グローススタジオレポート

地方企業の成長事例

札幌ドームから北広島へ、スポーツ×街づくり統合の地方ボールパーク経営

札幌ドームから北広島市への球場移転を機に、球場・ホテル・温泉・農業学習施設・住宅街区を一体運営する「F VILLAGE」を設計した、スポーツ×街づくり統合の地方ボールパーク経営事例

企業概要(公開情報)

企業名
株式会社北海道日本ハムファイターズ / 株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント
所在地
北海道北広島市(エスコンフィールドHOKKAIDO・F VILLAGE)
代表者
小村勝(株式会社北海道日本ハムファイターズ 代表取締役社長) / 前沢賢(株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント 代表取締役社長、2026年3月就任)
設立
1946年
業種
プロ野球球団/ボールパーク/不動産・街区開発
従業員数
株式会社北海道日本ハムファイターズ 約150名(関連各種公開情報)/株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント 約150〜180名規模(マイナビ・SalesNow公開情報)
本記事の公開情報
2026-05-18 公開 / 出典 18本 / 本文約5,800字

今回取り上げるのは、北海道北広島市を本拠地とするプロ野球球団・北海道日本ハムファイターズと、新球場および周辺街区を運営する株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント(以下、FSE)です。1946年に東京・セネタースとして創設された球団は、親会社や本拠地を何度か変えながら、1974年に日本ハム傘下、2004年に札幌ドームへの本拠地移転を経て、2023年3月、北広島市の新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」へ本拠地を移しました。球場を中核とする街区「北海道ボールパーク F VILLAGE」は、開業2年目の2024年に年間来場者418万7,046人(前年比+21%)を記録、開業3年目には累計来場者1,000万人を突破したと報じられています(日本経済新聞「エスコンフィールド、来場者1000万人突破 開業3年目」2025年7月)。

本稿は、次の公開取材記事と公式発表をもとに、以下3点を整理します。

  • 日経クロストレンド
  • 日経BP「PPPまちづくり」
  • 日経クロステック
  • 日本経済新聞
  • 北海道新聞
  • UHB北海道ニュース
  • HTB北海道ニュース
  • 東洋経済オンライン
  • ITmediaビジネスオンライン
  • TECTURE MAG
  • BUNGA NET
  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング統合的価値評価レポート
  • 北広島市公式特設サイト
  • ファイターズ公式
  • FSE公式
  • クボタ プレスリリース
  1. 移転前夜──札幌ドームに本拠地を置いた20年間と、構造的に積み上がった課題
  2. 何を作ったか──「北海道ボールパーク F VILLAGE」の街区設計と、ボールパークの中身
  3. 集客・経済効果・地域人口──開業3年で見えてきた数字と次の打ち手

1. 移転前夜──「札幌ドームでは選手を守れない」と気づくまで

北海道日本ハムファイターズは、戦後プロ野球の再開に合わせて1946年に東京・セネタースとして発足し、東急、東映、日拓ホームを経て1974年から日本ハム傘下に入った球団です(球団公式「ファイターズ50周年記念特設サイト」、Wikipedia「北海道日本ハムファイターズ」)。2003年、日本ハム本社から独立した運営会社として株式会社北海道日本ハムファイターズが設立され、2004年シーズンより東京から札幌へ本拠地を移し、札幌ドームを本拠地球場として使用してきました。

注目すべきは、2004年の北海道移転自体が、すでに「球団経営を地域に根ざした事業として組み直す」意思決定だった点です。札幌ドームへの本拠地移転後、ファイターズはホーム試合運営、ファンサービス、地域連携を独自に積み重ね、観客動員と地域認知の両面で日本のプロ野球球団のなかでも上位の存在感を獲得していきます。

ただし、札幌ドームでの試合運営には、構造的な制約が並行して残っていました。複数の取材記事が、以下3つの論点を共通して指摘しています(出典:東洋経済オンライン「日ハム新球場へ移転後『札幌ドーム』の生きる道」2022年、東京新聞「日ハム新球場移転でも札幌ドームは強気に黒字見込む」2022年、ITmediaビジネスオンライン「北海道日本ハムファイターズ新球場の仕掛け人」2022年4月、VICTORY「『選手を守れない』日ハム事業本部長が語る、球場移転が絶対に必要な理由」)。

