビールの構成比は、各種市場調査(WED「2024年のクラフトビール市場創造」など)で1〜2%程度と推計されており、ヤッホーブルーイングの「シェア首位」という表現はクラフトビールカテゴリ内でのものである点には注意が必要です。
業界外からの評価としては、2020年度のポーター賞(一橋ビジネススクール ポーター賞運営委員会)を、クラフトビール業界として初めて受賞しました(出典:ポーター賞受賞レポート、ヤッホーブルーイング2020年10月30日プレスリリース)。ポーター賞は、独自性のある戦略と高い収益性を維持している企業を表彰するもので、ヤッホーブルーイングの受賞理由には次の評価軸が記載されています。
自らを「ビール製造・サービス業」と定義し、多様で個性的なクラフトビールの提供だけでなく、自社単独でリアル・オンラインでファンが集まるイベントや参加型プロモーションを開催して、ファンとの強い関係性を築いている ── ポーター賞2020年度受賞企業レポート「株式会社ヤッホーブルーイング」(要旨)
資本構造の面では、2014年にキリンビール株式会社との業務・資本提携が発表されました(出典:キリンホールディングス2014年9月24日プレスリリース、日本ビアジャーナリスト協会、ダイヤモンド・オンライン「ヤッホーとキリン提携、一度は不成立の裏に何が?」)。これにより、ヤッホーブルーイングの株式は親会社・星野リゾート関係が約66.6%、キリンビール側が約33.4%という構成に切り替わり、ヤッホーブルーイングの缶ビール生産の一部をキリン側に委託する体制になりました。注目すべきは、この資本提携が「ヤッホーブルーイングが大手の傘下に入った」という形ではなく、佐久醸造所の生産能力の上限突破と全国流通の供給安定を目的とした業務上の協業設計として記録されている点です(出典:日本ビアジャーナリスト協会「ヤッホーブルーイングとキリンビール、業務提携契約締結」)。
社員数については、複数取材で時期により表現が揺れていますが、近年の取材(三鬼商事KEY-PRESS、Pando「企業分析101」など)では130名前後と紹介されています。新規拠点としては、大阪府泉佐野市との共同プロジェクト「ヤッホーブルーイング大阪ブルワリー」が2026年開業予定であることが、同社2024年事業方針発表(AdverTimes、宣伝会議)で公表されています。
6. 編集視点:外部任用社長とファンベース型マーケティングの作法
ヤッホーブルーイングの事例から取り出せる学びを、ローカルグローススタジオ的に整理すると次のようになります。
-
「親会社系列内での外部任用社長」というキャリアパスがある 井手氏は、創業家でも親会社プロパー社員でもない、軽井沢の広告代理店の営業マンから星野氏に誘われて入社しました。能作や中川政七商店のような世襲承継、古屋旅館のような家業帰還、甲子化学工業のような3代目候補と並べると、ヤッホーブルーイングの座組は「親会社オーナーが、子会社経営を外部人材に任せ切る」という別系統です。地方企業の経営者交代設計を考えるうえで、世襲一択ではない選択肢の参考になります。
-
「8年連続赤字」を「楽天市場の電話」で抜けたという順序は再現性がある 外部からの提案(楽天市場担当者の提案)を、社内の打ち手(井手氏自身が長文メルマガを書く運営)に翻訳して実装する作法は、地方企業のEC立ち上げの王道です。重要なのは、ツールの導入ではなく、「対面で会えないお客さまとの関係を、誰がどう書くか」を経営者自身が引き受けたという順序です。
-
「100人に1人に深く刺さる」は、地方企業のマーケティングの原則として転用できる ヤッホーブルーイングの製品開発・ネーミング・イベント・組織文化はすべて、「多くの人に薄く届く」ではなく「少数に深く届く」設計です。地方企業がマス広告で大手と勝負しない前提に立つとき、この方針は商品開発からPRまでをそろえる一本軸として機能します。
-
ファンイベントは「広告投資」ではなく「商品体験の延長」として設計する 超宴は2010年の40〜50人規模から2018年の5,000人規模、2019年の1万人規模へと拡大しました。重要なのは規模そのものではなく、ヤッホーブルーイング社員がニックネームで自己紹介し、ファンと直接話す現場運用が、商品体験の延長として組み込まれている点です。地方企業にとって、自社拠点と同じくらい、ファンと会う場が最大のマーケティング資産になります。
-
「ガッホー文化」「ぷはっと幸せ」「想像を超えた喜び」のような自家製の言葉を持つ 外部の経営理論(ティール組織、ファンベース等)に語彙を借りるのではなく、自社独自のフレーズを20年かけて磨いていったことが、ヤッホーブルーイングの長期成長の説明資源になっています。地方企業の就任社長にとって、まず必要なのは戦略フレームワークではなく、組織が共通言語として日常で使える自前の言葉です。
本事例から見える経営とマーケティングの学び
ヤッホーブルーイングの物語は、「親会社系列内の外部任用社長」が、地ビールブーム崩壊後の8年連続赤字を経て、ネット通販とファンベース型マーケティングで国内クラフトビール首位ブランドを育て上げた事例として読めます。重要なのは、井手直行氏が大手電機・環境・広告代理店という異なる業界を渡り歩いてから軽井沢でビール事業に出会い、社長就任前から長文メルマガと現場対応で「お客さま一人と関係を結ぶ」作法を組織に染み込ませたことです。地方企業の成長は、外から持ち込んだ手法ではなく、自社が立っている地面の解像度を上げる作業から始まります。ブランドやリソースが薄い状態から成長を作る経営者にとって、ヤッホーブルーイングの歩みは「誰に深く刺すか」「誰と関係を結ぶか」を考えるための学びになります。
関連:ローカルグローススタジオ・グロースマガジン
