成長事例シリーズ・テーマ6
海外展開のリアル|地方から世界市場へ出て伸ばした6社に共通する打ち手
これまでの回で扱った打ち手の先に、国内の市場だけでは終わらせず、海外へ出て伸ばした会社があります。シリーズの最終回は、その海外展開に絞ります。
承継した会社も、新しく興した会社も、地方に本拠を置いたまま、輸出や現地法人、海外のパートナー、国際的な評価を通じて、世界の市場に届いていました。本稿では、地方から海外へ出て成長した6社の公開取材記事と公式発表を整理し、海外展開の打ち手の型と、それが経営に何を返したのかを、業種も規模もまたいで読み解きます。なお、本メディアは対象企業への直接取材は行わず、公開取材記事と公式発表を集約して整理しています。
型① 技術・製品そのもので、世界の市場を取る
最初の型は、言語やブランドより先に、製品の性能そのもので世界の市場を取ることです。とりわけ企業間取引の装置や技術では、どこの国のものかよりも、性能と、現地で使い続けられる支えがあるかどうかが、選ばれる理由になりました。
広島・東広島のサタケは、精米機を中心とする食品産業機械のメーカーで、米だけでなく小麦やトウモロコシの加工機械まで広げ、輸出先は約150カ国に及びます。1991年に英国の老舗製粉機メーカーを買収してマンチェスターに欧州拠点を置き、1997年に中国・蘇州、2013年にインドネシアへ現地法人を設けて、据付やアフターサービスまで現地で担う体制を作りました。電力事情の悪い東南アジア向けに始動電流の低い専用モーターを開発するなど、進出先の事情には技術で合わせています。北米の大型精米プラントではシェア約98%(国内は約70%)を占め、グループの海外売上比率は約4割、2030年2月期に5割へ引き上げる計画です。兵庫・丹波のサグリは、衛星データとAIで農地を可視化する技術を、創業の翌年から海外へ持ち出しました。2019年にインドのベンガルールへ現地法人を設け、農家に直接売るのではなく、現地の農業金融の事業者に、農地のデータや与信のための情報を提供する形で入りました。タイでは水田向けの情報基盤づくりを、カンボジアでは水管理によるメタンガス削減を衛星で検証する実証を進め、タンザニアやエチオピアでも案件を重ねています。同じ地球を宇宙から見る技術なので、現地に大きな営業組織を持たなくても、国をまたいで広げられるのが強みです。
製品と技術そのものが、言葉を超える。共通するのは、進出先ごとに現地の事情へ技術で合わせながら、核となる強みは変えずに世界の市場を取ったことです。
登場企業(補足)
サタケ(広島・東広島/食品産業機械) 1896年創業、創業者が動力精米機(本人発表で日本初)を考案したのが始まりです。色彩選別機は米以外に約220品目に対応し、海外拠点は14カ国、グループ従業員は約3,000人規模です。2025年2月期のグループ連結売上は約670億円です。
サグリ(兵庫・丹波/アグリテック) 2018年創業。社名は Satellite(衛星)×AI×Grid(区画)に由来します。2024年に宇宙開発利用大賞の内閣総理大臣賞を受賞し、同年のシリーズAで約10億円を調達し、海外人員の拡充へ動いています。
型② ブランド・文化として、海外の高付加価値市場に入る
2つめの型は、量や価格ではなく、ブランドと文化としての価値で、海外の高付加価値な市場に入ることです。世界の目利きに選ばれることが、そのまま国内での評価も押し上げました。
岩手・盛岡のヘラルボニーは、知的障害のある作家の作品を知的財産として企業に提供する会社で、福祉としてではなく対等なライセンス契約というビジネスの形が、海外では文化・ブランドの文脈で評価されました。2024年5月、世界的なラグジュアリー企業LVMHのイノベーションアワードで、日本企業として初めて部門賞を受けました。同年7月にはパリへ子会社を設立し、9月からはパリのスタートアップ拠点を足場に、現地のギャラリーで初の海外展示を開いています。国内で完成させたブランドを海外へ持ち出すのではなく、海外で評価される過程そのものを、国内の評価を高める装置にしました。新潟・燕三条の玉川堂は、200年続く鎚起銅器(銅の板を鎚で打ち起こす工芸)を、ラグジュアリーの文脈へ接続することで海外に届けました。7代目の就任後、フランクフルトやパリの見本市へ継続して出展し、象徴的な打ち手として、LVMHグループのシャンパン「KRUG」のボトルクーラーの共同開発に、世界の工房の中から選ばれています(2011年に第1弾、2012年に第2弾を発表)。単なる受注ではなく、燕三条の銅器を「日本発のラグジュアリー」という文脈に置く装置として働きました。