第1に、賃料・収益配分の問題です。ファイターズは札幌ドームを所有しておらず、球場使用料に加え、球場内の広告料が大家側にすべて入る構造にあり、球団としての設備投資余地が小さいと複数取材で報じられています。東京新聞や東洋経済オンラインの取材によれば、球団が支払う使用料関連の総額は選手の年俸総額に匹敵する水準だったとされています。

第2に、設備とコンディションの問題です。札幌ドームのグラウンドはコンクリート下地に人工芝を敷く構造で、選手の身体負荷とけがのリスクが大きく、天然芝化を求めても所有者の札幌市側で対応が取れなかったと、FSE取締役・前沢賢氏のインタビュー(ITmedia、VICTORY、日本ハム公式「人と挑戦」、2021年〜2024年公開)で説明されています。

第3に、興行カレンダーの優先順位です。札幌ドームはコンサートや他競技と併用されるため、球団の希望日にホーム試合を組みづらい構造があり、球団主導のイベント運営や付帯収益化に天井があったと、東洋経済オンラインや東京新聞の取材で指摘されています。

「選手を守れない」「球場経営の主導権がない」 ── 前沢賢氏(当時 ファイターズ事業本部長)が札幌ドーム時代の課題として繰り返し語ったフレーズの要旨(VICTORY「日ハム事業本部長が語る、球場移転が絶対に必要な理由」、日本ハム公式「人と挑戦」)

球団内では2010年ごろから新球場構想が議論され始め、当時の三谷仁志氏(現FSE専務)と前沢賢氏が2015年前後に新球場構想を本格化させたとITmedia・日本ハム公式「人と挑戦」では伝えられています。2016年5月、ファイターズは新球場計画の検討開始を公式に発表。札幌市内複数地点を候補として比較したうえで、2018年3月、北広島市・きたひろしま総合運動公園内の用地に新球場を建設することを決定しました(北広島市公式「ボールパーク建設の発表及び協定締結について」2018年3月、Wikipedia)。

地方都市にとって「市民球場の誘致」は珍しくありませんが、ファイターズの場合は球団側が主導して移転先を選定し、自治体側がそれを受け入れる、という順序になった点が重要です。札幌市・札幌ドームと、ファイターズ側のあいだに残った構造的な摩擦が、移転先の自治体選定──「使用料を払う場所」ではなく「自前で街を作れる場所」を探す動き──に転化した、と読めます。


2. 北広島市への移転決定と街区設計──600億円の球場、1,600億円の街区

新球場の事業主体は、2019年10月に日本ハム本社、株式会社北海道日本ハムファイターズ、電通グループ、民間都市開発推進機構の4社共同出資で設立された株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント(FSE)です(FSE会社概要、ファイターズ公式「会社概要」、日本ハム公式「ボールパーク・その他事業」)。資本金は120億円。新球場の建設・所有・運営から、街区全体の事業開発までを担う体制として設計されました。

球場と街区の経済規模は、おおむね次のとおりです(日経BP「PPPまちづくり」、BUNGA NET、北海道リアルエコノミー、日本経済新聞、日経クロストレンドほか複数取材)。

  • エスコンフィールドHOKKAIDO本体の総工費:約600億円
  • F VILLAGE全体の敷地面積:約32ヘクタール
  • 道路・周辺インフラを含めた街区全体の投資総額:約1,600億円(前沢賢氏の取材言及)
  • 命名権:日本エスコンが取得、契約期間10年超、年5億円超(日経新聞2020年1月、ITmediaビジネスオンライン2020年1月)

エスコンフィールドHOKKAIDOの設計・施工は、大林組と米国HKSによる一括受注です(itmedia BUILT「大林組と米国大手の設計事務所『HKS』が、『北海道ボールパーク(仮称)』の設計・施工を一括受注」2018年11月、TECTURE MAG「エスコンフィールドHOKKAIDO/大林組+HKS」2023年7月、大林組「OBAYASHI Thinking」)。施設のスペックは次のように整理されています。

  • 収容人員:約35,000人
  • 屋根:水平スライド式の開閉式大屋根(国内最大級)
  • 芝:天然芝(国内の屋根付き球場として初めて、開閉式屋根と天然芝を両立)
  • ガラスウォール:三塁側に最大高さ約70メートルの大型ガラスファサード
  • フィールドと観客席の距離感はMLB球場を手本としつつ、北海道の風土・気候に合わせた最適化

