グローススタジオレポート

成長事例シリーズ・テーマ1

事業承継のリアル|継いだ会社を「成長」に変えた12社に共通する打ち手

地方企業の成長事例シリーズ(全6テーマ)

事業承継というと、先代から会社を守り、つなぐ、という守りの話に聞こえます。ですが、公開されている取材記事をたどると、承継をきっかけに会社を大きく伸ばした経営者が数多くいます。継ぐことは、守るためだけでなく、変えるための起点にもなります。

本稿では、事業承継を経て成長した12社の公開取材記事と公式発表を整理し、継いで会社を変えられた経営者に共通する点を読み解きます。老舗の酒蔵や工芸、地方の町工場や食品メーカーまで、業種も規模もばらばらです。それでも、承継という営みそのものには、いくつかの共通した型がありました。この記事は「継ぐこと」に固有の共通点、つまり誰が継ぎ、何を残して何を変え、その先を誰が支えたのかに絞ります。継いだあとに取った販路・産業観光・海外といった具体の打ち手は、このシリーズの各回で1つずつ掘り下げます。なお、本メディアは対象企業への直接取材は行わず、公開取材記事と公式発表を集約して整理しています。

共通点① 後継者は「外の視点」を持って戻ってきた

最初の共通点は、後継者の多くが、家業の外で一度キャリアを積んでから戻っていることです。外の世界を一度知ると、家業では当たり前に見える取引構造や商習慣を「本当にこのままでいいのか」と問い直せる距離が生まれます。そしてその問い直しは、頭の中の気づきで終わらず、具体の改革になって成果に届いていました。

熱海の古屋旅館では、三和銀行から戻った17代目が「家業ではなく企業を経営する」と考え、チャットツールやマニュアル動画などのDXを「従業員の働きやすさ」という一点で束ね、新卒応募者数を数倍に伸ばしました。奈良の中川政七商店は、富士通の営業から戻った13代目が「日本の工芸を元気にする」を掲げてSPA(製造小売)へ転換し、さらに工芸メーカー向けの経営コンサルを始めて、業界の縮小そのものを自社の参入障壁に変え、売上を約20倍に伸ばしています。福井の黒龍酒造は、協和発酵から戻った8代目が、品質を管理できる特約店だけに絞る流通改革に踏み込み、短期の減収を受け入れて「大吟醸」というブランド資産を守りました。富山の能作は、婿養子として18年を職人で過ごした4代目が、仏具の「おりん」を風鈴に転用したのを機に、合金化が定石だった錫を「曲がる」純錫の器へと自社製品化し、下請けの部品を完成品へと作り直して、工場見学は年13万人規模・売上10倍まで広げました。

戻った場所も、変えた対象も違います。共通するのは、外の視点とは新しい知識の持ち込みではなく、何を変えてよいかを判断できる立ち位置だ、ということです。

登場企業(補足)

古屋旅館(静岡・熱海/温泉旅館) 1806年創業、熱海でもっとも古い温泉宿のひとつ。予約入力のオンライン化とアウトソースで月120時間の作業を削り、2025年に合資会社から株式会社へ移行しました。旅館を増やさず「26室でどこまでできるか」を追う代替わりです。

中川政七商店(奈良/工芸SPA) 1716年創業、奈良晒300年の老舗。2024年2月期で売上86.8億円・直営店約60・社員約600名。2018年に創業家の外の14代目へ経営を渡し、2015年度のポーター賞を受賞しています。

黒龍酒造(福井・永平寺/清酒) 1804年創業の200年蔵。「黒龍」「九頭龍」「ESHIKOTO」の3ラインで棲み分け、2022年に直販拠点ESHIKOTOを10年構想で開きました(敷地約3万坪のうち約1万坪を先行開業)。特約店流通・直販観光・宿泊という複数の収益源を次世代へ整えています。

能作(富山・高岡/鋳物) 1916年創業、長く仏具の下請けだった鋳物メーカー。2017年に「観光になる工場」として新社屋を開き、社員は約10人から170人へ。2023年には産業観光を担った長女が5代目に就任しました。

