成長事例シリーズ・テーマ2
地方創業のリアル|何もないところから会社を興して伸ばした10社に共通する打ち手
前回は、既にある会社を継いで伸ばした事業承継を扱いました。今回はその反対、何もないところから地方で会社を興し、伸ばした創業を読み解きます。継ぐべき家業もなく、引き継ぐ設備や顧客もありません。それでも地方から立ち上げて成長した会社には、始め方に共通の型がありました。
本稿では、地方で新規創業して成長した10社の公開取材記事と公式発表を整理します。産直プラットフォームからクラフトビール、衛星データ、知的障害のあるアーティストの作品まで、事業も規模もばらばらです。それでも、なぜ地方でゼロから始め、何を元手にし、どうやって資源を作って広げたのか、という順番はよく似ていました。この記事は「起こすこと」に固有の共通点に絞ります。継いだあと・興したあとに取る販路・産業観光・海外といった具体の打ち手は、このシリーズの各回で1つずつ掘り下げます。なお、本メディアは対象企業への直接取材は行わず、公開取材記事と公式発表を集約して整理しています。
共通点① 家業ではなく「問い」から始まった
最初の共通点は、事業が商機ではなく、原体験や地域の課題という「問い」から始まっていることです。継ぐ会社がない創業では、何を解くかを自分で決めるところが出発点になります。そして多くが、地方で目にした課題そのものを事業の起点にしていました。
盛岡のヘラルボニーは、重度の知的障害のある兄を持つ双子が、岩手の美術館で知的障害のあるアーティストの作品に出会ったことを起点に、その作品を「知的財産」として企業に提供するライセンス事業を立ち上げました。原画は作家の手元に残しデータだけを提供する仕組みで、過去2年でライセンス使用料の年間支払額は約8.7倍に伸び、2024年にはLVMHのイノベーションアワードで日本企業として初めて部門賞を受けています。兵庫県丹波市のサグリは、創業者がルワンダで「農業の生産性が低いために子どもが夢を選べない」現実に突き当たったことを起点に、衛星データとAIと区画技術を掛け合わせた農業向けサービスを興し、耕作放棄地の判定などで全国100以上の自治体に導入を広げ、2024年8月にシリーズAで約10億円を調達しました。岩手・花巻の雨風太陽は、県議・知事選を経て政界を引退した創業者が、被災地で「都市の消費者と地方の生産者の分断」に突き当たったことを起点に、食材付き情報誌と産直アプリを立ち上げ、2023年に東証グロースへ上場しています。熊本のファクトリエは、パリのグッチで働いた創業者が「日本には本物のものづくりブランドがない」という問いに突き当たったことを起点に、工場と直接つながるD2Cブランドを興しました。
起点は障害、途上国、被災地、海外での問いと、それぞれ違います。共通するのは、解くべき課題を自分で定義したことが、そのまま事業の芯になっていることです。
登場企業(補足)
ヘラルボニー(岩手・盛岡/アート・ライセンス) 2018年設立。社名は、知的障害のある兄が子どもの頃に自由帳へ繰り返し書いた造語です。契約アートは2026年時点で2,000点以上。アパレル・空間・ホテル・法人ライセンスへ広げ、2024年にパリへ子会社を設立しました。
サグリ(兵庫・丹波/アグリテック) 2018年創業。社名は Satellite(衛星)×AI×Grid(区画)に由来します。2024年に宇宙開発利用大賞の内閣総理大臣賞を受賞。インドやカンボジアなど海外展開も進めています。
雨風太陽(岩手・花巻/産直・メディア) 2013年にNPO、2015年に株式会社化。産直アプリ「ポケットマルシェ」の登録ユーザーは、コロナ下で約5万人から23万人へ急増し、2024年時点で約82万人・生産者約8,500人まで拡大。「関係人口」を事業のKPIに据えています。
ファクトリエ(熊本・熊本/D2Cファッション) 2012年設立。実家は熊本の老舗洋品店で、家業を継がず別法人を立ち上げました。商品タグに製造した工場名を明記する発信で、衰退傾向の国内縫製業に雇用を生んでいます。
共通点② 業界の常識を外す「仕組み」を元手にした
2つめの共通点は、独自の技術そのものより先に、業界の常識を外した「仕組み・モデル」を元手に据えていることです。何を作るかより、どういう構造で回すかを先に決めていました。
福井生まれの創業者が京都で興したマイファームは、耕作放棄地を借り、都市住民に区画で貸し直すという仕組みを最初に設計しました。地権者は賃料を得て、利用者は野菜づくりを楽しみ、会社は運営手数料を得る。三者に便益が同時に回る構造です。第1号農園は約1,000平米・初年度売上約160万円という小さな出発から、体験農園は現在120カ所以上に広がっています。京都の坂ノ途中は、商品ラインナップより先に「どんな農家から、どんな条件で買うか」という仕入れの規範を固定しました。化学合成農薬・化学肥料を減らし、少量多品目で規格外も買い取る。この規範が、既存の流通に乗れなかった新規就農者の受け皿になり、提携農家は全国400軒以上、その8割以上が新規就農者か有機の少量多品目農家です。盛岡のベアレン醸造所は、奇抜さで勝負するのではなく、ドイツで100年以上飲まれてきた伝統的なスタイルを、ドイツから買い付けた100年級の設備で忠実に再現するという逆張りを元手にしました。鳥取・智頭のタルマーリーは、商業ベーカリーの常識である純粋培養菌を意図的に使わず、空気中や原料から採る野生の菌だけで醸すという製法を差別化の芯に据えています。
新しい農地の使い方、仕入れの規範、伝統の忠実な再現、菌を買わない製法。どれも、その業界で当たり前とされてきたやり方を一度外したところに、独自の立ち位置を作っていました。