TECTURE MAG(2023年7月)と大林組「OBAYASHI Thinking」では、開閉式屋根を「複雑な開き方」ではなくあえて水平方向への一枚スライドに振り、コストとリスクを管理しやすい形にしたこと、外観は北海道の人にとって馴染みのある切妻屋根とレンガ調タイルで構成したことが、設計上の意思決定として記録されています。

街区側の構成は、球場のレフトスタンド側に積層した複合棟「TOWER ELEVEN(タワー11)」を中心に、農業学習施設、こども園、グランピング、住宅街区などを束ねる、という構造です。

TOWER ELEVEN(タワー11) TOWER ELEVENは、エスコンフィールドのレフトスタンド側に併設された地上6層・鉄骨造の積層複合棟で、ホテル・温泉&サウナ・ミュージアム・フードホール・レストランなどが入居しています(野村工芸、TECTURE MAG、北広島市観光「タワーイレブン温泉&サウナ」、ファイターズ公式)。最上層のホテル「tower eleven hotel」は、客室の窓からフィールドを直接見下ろせるアジア初の球場内ホテルとして紹介されており、開閉式屋根を開いた状態の試合日には、客室から試合を観戦できる構成です。

KUBOTA AGRI FRONT(クボタ アグリフロント) F VILLAGE北側エリアに2023年3月に開業した農業学習施設で、株式会社クボタ・北海道大学・FSEの3者連携協定にもとづいて整備されました(クボタ「北海道ボールパークFビレッジ内に農業学習施設『KUBOTA AGRI FRONT』を開業」2023年3月、北海道大学リサーチタイムズ2023年4月)。施設は「CAFE」「THEATER」「FIELD」「TECH LAB」「TABLE」「POTAGE GARDEN」の6つのエリアで構成され、施設見学と農業経営ゲーム「AGRI QUEST」を組み合わせた約80分のツアープログラム(参加料金300円/人)を提供しています。

こども園・グランピング・ヴィラ F VILLAGE内には認定こども園、グランピング施設、プライベートヴィラ「VILLA BRAMARE」、子ども向けの大型遊具「Bone-Lund(ボーネルンド)」運営の体験施設などが併設されています(F VILLAGE公式、北広島市「Fビレッジ内の施設や機能について」、るるぶ&more.「『北海道ボールパークFビレッジ』が2023年3月30日(木)に開業!」2023年4月)。試合のない日でも、家族・観光・宿泊・ワーケーション目的での滞在を成立させる構成として設計されています。

JR新駅(北海道ボールパーク駅、仮称) 2024年11月にJR北海道が着工した千歳線新駅は、エスコンフィールドから約300メートル、徒歩約4分の位置に設置され、2028年夏頃の開業を目指しています(Impress Watch「北海道ボールパーク隣接地の新駅着手・デザイン決定」、マイナビニュース2024年7月、タビリス、UHB北海道ニュース)。協定工事費約80億円・総工事費約90億円規模で、ホームは相対式2面4線・6両対応、駅舎は3階建てで改札階は3階。改札空間にはカエデ材、内壁には球場と同じ赤レンガを用いる構成で、街区の「玄関口」としてデザイン上も球場と接続させる設計が公開されています。

ここで読み取れる経営の気づきは、3つに整理できます。

第1は、「球場の境界線」を意図的に解いた点です。エスコンフィールドは「球場の中にホテルがある」のではなく、「球場棟とホテル・温泉・フードホールの積層棟が、レフトスタンドという共通の境界面で隣接している」という構成です。これは、興行のオン/オフ以外のすべての時間帯から、球場関連空間で収益を取り続けるための設計と読めます。

第2は、街区パートナーを「野球関連企業」ではなく「異業種の代表企業」で揃えた点です。クボタ(農業機械)、ザ・ノース・フェイス(ゴールドウイン、アウトドア)、ヤッホーブルーイング(クラフトビール)、Bone-Lund(子ども向け体験)、Specialized(ロードバイク)、ドゥラブル・テーブル(ベーカリー)など、これまでプロ野球とは直接接点を持たなかったブランドが街区側に並んでいます(日経クロストレンド「日ハム新球場はマーケの実験場 真の価値は『球場の外』にあり」、HALFTIME「初年度来場300万人、3割以上が『野球観戦以外』」)。これにより、街区そのものが「異業種の実験場」として企業側から見ても出店動機を持つ構造になりました。

