グローススタジオレポート

成長事例シリーズ・テーマ5

地域連携のリアル|集客と雇用を「地域ぐるみ」で作った10の企業・団体に共通する打ち手

地方企業の成長事例シリーズ(全6テーマ)

これまでの回で繰り返し出てきた打ち手の一つが、一社の力だけでは届かない集客や雇用を、地域の複数の担い手と組んで「地域ぐるみ」で作ることでした。今回はその地域連携に絞ります。

承継した会社も、新しく興した会社も、伸びた会社の多くが、自社を売り込む前に、地域そのものを、訪れたい・買いたいと思われる場所に育てていました。本稿では、地方でその地域連携を成功させた10の企業・団体の公開取材記事と公式発表を整理し、地域ぐるみで価値を作る打ち手の型と、それが経営に何を返したのかを、承継企業も創業企業も地域組織もまたいで読み解きます。なお、本メディアは対象企業への直接取材は行わず、公開取材記事と公式発表を集約して整理しています。

型① 産地・同業でまとまって、地域ごと外に開く

最初の型は、一社で客を呼ぶのではなく、同じ産地や同業の担い手が組合や連合を組み、地域を一つのブランドとして外に開くことです。一軒の突出より、まとまった数の集客力が、寂れかけた産地や温泉地を全国区に変えました。

熊本・南小国の黒川温泉は、露天風呂を作れない宿を取り残さないために生まれた「入湯手形」を起点に、約30軒の旅館が組合として一つの温泉地を売り出しました。「街全体が一つの宿、通りは廊下、旅館は客室」という共通理念のもと、各旅館は1986年に約200本の看板を撤去し、景観を統一して、一軒の独自性より30軒の集客力を優先しました。1961年に6軒で始まった組合はいま約30軒、年間の入込客は推定100万人前後、宿泊客はおよそ30万人規模に達しています。1枚1,000円で始めた入湯手形は、加盟旅館の露天風呂から3軒を選んで入れる仕組みで、売上を組合に集めてから配分し、最も弱い立場の宿を支える設計になっていました。新潟・燕三条の玉川堂は、200年にわたり鎚起銅器(銅の板を鎚で打ち起こす工芸)を打ってきたメーカーですが、自社単独で客を呼ぶのではなく、2013年に始まった「燕三条 工場の祭典」に第1回から中核として加わり、産地全体で工場を一斉公開する形を選びました。地元経営者の「工場を開いて見てもらいたい」という思いと外部プロデューサーの企画が合流して生まれたこの催しは、初回の参加54社・来場約1万人から、2019年の第7回には参加133件・来場約5.6万人へ広がり、2013年から2022年の累計では参加200社超・来場27万人超に達しています。来場者が数日かけて複数の工場を回るなかで、玉川堂は鎚起銅器の打ち音を聞ける現場として体験されました。奈良の中川政七商店は、自社を製造小売へ転換しただけでなく、2009年から全国の工芸メーカーへ経営コンサルティングを始め、累計50社超を支援してきました。工芸メーカー向けの合同展示会「大日本市」で支援先の販路までつなぎ、縮む工芸業界を横につなぐ取りまとめ役に回っています。

一軒で目立つのではなく、産地や業界ごと外に開く。共通するのは、まとまった数の力で、一社では届かない来訪者や販路を地域に引き込んだことです。

登場企業(補足)

黒川温泉(熊本・南小国/温泉旅館の組合) 黒川温泉観光旅館協同組合は1961年に6軒で設立。新明館の3代目が10年かけて手掘りした洞窟風呂が評判の起点になり、1986年に入湯手形を発行、看板を撤去して景観を統一しました。2015年には最年少・女性初の代表理事が就き、2018年には旅館組合・観光協会・自治会の三者連携「黒川みらい会議」を立ち上げています。

玉川堂(新潟・燕/鎚起銅器) 1816年創業、200年以上鎚起銅器を打つメーカー。7代目が問屋依存を脱して直営主軸へ流通を切り替え、GINZA SIXの銀座店では内装の銅板400枚すべてを自社職人が手打ちしました。LVMHの「KRUG」との共同開発でも知られます。