共通点② 残すものと変えるものを、分けて決めた

2つめの共通点は、全部を入れ替えるのでも、全部を守るのでもなく、残す軸と変える軸を分けて決めていることです。承継の難所は、先代のやり方をどこまで残し、どこから変えるかの線引きにあります。取材をたどると、守る一点がはっきりしている会社ほど、変える範囲を大胆に取れていました。

東大阪の甲子化学工業は、本業のプラスチック射出成形を捨てずに残し、そのうえで北海道のホタテ貝殻を充填材にした新素材「カラスチック」と、それを使ったヘルメット「HOTAMET」を、大学や広告会社と組んで開発しました。本業を守ると決めていたから、新素材へ大胆に踏み込め、大阪・関西万博には企業で唯一、2期連続で採択されています。北海道の石屋製菓は、2007年の賞味期限改ざん問題で操業停止に陥った際、看板の「白い恋人」そのものは動かさず、外部から社長を招いて信頼回復の体制を作り直しました。守り抜くものが定まっていたから、崩れた信頼を立て直せて、売上を不祥事翌年の70億円規模から2024年4月期の192.8億円まで戻しています。共通点①で触れた黒龍酒造が品質を守るために減収を選んだのも、同じ「残す軸を先に決める」型です。

登場企業(補足)

甲子化学工業(大阪・東大阪/プラスチック) 1969年創業、社員16人の射出成形メーカー。年1000品種・1400万個規模の多品種少量生産を続けながら、ゼネコン出身の3代目候補が新素材「カラスチック」を約3年で開発し、iFデザイン金賞・グッドデザインベスト100などを受賞しました。

石屋製菓(北海道・札幌/製菓) 1947年創業、「白い恋人」で全国区の製菓会社。1995年開業の見学施設(現・白い恋人パーク)で製造ラインを公開し、来場者は年約75万人規模。銀座・ドバイ出店やコンサドーレ札幌の子会社化で、看板商品への依存を分散しています。

共通点③ 継いだ会社の「作り直し」を、人で支えた

3つめの共通点は、承継を組織と事業の作り直しと捉え、それを担う人と、次の世代への渡し方を設計していることです。その設計は、後継者の選び方そのものに表れていました。

奈良の中川政七商店は、経営を創業家の外の14代目へ渡し、名を継ぐ時期と経営を渡す時期をあえてずらす二段構えで、血縁でなく事業を担える人へ渡しました。小田原の鈴廣かまぼこは、2025年の29年ぶりの代替わりで、会長・社長(長男)・相談役・名誉顧問と役割を肩書で分け、創業家内でも意思決定を急に集中させない形を選んでいます。どちらも、次の代がまた会社を変えられるように、渡し方そのものを設計している点で共通します。そして作り直しに要るのは、後継者だけではありません。販路を握るにはECやブランドを担う人が、事業を設計し直すには経営企画や管理部門の人が要ります。ところが、地方の中小企業がこうした専門職を採るのは簡単ではありません。本メディアの求人データを見ると、経営企画やデータ人材のような専門職は、そもそも地方に公開求人が薄く、相場も都市と地方で職種によって大きく違います。承継した会社が次の一手として専門職を迎えるなら、その相場感と地方での採り方を先に知っておくことが役立ちます。本メディアの採用市況では、経営企画をはじめ職種ごとに、相場・競合の状況・働き方別の選択肢を確認できます。

登場企業(補足)

鈴廣かまぼこ(神奈川・小田原/かまぼこ) 1865年創業、小田原で160年続く老舗。「老舗にあって、老舗にあらず」を軸に、風祭駅直結の「かまぼこの里」へ工場見学・博物館・体験・直営店・レストランを集め、来場者は年約100万人規模。業界全体の生産量が5分の1に縮む中で、売上を5倍に伸ばしました。

継いだ会社が、次に変えたこと

ここまでは、承継そのものに共通する型でした。外の視点で戻り、残すものと変えるものを分け、作り直しを人で支える。では具体的に、継いだ会社は何を変えて伸びたのでしょうか。取材をたどると、打ち手はいくつかの型に分かれます。