第3は、街区への投資が「球場本体の600億円」よりも、「周辺・インフラを含めた1,600億円」のほうに重心がある点です。FSEは、球場単体の興行採算だけでなく、街区不動産、ホテル、温泉、農業学習、住宅、JR新駅といった、本来は野球以外の事業領域に複数の事業ラインを置く設計を選びました。野球の興行収益を、地域経済の「ハブ」として再投資し続ける構造です。


3. F VILLAGEの中身──「試合のない日に来る人」を半分以上にする設計

エスコンフィールドHOKKAIDOとF VILLAGEは、2023年3月30日に開業しました。FSEが公開している「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE ANNUAL REPORT 2024」と複数取材によれば、開業初年度・2年目の来場者数の内訳は次のとおりです。

  • 開業初年度(2023年):F VILLAGE全体の来場者は約345万人(目標300万人を上回る)、ファイターズ主催レギュラーシーズン公式戦の来場者は約188万人、1試合平均約24,260人(FSE ANNUAL REPORT 2023、HTB北海道ニュース「ボールパーク開業から半年 年間の目標来場者数を早くも達成」2023年9月、ナショナル・スタジアム・ツアーズ)
  • 開業2年目(2024年):F VILLAGE全体で約418万7,046人(前年比+21%)、内ファイターズ公式戦が約207万5,734人、それ以外のイベント・来訪が約211万1,312人(FSE「ANNUAL REPORT 2024」2025年1月、SPORTS JOB NETWORK、PR TIMES)
  • 開業3年目(2025年):累計来場者1,000万人を突破(日本経済新聞「エスコンフィールド、来場者1000万人突破 開業3年目」2025年7月)

ここで重要なのは、2024年の年間来場者418.7万人のうち、ファイターズ公式戦由来は約207.6万人、それ以外のイベント・来訪が約211.1万人と、「試合のない日に来る人」が半数を超えた点です。日経クロストレンド「日ハム新球場はマーケの実験場 真の価値は『球場の外』にあり」と日経クロステック「開業迎える日ハムボールパーク、逆転の発想で『集客数×滞在時間』を増やす」(2023年3月)、HALFTIME「初年度来場300万人、3割以上が『野球観戦以外』」では、FSEが当初から「試合のない日に来る人を増やす」ことを設計のKPI (重要業績評価指標)に据えていたと報じられています。

開業初年度・FSE公開資料(2024年1月)では、試合のない日の平均日次来場者が平日約4,500人、週末約10,500人と公表されています。これは、ボールパークの「興行カレンダー依存度」を意図的に下げる戦略の成果として位置づけられるものです。

経済効果については、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「F VILLAGEによってもたらされる統合的価値評価レポート」(2024年2月)が、F VILLAGEおよび周辺開発エリアの開業によって毎年500億円以上の直接的経済効果と、10〜15億円規模の税収増効果が見込まれるとしています。北海道新聞「ボールパーク効果、北海道・北広島に勢い」(2025年3月)、UHB「経済効果は推定1,000億円」(2024年)では、関連支出を含む広い範囲の経済波及効果として年間1,000億円規模の試算も紹介されています。

街と球団の関係でいえば、北広島市の人口動向が変化していることも、いくつかの取材で指摘されています。北広島市は2007年の61,174人をピークに減少傾向にあり、2023年7月時点で57,020人、2024年6月末で56,670人と推移してきました。市の人口ビジョンでは2030年に6万人を目標としており、F VILLAGEや北広島駅西口の再開発がその主要施策に位置づけられています(北広島市公式「市の人口」、homes.co.jp「キタヒロ・ホームタウン-BASE」、ロゴスホーム「北広島市の住みやすさ」、北海道新聞)。また、住宅地・商業地の地価上昇では北広島市内の地点が全国上位にランクされる場面も増えており、ベッドタウンから「ファイターズの本拠地都市」への都市イメージ転換が、地価と移住動向の両面で記録されています。

Fビレッジ近郊では、Fビレッジ関連の雇用者が約3,900人にのぼり、地域の経済・雇用・観光面に大きな影響を及ぼしている ── F VILLAGE関連の公開情報・北広島市公式・三菱UFJリサーチ&コンサルティング統合的価値評価レポート(2024年2月)の要旨