本事例の学びと共通する、グロースマガジン(https://lgstudio.jp/magazine/)の解説記事を2本紹介します。
1. 顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しよう
共通点: ヤッホーブルーイングが長文メルマガ・超宴・公式オンラインショップというファンとの直接接点を20年積み上げてきたのは、本記事が示す「ストック資産で獲得効率を上げる」設計です。広告で新規をフローで集めるのではなく、ファンの口コミ・再注文・イベント再来場をストックとして積み上げる経営は、本記事のコア発想と完全に一致します。
2. インサイトを理解する 〜「本当は○○したい」をつかむ〜
共通点: ヤッホーブルーイングが「ぷはっと幸せ」「想像を超えた喜び」という独自の言葉で顧客便益を整理してきた背景には、「ビールでない他の楽しさを求めているコアファン」という潜在ニーズの発見があります。本記事が説く「本当は○○したい」をつかむ視点が、よなよなエール・水曜日のネコ・インドの青鬼などのブランド設計に直結しています。
出典
-
ヤッホーブルーイング公式コーポレートサイト「社長|株式会社ヤッホーブルーイング」(株式会社ヤッホーブルーイング、取得日2026-05-18) https://yohobrewing.com/tencho/
-
ヤッホーブルーイング公式コーポレートサイト「ストーリー」(株式会社ヤッホーブルーイング、取得日2026-05-18) https://yohobrewing.com/story/
-
ヤッホーブルーイング公式コーポレートサイト「【ヤッホーブルーイング2021年業績】売上高は前期比3割増 19期連続増収・過去最高益を記録」(株式会社ヤッホーブルーイング、2022年3月25日公開、取得日2026-05-18) https://yohobrewing.com/story/20220325_performance26/
-
ヤッホーブルーイング公式コーポレートサイト「ヤッホーブルーイングが2020年度『ポーター賞』受賞」(株式会社ヤッホーブルーイング、2020年10月30日公開、取得日2026-05-18) https://yohobrewing.com/news_release/porter2020/
-
ヤッホーブルーイング公式コーポレートサイト「【イベント】よなよなエールの超宴2018~ビールとオトナの文化祭~」(株式会社ヤッホーブルーイング、2018年公開、取得日2026-05-18) https://yohobrewing.com/%E3%80%90%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%88%E3%80%91%E3%80%8C%E3%82%88%E3%81%AA%E3%82%88%E3%81%AA%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AE%E8%B6%85%E5%AE%B42018-%EF%BD%9E%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%AB/
-
ポーター賞「2020年度受賞企業レポート 株式会社ヤッホーブルーイング」(一橋ビジネススクール ポーター賞運営委員会、取得日2026-05-18) https://www.porterprize.org/pastwinner/2020/12/07120000.html
-
日経クロストレンド「ヤッホー社長が語る廃業危機 星野リゾート社長の一言で涙の発奮」(株式会社日経BP、2018年公開、取得日2026-05-18) https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00062/00001/
-
日経クロストレンド「倒産寸前からネット通販で離陸 ヤッホーブルーイング成功の原点」(株式会社日経BP、2019年公開、取得日2026-05-18) https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00509/00033/
-
日経クロストレンド「水曜日のネコ、正気のサタン 奇抜な商品名に緻密なブランド戦略」(株式会社日経BP、2019年公開、取得日2026-05-18) https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00778/00002/
-
ITmediaビジネスオンライン「地ビールブームから一転、8年連続赤字で”地獄”を見たヤッホーブルーイング」(アイティメディア株式会社、2016年3月3日公開、取得日2026-05-18) https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1603/03/news012_5.html
-
エン・ジャパン「よなよなエールを育てた『非常識』な男。倒産寸前でも”初”に賭ける|井手直行の履歴書」(エン・ジャパン株式会社、2019年10月28日公開、取得日2026-05-18) https://employment.en-japan.com/myresume/entry/2019/10/28/103000
-
楽天グループ「楽天25周年 井手直行さんの楽天履歴」(楽天グループ株式会社、2022年公開、取得日2026-05-18) https://corp.rakuten.co.jp/event/anniversary25th/myhistory/02/
-
テレビ東京「カンブリア宮殿」2022年8月11日放送回 ヤッホーブルーイング社長 井手直行氏(株式会社テレビ東京、取得日2026-05-18) https://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/2022/0811/