中川政七商店(奈良/工芸SPA) 1716年創業、奈良晒300年の老舗。富士通の営業から戻った13代目が「日本の工芸を元気にする」を掲げて製造小売へ転換し、売上86.8億円・直営店約60・社員約600名まで育てました。2015年度のポーター賞を受賞しています。

型② 値がつかなかった地域資源を、地域商社が外へ売る

2つめの型は、それまで値のつかなかった地域の資源を、地域商社という担い手が束ね、外の市場に翻訳して売ることです。一次産品や、当たり前すぎて誰も商品と思わなかったものが、売り先とつなぐ主体を得て収入に変わりました。

徳島・上勝町のいろどりは、山にいくらでもある葉や花を「つまもの」(料理に添える彩り)として料亭に売る事業を、町・JA・第三セクターの三者で組み立てました。役場が住民との関係を、JAが生産者組織を、いろどりが料亭との関係を受け持つ役割分担で、70代が中心の生産者を「市場価格に振り回される供給者」から「注文を受けて出荷する事業者」に変えました。生産者ごとの出荷順位を毎日表示する情報システムが高齢の作り手の意欲を引き出し、約320種類のつまものでこの市場の約8割を占め、最盛期の年商は2億6,000万円に達しています。宮崎・新富町のこゆ財団は、町が旧観光協会を法人化して作った地域商社で、役場から出た執行理事と外から招いた代表理事が二人三脚で運営しました。ライチ生産者と組み、糖度と大きさで上位等級を規定した「新富ライチ」を1粒1,000円のブランドに再定義し、ふるさと納税の運営とブランディングを同じ財団のなかで回すことで、寄附額を2015年度の約2,000万円から2018年度の約19億円へ、3年で約95倍に伸ばしました。稼いだ資金は起業家の育成に再投資し、卒業生の移住と起業を町に呼び込んでいます。高知・四万十の四万十ドラマは、1町2村が出資して作った第三セクターで、「四万十川に負担をかけないものづくり」という基準を、生産者と組むときの判定軸にしています。地元の主婦が考案した「しまんと新聞ばっぐ」は、商品そのものより作り方の講座を売り、認定インストラクターは国内外で800名を超えました。2007年からは道の駅「四万十とおわ」を運営し、道の駅に集まる来訪者の反応を、流域の生産者への作付け提案に返す拠点にして、道の駅は年商約1.5億円規模に育っています。

資源はあっても、売り先とつなぐ主体がいなかった地域が、その担い手を自ら作った。共通するのは、地域商社が翻訳役と販路を引き受け、値のつかなかったものを続く収入に変えたことです。

登場企業(補足)

いろどり(徳島・上勝町/地域商社・つまもの) 1999年に町やJAが出資する第三セクターとして法人化。1986年、農協職員だった横石知二氏が料亭で着想し、自ら京都・大阪の料亭へ通って要件を農家に翻訳しました。2003年に町が日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を採択、2025年には移住者が2代目社長に就いています。

こゆ財団(宮崎・新富町/地域商社・地方創生) 2017年設立の一般財団法人。ふるさと納税の運営で稼ぎ、農業に特化したコワーキングや農業ロボットのAGRIST創業など、起業を町に呼び込む再投資を続けています。累計の寄附額は8年で100億円超(財団公式発表)。人口約1万6,400人の町です。

四万十ドラマ(高知・四万十/地域商社・道の駅) 1994年に1町2村の出資で発足、2005年に完全民営化。全国公募で唯一の常勤職員として入った畦地履正氏が2007年に代表へ就きました。「しまんと地栗」は宮崎・熊本の栗産地とも組んで商品化しています。

型③ 人・仕事・お金を、地域に呼び込む場を作る

3つめの型は、地域の外から人・仕事・お金を呼び込む「場」や「仕組み」を先に作ることです。産物を外へ売るのではなく、関わる人そのものを地域に増やし、その人たちが次の事業や雇用を生む流れを設計しました。