一方で、開業初期は「アクセスの悪さ」が継続的に指摘されました(東洋経済オンライン「日本ハム『新旧の本拠地』が”共倒れ”の予感も」2023年、Yahoo!ニュース「エスコンフィールド北海道で感じたワクワク感と改善点」2023年)。札幌駅・新札幌駅・北広島駅からのシャトルバス運行や、試合終了後の営業継続による人流分散、駐車場運用の改善、そして2028年予定のJR新駅整備というハード対策が並行で進んでいるのが現状です。地方の街区開発で起こりがちな「集客は伸びたがインフラが追いつかない」という宿題を、F VILLAGEは開業段階で抱え、それを駅・道路・運用ルールという複数のレイヤーで段階的に解いている、と整理できます。


4. 編集視点:スポーツ×街づくりが成立した条件

F VILLAGEの事例から取り出せる学びを、ローカルグローススタジオ的に整理すると次のようになります。

  1. 「自前の街区を持つ」ことを、興行ビジネスの長期戦略に組み込む
    球団が球場を所有していなければ、賃料・広告・興行カレンダーの主導権を持てません。札幌ドーム時代の構造的な摩擦は、球場の不所有が「球団の事業設計の天井」になっていた、と読めます。新球場・新街区への移転は、興行収益だけでなく、不動産・ホテル・温泉・農業・住宅といった複数事業の主導権を、球団側に取り戻す意思決定でした。地方発の事業会社が成長の天井を破る局面で、「使用料を払う場所」から「自前で街を作れる場所」に拠点を移す、という選択肢は再現可能性があります。

  2. 「試合のない日」をKPIに置く
    F VILLAGEは、開業初年度から「試合のない日の集客」を主要KPIに置き、2年目の年間来場者418.7万人のうち過半数を野球観戦以外で構成しました。これは、興行サイクルの空白時間を、街区の収益機会として埋める設計です。地方発の集客拠点(球場・道の駅・観光施設)が陥りがちな「ピーク日依存・平日空白」を、複合用途と異業種パートナーで割り直す作法として、F VILLAGEは参照しやすい構造を示しました。

  3. 街区パートナーを「異業種の代表企業」で揃える
    クボタ・ゴールドウイン・ヤッホーブルーイング・Bone-Lund・Specialized・ドゥラブル・テーブルなど、街区側のパートナーはいずれも野球とは直接接点を持たなかった企業群です。FSEは球場の集客力を、これら企業にとっての「実験場」として提示し、各社にとっての出店動機(顧客接点の新設・地方拠点の獲得)を成立させました。地方発の街区開発では、「同業種で集める」より「異業種代表で揃える」ほうが、街区の独自性と話題性を作りやすい、という参考事例です。

  4. 球場の物理デザインそのものを、地域のシンボルに紐づける
    エスコンフィールドの開閉式屋根は、デザイン上はあえて単純な水平スライド方式に振られ、外観は北海道の人に馴染みのある切妻屋根とレンガ調タイルで構成されています(TECTURE MAG、大林組「OBAYASHI Thinking」)。世界の最先端建築に振り切るのではなく、地域の風土に紐づけて「ボールパーク=北海道のシンボル」という記号化に投資した、という意思決定です。地方の拠点設計では、グローバルなトレンドより、地域の生活実感に近い形を選ぶほうが、長期のブランド資産になりやすい可能性があります。

  5. 「JR新駅」というインフラまで巻き込む
    F VILLAGEのアクセス問題は開業初期の最大の宿題でしたが、これに対する対応の中心は「シャトルバスの増便」だけではなく、「2028年夏のJR新駅開業」というインフラ整備です。球団・FSE・北広島市・JR北海道の4者が協定工事費約80億円規模で動かしているこのプロジェクトは、街区の集客力を「鉄道」というハードインフラ側に固定させる動きとして読めます。地方拠点の長期戦略で、駅・道路・公共交通といった「街の骨格」までを射程に入れた設計は、自治体との連携前提でしか組めない作法であり、本事例の再現条件として最も重い部分でもあります。


5. 次の打ち手──FSE新社長と「街化」フェーズ

F VILLAGEは、開業初年度から3年目までに、来場者数・経済効果・地価上昇・移住人口の各指標で初期の事業計画を上回る数字を作りました。2026年3月、FSEは経営体制を更新しています(ファイターズ公式「代表取締役の異動および社長人事について」2026年3月、UHB「ボールパークの生みの親・前沢賢氏が新社長に就任!」2026年3月、道新スポーツ「FSE新社長に前沢賢氏」2026年3月)。