安さでも量でもなく、文化としての価値で選ばれる。共通するのは、世界の目利きに認められる文脈へ自らを置き、その評価を国内へも還したことです。
登場企業(補足)
ヘラルボニー(岩手・盛岡/アート・ライセンス) 2018年設立。社名は、知的障害のある兄が子どもの頃に自由帳へ繰り返し書いた造語です。契約アートは2,000点以上に広がり、2024年にパリへ子会社を設立しました。
玉川堂(新潟・燕/鎚起銅器) 1816年創業、銅の板を鎚で打ち起こす鎚起銅器のメーカー。1873年のウィーン万博への出品や1893年のシカゴ万博での受賞という古い海外実績を土台に、7代目が海外見本市とラグジュアリー市場へ広げています。
型③ 現地に根を張り、作り手や市場と組む
3つめの型は、遠くから売るのではなく、現地に人を送り、現地の作り手や市場と長く組むことです。商品を輸出するだけでなく、現地との関係そのものを事業の土台にしました。
京都の坂ノ途中は、有機野菜の国内流通と並ぶ第2の柱として、2014年から「海ノ向こうコーヒー」を育てました。ラオス北部やエチオピアなど山岳地域の小規模農家や協同組合と、複数年にわたる直接契約を結び、豆を買い取ります。認証のラベルに頼るのではなく、現地へ人を送って栽培に伴走する形を選び、ラオス北部では焼畑からの転換も支援しています。買って終わりではなく、作り手と長い関係を結ぶことが、品質と供給の両方を安定させました。福岡・久山町の久原本家は、だしパック「茅乃舎」で国内の直販を伸ばした後、海外にも同じ直販の型を持ち出しました。2016年にベトナムのホーチミンへ日本料理店を出し、続いて米国に現地法人を設けて、ニューヨークでの催事や米国向けの通信販売を育てています。シンガポールやパリ、ロンドンと比べたうえで、そこから世界へ広げられる市場として米国を選びました。土産物として棚に並べるのではなく、直販という続く接点を現地でも作る道を選んでいます。
遠くから売るのではなく、現地に根を張る。共通するのは、現地の作り手や顧客と続く関係を結び、それ自体を海外事業の土台にしたことです。
登場企業(補足)
坂ノ途中(京都・京都/有機野菜D2C・コーヒー) 2009年創業。社名は「持続可能性に向かう坂の途中にいる」の意。ラオスやエチオピアなどの小規模農家と直接契約する「海ノ向こうコーヒー」を、海外事業の柱に育てています。
久原本家(福岡・久山/食品D2C) 1893年創業の「村の醤油屋」。だしパック「茅乃舎」を直販で全国区にし、2016年のベトナム出店を皮切りに海外へ広げています。2024年2月期のグループ連結売上は318億円です。
まとめ:海外展開が経営に返したもの
- 承継した会社も、新しく興した会社も、地方に本拠を置いたまま、輸出・現地法人・海外パートナー・国際評価を通じて、世界の市場に届いていました
- 製品や技術そのものの力で世界の市場を取ることで、言語やブランドを超えて、進出先ごとに技術で合わせながら広がりました
- ブランド・文化としての価値で海外の高付加価値市場に入ることで、世界の目利きの評価を得て、それを国内の評価にも還しました
- 現地に人を送って作り手や市場と長く組むことで、輸出にとどまらず、現地との関係そのものを事業の土台にしました
- 海外展開が返したのは、国内市場の縮小に左右されない販路と、世界で通用したという事実に裏打ちされたブランド価値でした
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※ 本稿は各社・各団体の公開取材記事と公式発表を集約して整理したものです。対象への直接インタビューは行っていません。数値は公開取材時点の情報を引用しており、最新の情報と差異がある可能性があります。