徳島・神山町のNPOグリーンバレーは、行政の外郭ではなく自ら動くNPOとして、芸術家を招く「アーティスト・イン・レジデンス」で培った「外から人を招く設計」を、企業のサテライトオフィス誘致に転用しました。町の側が欲しい職種を指名して空き家を貸す仕組みで、2010年のSansanを皮切りにIT・映像系の拠点が相次いで進出し、過疎地ながら社会増を記録しています。2023年には民間11社から約100億円の基金を集め、5年間の学費相当を給付する神山まるごと高専を開校し、初年度の入試は9.1倍の応募を集めました。福島・南相馬の小高ワーカーズベースは、原発事故で全住民が避難した町に、避難指示が解ける前から戻り、まず働く場所としてコワーキングを一つ置きました。地域おこし協力隊の制度とゲストハウス併設のコワーキングを組み合わせ、広告ではなく制度設計で全国から起業家を呼び込む形を作り、食堂・仮設商店・ガラス工房と、足りないものを一つずつ内側から生みながら、関連事業を20件超まで重ねています。神奈川・鎌倉のカヤックは、地域の企業経営者・行政・NPO・住民が月1回集まるコミュニティ「カマコン」を、自社の活動ではなく独立した地域の場として運営してきました。そこで得た知見を、使うほど人がつながる地域通貨「まちのコイン」や、地域と関わりたい人をつなぐ「スマウト」といった自社サービスに翻訳しています。まちのコインは2020年から全国20以上の地域で使われています。カヤックは、地域の経済・社会・環境の3つの資本を同時に増やす「鎌倉資本主義」を掲げています。岩手・花巻の雨風太陽は、「関係人口」(移住でも観光でもなく、地域に継続的に関わる人)という概念を軸に、全国の生産者と都市の消費者を産直アプリ「ポケットマルシェ」で直接つなぎました。出品を生産者本人に限り、購入後もアプリのなかでやり取りが続く設計で、登録ユーザーは2024年時点で約82万人・生産者約8,500人まで広がっています。日本航空と組んだ親子向けの地方留学ツアーや、2026年に開いた花巻の滞在拠点で、都市の人を地域へ呼び込んでいます。

産物ではなく、人そのものを呼び込む。共通するのは、外から関わる人を増やす場を先に作り、その人たちが次の事業と雇用を生む循環を、地域のなかに埋め込んだことです。

登場企業(補足)

グリーンバレー(徳島・神山町/地方創生NPO) 1992年発足の国際交流協会を母体に、2004年にNPO法人化。「創造的過疎」を掲げ、住民主体で移住者・企業・教育機関を呼び込んできました。2024年には移住者へ理事長を交代しています。町の人口は約4,600人です。

小高ワーカーズベース(福島・南相馬/地方起業支援) 2014年創業、2024年にOWB株式会社へ社名変更。「地域の100の課題から100のビジネスを」を掲げ、コワーキングから連続的に事業を興しています。2022年にICCのソーシャルグッド・カタパルトで優勝しました。

カヤック(神奈川・鎌倉/IT・地域事業) 1998年に大学同期3人で設立、2014年に上場。地域事業「ちいき資本主義」は2024年12月期の売上構成比5.9%で、前期比26.1%の成長。まちのコインとスマウトを全国へ広げています。

雨風太陽(岩手・花巻/産直・メディア) 2013年にNPO、2015年に株式会社化、2023年に東証グロースへ上場。「関係人口」を事業のKPIに据え、2050年に関係人口2,000万人を掲げています。ポケットマルシェの登録ユーザーは約82万人規模です。

まとめ:地域連携が経営に返したもの

  • 承継した会社も、新しく興した会社も、伸びた会社の多くが、一社では届かない集客や雇用を、地域の複数の担い手と組んで「地域ぐるみ」で作っていました
  • 産地や同業でまとまって外に開くことで、一軒の突出より大きな集客力を持ち、寂れかけた産地や温泉地を全国区に変えました
  • 値のつかなかった地域資源を地域商社が束ねて外へ売ることで、一次産品や見過ごされた資源を、続く収入に変えました
  • 人・仕事・お金を呼び込む場を先に作ることで、外から関わる人を増やし、その人たちが次の事業と雇用を生む循環を地域に埋め込みました
  • 地域連携が返したのは、一社の努力では届かない集客・販路・人材と、地域全体で価値を積み上げる持続性でした

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この記事で取り上げた10の企業・団体

それぞれの事例は、公開取材記事と公式発表を集約した全文記事で読めます。

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※ 本稿は各社・各団体の公開取材記事と公式発表を集約して整理したものです。対象への直接インタビューは行っていません。数値は公開取材時点の情報を引用しており、最新の情報と差異がある可能性があります。

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