具体的には、これまで株式会社北海道日本ハムファイターズとFSEの社長を兼務していた小村勝氏が球団側の経営に軸足を移し、ボールパーク構想の主導者であった前沢賢氏がFSEの代表取締役社長に就任、という体制です。複数取材によれば、新体制下のFSEは「観光地化&街化」を次のテーマに掲げ、JR新駅開業(2028年夏予定)、商業施設の追加開発、北海道情報大学のキャンパス移転構想など、街区の機能をさらに広げるフェーズに入ったとされています。

ボールパークの生みの親・前沢賢氏が新社長に就任。「観光地化&街化」で北海道へ貢献誓う ── UHB「【Fスポーツ&エンターテイメント】ボールパークの生みの親・前沢賢氏が新社長に就任!」(2026年3月、要旨)

開業3年目までを「球場を中核とした集客フェーズ」、その先を「街区を中核とした都市フェーズ」と切り分けて運営する、というのが現時点での公開取材から見える整理です。地方発の事業会社が、興行から不動産、不動産から都市インフラへと事業の重心を段階的に動かしていく構造は、能作の高岡新本社や中川政七商店の鹿猿狐ビルヂングといった「拠点設計の事例」と並べて読める参考軸になります。


本事例から見える経営とマーケティングの学び

北海道日本ハムファイターズとFSEの物語は、「プロ野球球団の本拠地移転」という一見スポーツ業界の特殊事例にも見えますが、内実は「使用料を払う場所から、自前で街を作れる場所に拠点を移し、興行収益を街区不動産・ホテル・温泉・農業・住宅・JR新駅にまで再投資する」という、地方の拠点設計そのものの事例として読めます。重要なのは、球場本体600億円と、街区全体1,600億円という投資額の比です。球団・FSEは「球場の品質に投資する」ことよりも、「球場の周囲を、年間を通して人が滞在する街区にする」ことに大きな投資配分を置きました。地方拠点を起点に事業を作る経営者にとって、F VILLAGEの歩みは「興行・拠点・街区・インフラ」を一本のストーリーで設計するための学びになります。


関連:ローカルグローススタジオ・グロースマガジン

本事例の学びと共通する、グロースマガジン(https://lgstudio.jp/magazine/)の解説記事を2本紹介します。

1. 間違ってはいけない戦略の順番|ビジョン→事業→商品→営業→組織

共通点: 北海道日本ハムファイターズ/FSEは、「ファンと地域の生活時間に深く入り込むボールパークを北海道に作る」というビジョンを先に立て、その後に新球場(エスコンフィールド)、街区(F VILLAGE)、街区パートナー(クボタ・ゴールドウイン他)、JR新駅という順序で事業構造を組み立てていきました。本記事が示す「ビジョン→事業→商品→営業→組織」の順序は、F VILLAGEの設計の実装そのものです。札幌ドームでの構造的な摩擦を「使用料の交渉」で解こうとせず、「ビジョンを実装できる土地」に拠点を移した意思決定も、この順序のうえに立っています。

2. ローカル事例 - 店舗ビジネスはMEO(地図検索最適化)が重要

共通点: F VILLAGEは「試合のない日に来る人」を半数以上にすることをKPIに置き、ホテル・温泉・農業学習施設・グランピングなど、地図検索や口コミで来訪動機が立つ複数の拠点を街区内に並べました。これは、本記事が示す「店舗ビジネスは、検索される場所に複数の来訪理由を置く」という考え方を、街区そのもののスケールで実装した形と読めます。野球の試合という「カレンダー依存の来訪理由」だけに頼らず、年中365日の検索・流入動線を作り続ける作法として、F VILLAGEの設計は参考になります。


出典


※本稿は2026年5月18日時点の公開取材記事と公式発表を基に構成しています。固有名詞・数値・受賞年は引用元の表記に従いました。株式会社北海道日本ハムファイターズ、株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメントの従業員数・売上高は、本稿で参照できた第三者取材記事・公開データベース(Baseconnect、SalesNow、マイナビ、官報決算データベース等)の範囲で確認できた値を採用しています。記載に誤りがあった場合は、お問い合わせフォームよりご指摘ください。

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第9回 MEO(地図検索最適化)について

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