登場企業(補足)
マイファーム(京都・京都/体験農園・アグリ) 2007年創業。人材は採用でなく、社会人向けの農業学校「アグリイノベーション大学校」で自前育成し、卒業生は13年で2,400人超。2023年に上場した一方、2024年には上場廃止を選ぶという異例の判断もしています。
坂ノ途中(京都・京都/有機野菜D2C・コーヒー) 2009年創業。社名は「持続可能性に向かう坂の途中にいる」の意。第2の柱として、ラオスやエチオピアの山岳地域の小規模農家と長期直接契約する「海ノ向こうコーヒー」を育てています。
ベアレン醸造所(岩手・盛岡/クラフトビール) 2001年設立。キリンや協和発酵を経た2人が、盛岡での縁で独立しました。県内65%・県外25%・イベント10%と地元基盤を優先する構造を公開し、雫石町に年間約500キロリットルの第2工場を新設。毎年のオクトーバーフェストは県内外から約2,000人規模が集まります。
タルマーリー(鳥取・智頭/パン・地ビール) 2008年に千葉で創業。良い水と野生の菌を求め、千葉から岡山、鳥取へと移住を重ねました。ビールの一次発酵の澱をパン酵母に使う循環を組み、著書『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』は国内2万部。規模拡大を追わず、思想として言語化する道を選んでいます。
共通点③ 資源を「自分で作り」、内側から広げた
3つめの共通点は、資金・人・信用・最初の顧客といった資源を、既存の調達に頼れないぶん、自分で作っていることです。ないものを外から買うのではなく、内側から生み出して広げていました。
鎌倉のカヤックは、株式会社設立に必要な資本金を用意せず、3人で1万1,000円ずつ、資本金3万3,000円の合資会社として始めました。足りない採用力は、全社員の名刺に「人事部」と刷る「ぜんいん人事部」や、賞与をサイコロの目で決める「サイコロ給」といった独自の人事制度で補い、採用コストを約4割下げています。福島・南相馬の小高ワーカーズベースは、原発事故で全住民が避難した町に、避難指示が解ける前から戻り、まず働く場所としてコワーキングスペースを1つ置きました。そこから、食堂、仮設商店、ガラス工房と、足りないものを内側から1つずつ生み、外部との連携で信用を取り込みながら、関連事業を20件超まで重ねています。
資本金を最小にして始める、人事制度で採用力を作る、働く場所から順に事業を生む。共通するのは、最初から潤沢な資源があったのではなく、資源そのものを事業の一部として作り出したことです。共通点①②で見た会社も同じで、ファクトリエは全国の工場へ電話とタウンページで一軒ずつ営業して提携先を2社から61社に広げ、工場が望む価格の2倍を小売価格とする値付けで職人への単価を2倍以上に引き上げ、サグリは自治体の「導入第1号」を積み上げて信用を作りました。
登場企業(補足)
カヤック(神奈川・鎌倉/IT・ゲーム) 1998年に大学同期3人で設立。2014年に上場し、2025年12月期の売上高は200.9億円。地域では「鎌倉資本主義」を掲げ、コミュニティ通貨「まちのコイン」を全国20以上の地域へ広げています。
小高ワーカーズベース(福島・南相馬/地方起業支援) 2014年創業、2024年にOWB株式会社へ社名変更。原発事故で全住民が避難した小高で、コワーキングから連続的に事業を興し、「地域の100の課題から100のビジネスを」を掲げています。
興した会社を、次にどう伸ばすか
ここまでは、創業そのものに共通する型でした。問いから始め、常識を外した仕組みを元手にし、資源を自分で作る。では、興した会社をどこまで、どう伸ばすのか。取材をたどると、道筋はいくつかに分かれます。
雨風太陽やカヤックは株式市場から資金を集めて上場し、サグリやヘラルボニー、坂ノ途中は海外へ市場を広げました。一方で、規模の拡大だけを目的にしない判断もあります。タルマーリーは拡大より思想の言語化を選び、マイファームは一度上場したのちに上場廃止を選んでいます。伸ばし方は一様ではなく、どの打ち手を取るかで結果が変わります。販路・産業観光・地域連携・海外展開といった具体の打ち手は、承継と創業をまたいで、このシリーズの各回で掘り下げます。
まとめ:ないところから始めた会社に共通したこと
- 地方でゼロから興して伸ばした10社には、始め方に3つの共通点がありました
- 事業は商機ではなく、原体験や地域の課題という「問い」から始まっていました
- 独自の技術より先に、業界の常識を外した「仕組み・モデル」を元手に据えていました
- 資金・人・信用といった資源を、既存の調達に頼らず、内側から自分で作って広げていました
- どこまで伸ばすかは一様でなく、上場・海外もあれば、規模を追わない判断もありました。具体の打ち手はシリーズの各回で掘り下げます
地方で興した事業を、次にどう伸ばすか。この記事で見た打ち手を自社で具体化したい経営者・起業家の方へ。ローカルグローススタジオでは、CxO・VPクラスの人材が、事業成長のマーケティングに月4万円から伴走します。まず相談したい場合はこちらへ。
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それぞれの事例は、公開取材記事と公式発表を集約した全文記事で読めます。
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※ 本稿は各社・各団体の公開取材記事と公式発表を集約して整理したものです。対象への直接インタビューは行っていません。数値は公開取材時点の情報を引用しており、最新の情報と差異がある可能性があります。