-
賢者の選択サクセッション「クラフトビールのブームが終わったとき、『よなよなエール』はどう復活したのか」(株式会社賢者、2024年公開、取得日2026-05-18) https://kenja-succession.com/articles/strategy/interview-yohobrewing-1/
-
賢者の選択サクセッション「大ヒットクラフトビール『インドの青鬼』どうやって命名? 『水曜日のネコ』など個性あふれるセンスの源泉とは」(株式会社賢者、2024年公開、取得日2026-05-18) https://kenja-succession.com/articles/strategy/interview-yohobrewing-2/
-
賢者の選択サクセッション「社長と大喧嘩した後、社長から『面白かったよ』とメール クラフトビールのトップ企業、そのユニークな組織文化」(株式会社賢者、2024年公開、取得日2026-05-18) https://kenja-succession.com/articles/strategy/interview-yohobrewing-3/
-
MarkeZine「『100人に1人、刺さる人がいればいい』赤字から大逆転、ヤッホーブルーイングの成長支える思考【前編】」(株式会社翔泳社、2024年公開、取得日2026-05-18) https://markezine.jp/article/detail/45530
-
MarkeZine「インナーとファンは表裏一体。ファンベースなひとたちと考える、これからの顧客との関係構築」(株式会社翔泳社、取得日2026-05-18) https://markezine.jp/article/detail/36443
-
キリンホールディングス「ヤッホーブルーイング社とキリンビール社の業務提携契約および資本提携契約締結について」(キリンホールディングス株式会社、2014年9月24日公開、取得日2026-05-18) https://digitalpr.jp/r/9010
-
日本ビアジャーナリスト協会「ヤッホーブルーイングとキリンビール、業務提携契約締結」(一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会、2014年公開、取得日2026-05-18) https://www.jbja.jp/archives/9202
-
宣伝会議AdverTimes「卒乳お祝いで『よなよなエール』 ヤッホーブルーイング、24年度事業方針」(株式会社宣伝会議、2024年3月8日公開、取得日2026-05-18) https://www.advertimes.com/20240308/article451466/
-
HR Doctor「株式会社ヤッホーブルーイング|ミッションを支える『フラットな組織文化』新入社員から自ら考え行動できる環境を実現」(取得日2026-05-18) https://www.hr-doctor.com/news/management/goodcompany/news-10492
-
ビール女子「あの”超宴”が帰ってくる!5,000人規模でのファンイベント開催決定」(株式会社ビール女子、2018年公開、取得日2026-05-18) https://beergirl.net/yoho-cho-utage2018_n/
-
ビール女子「この秋、史上最大1万人が大集合!超人気イベント『よなよなエールの超宴』が都内で2日間開催決定」(株式会社ビール女子、2019年公開、取得日2026-05-18) https://beergirl.net/cho-utage2019_n/
-
Wikipedia「ヤッホーブルーイング」「井手直行」(参考、取得日2026-05-18) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%83%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E6%89%8B%E7%9B%B4%E8%A1%8C
※本稿は2026年5月18日時点の公開取材記事と公式発表を基に構成しています。固有名詞・数値は引用元の表記に従いました。引用文は複数取材の要旨をもとに再構成した箇所があり、公開前に原文表現の最終確認の余地があります。記載に誤りがあった場合は、お問い合わせフォームよりご指摘ください。
音派の方へ:文派のマガジン記事と同じ学びを音声で
Vol.10
第10回 インサイトを理解する
エピソードを聴く→
他の事例を読む
新潟県燕市中央通 ・ 工芸
株式会社玉川堂
新潟・燕の200年銅器メーカーが「燕三条工場の祭典」と海外百貨店展開で築いた、地方発工芸×グローバルブランドの代表事例
福井県吉田郡永平寺町 ・ 食品・農業
黒龍酒造株式会社
品質本位の流通改革と10年構想の「観光×直販」拠点ESHIKOTOを20年単位で連結させた、200年蔵の長期視点の成長事例
福井県越前市 ・ 食品・農業
有限会社マルカワみそ
福井の老舗味噌蔵が、蔵付き麹菌・天然醸造・有機原料の本質回帰と直販EC・海外輸出を組み合わせ、全国・世界の発酵食品ファンに届けた、地方発酵食品メーカーの成長事例
富山県高岡市 ・ 工芸
株式会社能作
下請け仏具メーカーから純錫の自社ブランドへ、職人現場の理解を起点にメーカー化と産業観光まで踏み込んだ地方企業の成長事例
同じデータから別の切り口
長野県北佐久郡軽井沢町 での採用市況・年収相場・転職市況のレポートも、株式会社ヤッホーブルーイングと同じデータパイプラインから提供しています。