福岡の久原本家は、縮む醤油小売をOEMに転じ、大手が避けた「あごだし」のだしパック「茅乃舎」で直販比率を82%まで高め、売上を6300万円から318億円へ伸ばしました(販路)。岐阜の浅野撚糸は、他社が作れない糸「SUPER ZERO」を完成品タオル「エアーかおる」に翻訳し、累計1900万枚規模まで広げました(販路)。福井のマルカワみそは、有機と蔵付き麹菌など4つの軸を約30年かけて重ね、通販を売上の約半数まで育てました(販路)。群馬発の雪松は、冷凍餃子を1品に絞った無人販売で全国最大手になりました(販路。ただしピーク後は374店、さらに219店規模へ縮小)。新潟の玉川堂は、問屋依存を脱して直営主軸へ流通を切り替え、「燕三条 工場の祭典」で産地ごと開いています(販路・産業観光・海外)。

これらは承継企業だけのものではなく、地方でゼロから創業した会社にも共通する打ち手です。だから本シリーズでは、販路・産業観光・地域連携・海外展開といった打ち手を、承継と創業をまたいで各回で掘り下げます。次の5社は、その打ち手の代表として、この後の回で改めて登場します。

登場企業(補足)

久原本家(福岡・久山/食品D2C) 1893年創業の「村の醤油屋」。明太子「椒房庵」の9年の赤字をOEM事業のキャッシュフローで支え、通販会員の拡大が百貨店からの出店を呼びました。2025年には隈研吾氏が設計監修した銀座旗艦店「東京銀座 茅乃舎」を開いています。

浅野撚糸(岐阜・安八/繊維D2C) 1969年設立、体育教師から家業へ戻った2代目が継いだ撚糸メーカー。業界売上が7億円から2億円台へ縮む逆風の中で研究開発に資源を集中し、2023年には総事業費30億円規模の福島県双葉町の新拠点を稼働しました。

マルカワみそ(福井・越前/発酵食品) 1914年創業の有機味噌蔵。「経済価値より生命価値」を掲げ、2001年に北陸業界第1号の有機JAS認定を取得、約60年ぶりに蔵付き麹菌を復活させました。家族経営6〜8名規模で、製法と人の物語を書き込んだ通販を伸ばしています。

雪松(群馬・水上発/冷凍餃子) 1940年創業の中華食堂のレシピを、飲食未経験の甥にあたる外部経営者が別法人で引き継ぎました。本店は群馬に残し、法人は東京、製造は埼玉という三層構造で、無人餃子市場の約3割を占める最大手になっています。

玉川堂(新潟・燕/鎚起銅器) 1816年創業、鎚起銅器のメーカー。商社志望だった7代目が、負債を抱えた家業へ呼び戻されて流通改革に着手。LVMHの「KRUG」との共同開発や、200年の歴史で初めての女性職人の雇用など、技術は変えないまま経営と組織を更新しています。

まとめ:継ぐことは、変えることの起点になる

  • 事業承継は守りの話に見えて、会社を大きく変える起点になっています。継いで伸ばした12社には、承継そのものに固有の3つの共通点がありました
  • 後継者の多くは家業の外でキャリアを積んで戻り、その外の視点が、流通や商品の作り直しという具体の改革になって成果につながりました
  • 全部を変えるのでも守るのでもなく、残す軸と変える軸を分けて決めたことが、大胆な変更や危機からの再建を可能にしました
  • 承継を組織と事業の作り直しと捉え、世代交代の渡し方と、それを担う専門人材の採用を設計しました
  • 何を変えたかという具体の打ち手(販路・産業観光・海外など)は、このシリーズの各回で、承継と創業をまたいで掘り下げます

継いだ会社を、次にどう伸ばすか。この記事で見た打ち手を自社で具体化したい経営者・事業責任者の方へ。ローカルグローススタジオでは、CxO・VPクラスの人材が、事業成長のマーケティングに月4万円から伴走します。まず相談したい場合はこちらへ。

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この記事で取り上げた12社

それぞれの事例は、公開取材記事と公式発表を集約した全文記事で読めます。

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※ 本稿は各社・各団体の公開取材記事と公式発表を集約して整理したものです。対象への直接インタビューは行っていません。数値は公開取材時点の情報を引用しており、最新の情報と差異がある可能性があります。

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